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お膳をひっくり返す

今月の文学界の冒頭「モダン・ジャズ以前のジャズについて聞く」という村上氏の対談にこういう箇所があった。

「ビバップはそれ以前のジャズとどういうところが違ったとお考えですか」という質問に対して村上氏は

「もうすべてが違います。リズムが違うし、コードが違う。どう喩えればいいのかよくわからないけど、クラシック音楽の歴史にストラヴィンスキーの『春の祭典』が突然出てきたみたいなドラスティックな転換、全部のお膳をひっくり返したような感じになった。ビバップ革命というのはやっぱりすごいもんだったと僕は思います。
それまでのジャズというのは踊るための音楽だったんです、(中略)だけど、ビバップは踊れないですからね。踊れない音楽というのは一つの革命だったと思う。」

なかなか面白い指摘だし、頷けますね。しかし私はストラヴィンスキーの有名な「春の祭典」のパリのシャンゼリゼ劇場での初演の転換点の時

は生まれてもいないし、パーカーやディジーが生み出したビバップも1940年代半ばなので、この転換点も生まれていない。

ジャズじゃないけれどブルースロックからの大きな転換はジミ・ヘンドリックスとビートルズの登場だったと思う。ザ・ジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンスは1966年、ビートルズは1962年だからこの転換点では生まれてはいたけれど、まだお子ちゃまだから中学生になるまで耳にすることもなかった。

つまりこの3つの転換点は自分にとってはとっくに起きていたことで、もしこの時に聞いていたら、シャンゼリゼ劇場で罵声を浴びせていたのか、ビバップに嫌悪感を感じていたのか、ジミヘンの音に耳をふさいていたのかもしれない。いずれも「いいじゃないか」と聞けるのはその前、あるいはその時を知らないからじゃないだろうか。
もちろん様々な音楽は生まれてきたからいくつも「小さな転換点」はあったろうと思う。「大きな転換点」か「小さな転換点」かは多分その時にはわからず、後世振り返ってそうだった、流れが生まれたなと思うのだと思います。

で、果たして私は今後こういう音楽的な「大きな転換点」に立ち会えるのだろうか?「お膳をひっくり返す」ような衝撃を感性が捉えることが出来るだろうか、と常々思っていたのです。

私はよくラジオで音楽番組を聞きますが、先日山中千尋氏の「Jazz Reminiscence」という番組を聞いていて衝撃を受けました。
毎回一つのアーティストのアルバムから聞かせてくれる30分番組なのですが、今回は全く聞いたことのない、DOMi & JD BECKという二人の「NOT TiGHT」というアルバムでした。二人+色々なアーティストが参加してのアルバムとのことでしたが、DOMi & JD BECKとはキーボードのドミと、ドラムスのJD・ベックという二人のユニットでなんとそれぞれ22歳と19歳といういわゆるZ世代というやつですわ。これがまた凄いプレイで圧倒されるのです。「NOT TiGHT」は探して聞いてもらうとして、ライブMVはこちら

そうお二人とも若い女性なんだよね。これ見るまで女性とは知らなんだから、いい音楽に男女は関係ないということですわ。

そしてこの「NOT TiGHT」を聞いていて「あれっ、これ聞いたことがあるかも」と思ったのは「WONK」ですわ。彼らはExperimental Soul Bandと自称しているように、どこかのジャンルというわけではない、極めてユニークな音楽を作っている。こちらも深夜ラジオで耳にして、ビックリした記憶が鮮明にあります。

もしかしたらこの二つのバンドはこの時代だからこそ生まれた、新たな転換点なのかもしれない。それが「小さな転換点」なのか「大きな転換点」なのかわからないが、その兆しに出会った感じをもつのです。

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