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鳥たちが連れて来る

私は日曜の朝のETVの「こころの時代」をよく見ています。リアルタイムで見ることもあるし、録画を見たり、翌土曜の再放送の場合もありますが。
先週は長谷川時夫さんの「月がささやき 石が吠える」というもの

長谷川氏のことは全く存じ上げなかったが、番組内で「タージ・マハル旅行団」の紹介があり、少し記憶のどこかにあったのに気が付きました。とても良かったので図書館で氏の著書「宇宙の森へようこそ」を借りたところ、この番組の内容に重なっていました。どうもNHKの方がこの本をなぞって番組を作ったのかなと思うくらいです。でもそのおかげで番組で聞いた話を再確認しながら読むことが出来ました。この本も素晴らしい。

自由人とはこういう人なのかと感動を覚えました。番組でも一部重なっていましたが、本の中でこんな一文か。

音世界

ここの森に初めて雪が訪れるのは10月の末から11月にかけてだ。そのまま根雪になる年もある。
僕が森に入った最初の年の冬、雪が降ったとたんに音世界が変わってしまったのに驚いた。
初雪で、しかもたくさん降った時はまだ雪も湿っぽく重たいせいか、あちらこちらで枝が折れる音が聞こえる。鳥たちは喜んでいるのか驚いているのか、あちこちの木の陰に忙しそうにとまり歩いている。
根雪になるようなドカ雪が降ると、森の楽器は雪に埋まって鳴らなくなった。
雪というのは音を吸い込むといわれているが、冷えた晩には音をはね返し、音が静けさの中をすべっていく。
吹雪になると、雪を持ちあげてはそれをどこかへぶつけていく音が聞こえる。荒れれば荒れるほど、空間をのたうちまわるようなすさまじい音楽が奏でられる。そんな時、たくさん着こんでじーっと壁のすき間に耳をあて吹雪を聞いていた。こんなに素晴らしい音楽があるのに、どうして人間が音楽を作る必要があるのだろうか。音楽家は人間の耳をだめにしているんじゃないだろうか。自然界の音がこれほど素晴らしいのに、まるでそれを聞く耳をなくそうとするかのように人工の音楽があふれている……。そんなふうに思いながら、いく日も何か月も森の音を聞いていた。

ここで長谷川氏の「雪というのは音を吸い込むといわれているが、冷えた晩には音をはね返し、音が静けさの中をすべっていく。」と言われていますが、番組では「あまりに静かなので山の向こう側の音がすぐ近くまで聞こえてくる」と言われていました。
私は雪国で住んでいるわけではないので、かつて山登りをしていた時、雪山のテントの中での記憶にそれを求めるのですが、確かに長谷川氏の言われる通り。雪の静寂さと鏡面のような音の伝え方、分かるような気がします。

さて「こころの時代」その次の回もまた素晴らしかったです。「カムイエロキ 神々が鎮座するところ」
アイヌの神々への祈りの神事です。

この儀式、もちろん現地で見たことはないのですが、この番組で見る限りどこか懐かしい感じを持ちます。
番組の最後に紹介されたのは、梅原猛氏がかつてこの儀式を見て語った言葉「アイヌは土着の日本人であり、アイヌの宗教や世界観は、日本文化の根底をなしている宗教や世界観である」というものは甚だ納得できるものでした。

恐らく日本の宗教・世界観の原点はアニミズムであり、それはそれぞれの地域、集落で共通な所もあり、また独特、固有なものでもあったと思います。ですから各地の祭りで残る独特なもの、違いというのはその残滓といえなくもないでしょう。
そんな百花繚乱ともいえる宗教儀式、世界観を統一、中央集権化、一元化しようとしたのが大和朝廷であり、伊勢神道だと思います。
でもヤマト王権は3世紀ごろ成立と言われていますから、たかだか1700年程度のもので、仏教と繋がったのは600年くらいで、それにより統一化を強化していますから、アニミズムの歴史に比べるとわずかな期間に過ぎないと思いますし、アニミズム的な世界観は統一に向かっていったとしても、その頃はまだ津々浦々に満ち満ちていたのだと思います。

このカムイエロキという形で私たちに披露していただく中で、私のご先祖がどこにいたかはわかりませんが、なんとなく多様な世界観とどこか根底で繋がっているものを感じて厳粛な感じを受けたのです。

京都のお祭りや、東京のお神輿のような祭りはイベント風で、氏子の神に対する姿勢は見えるものの、神そのものの存在をあまり感じません。それよりも私はこちらの方が好きです。

タイトルの「鳥たちが連れてくる」は長谷川氏の本の「森の朝は鳥たちが連れて来る」からです。「朝というのは太陽が昇るからではない。森の朝が始まって、太陽が追いかけてくるのだろう」とありました。朝太陽が昇る前から鳥たちが鳴き始め、それが森のあちらこちらの鳥の声に広がり、その後ようやく山の向こうが明るくなり…という光景ですね。

カムイエロキで使われる「イナウ」と呼ばれる木幣があります。柳の木から作られたものが番組では登場しました。イナウは儀式では鳥としてそれぞれの神のもとに行き来する伝令のようなものと言われていました。まさに鳥たちが神を連れてくるのです。

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