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新型コロナと戦い抜いた『仮面ライダーセイバー』

令和ライダー二作目、『仮面ライダーセイバー』が完結した。
『セイバー』の悪口なら10や20は即座に思いつくほどつまらなかったが、この作品の肝は「コロナ禍の中で無事に完結したこと」だろう。
どこがダメだったのかあげつらっても詮無いこと。一ライダーファンとしてはとにかく、無事に終わったことを讃えたい。

第1章 はじめに、三密を避けよ。

新型コロナウイルス感染症を防ぐために、三密を避けなければいけない。しかしこの三密を避けるというのは、ヒーロー番組とはとにかく相性が悪い。
群衆の応援を背に受けて戦ったり、顔を突き合わせて感情をぶつけ合ったり、なにかと飛沫の飛ぶ場面が多い。
もちろんキャストだけでなく、撮影現場に人が立ち入らないようにしたり、仕出し弁当を用意したり、爆発の後片付けをしたり、大勢の関係者が入り乱れるだろうことは素人にも想像できる。
そこで『セイバー』では、ロケのたびに大人数で移動するのなら、ロケ自体を減らそうとする工夫が随所に見られる。その最たる例が、特に序盤で顕著だった合成シーンを増やした点だ。

テクノロジーが社会に与える影響を描いた前作『ゼロワン』と対照的に、『セイバー』はファンタジー色が強い。そこで世界観を確立させる序盤では異世界描写をCGで描き、そこにキャラクターを合成するシーンを多用した。おそらく、従来であれば序盤に登場する”CGの巨大モンスター”の枠を、異世界の映像に持ってきたのだろう。
企画の段階では新型コロナなど見つかっていないだろうから、この基本設定がどこまで意図されたものかは分からない。が、少なくとも演出的には「ロケが一切できなくなった」という『ゼロワン』終盤の悪夢が強く影響しているだろう。

来るべき環境の変化に備えて、ロケでの撮影は最小限にして(略)ロケができなくなった場合でも作品を作り続けることを模索し、そのために今できることを最大限盛り込んでいます。

こうした新技術による新しい映像は、特撮ファンとしては見応えがあった。平時であれば、『鎧武』のヘルヘイムの森ようなアナログ異世界になった可能性も大いにあっただろう。

合成といえば、変身~戦闘~必殺技の一連のシークエンスで、従来のシリーズと比べてバンクを多用していた点も『セイバー』の特徴だ。
『キバ』や『ゴースト』でも同様にバンクを使用していたが、『セイバー』の特異な点は変身前の役者を含めてバンクにしていたことだ。(衣装は変わっていたため、厳密に言うとバンクとは異なる)
これも最悪の場合を想定した演出だろう。ロケができなくなっても、役者の衣装を過去エピソードと合わせれば、既存の映像を流用すれば形にはなるという見込みだったのではないか。
面白いのは、バンクに突入する際に本のページがめくれるエフェクトが挿入され、合成シーンへのツナギになっている点だ。『セイバー』独自の設定を活かした、うまい演出だと思う。
こうやって盛り上がる場面をコンパチ化することで、ロケでは間を埋める場面を撮影するだけで済ませる。現地での撮影を極力減らすための知恵と努力の結晶だろう。

第2章 迫力のアクション、雰囲気ありて。

『セイバー』に登場するライダーは、甲冑のような姿にドラゴンやライオンといったファンタジックな要素を加えたデザインになっている。
剣を振るう動きに合わせて、体の各部から生えるトゲトゲがシルエットを変え、マントなどのヒラヒラが勢いを感じさせる。肉弾戦が主体ならシンプルなシルエットのほうが体の動きがわかりやすいだろうが、セイバーたちは剣士という設定ならではのチャンバラ映えするデザインだった。
剣を使ったアクションも、ヒロイックな動きのセイバーを中心に、剣をクルクル回すブレイズや剣を掲げるように構えるエスパーダなど、個性豊かな動作の数々が決まっていた。長物を振り回す殺陣は東映のお家芸でもあり、いつ見ても見事である。
ここに各ライダーの属性を踏まえたエフェクトを加えて、ファンタジー要素を強めていく。炎や雷といった定番のものだけでなく、最光エックスソードマンのコミック演出や、体を煙にするサーベラや時間を操作するデュランダルの能力、プリミティブドラゴンの腕を伸ばした攻撃など、剣にとどまらないエフェクトの数々は非常に派手で、ゲーム的な楽しさがあった。
もちろん、1話目のソードライバー出現時の本物の炎や、タテガミ氷獣戦記初登場時のエコスノーやドライアイスを使った冷気など、CGの合成だけではない特撮映像の数々は、非常に見応えがった。

アクションのエフェクトに加えて、盛り上がる場面での雰囲気作りに力を入れていたのも『セイバー』の特徴だろう。
ドラゴニックナイト登場前後の盛り上がりや、プリミティブドラゴン登場時の鬼気迫る迫力、デザストと剣斬の決着など、シリアスな場面で盛り上がっている空気感を全力で出してきた。

今回は窓から強い光を流し込み、時には逆光で人物のシルエットだけになるようなこともいとわず陰影をつけて、蓮とデザストの気持ちを印象づけてくれました。
そしてその光をより効果的に見せるためにスモークマシーンを使って煙をためて、照明の光線をわかりやすく、そして雰囲気を出すためにも利用したのでした。

⇧などは、逆光にすれば名作感が出せるという見本といえるような回である。

こうした、ややもすれば過剰にもなりかねないような演出だが、もともとのファンタジー路線の世界観とマッチしていたし、ストーリーの無さを上手く補っていたため、とても楽しめた。

第3章 犠牲になりしは、面白さ。

『セイバー』がつまらない理由は二種類ある。コロナ禍でやむを得ないものと、コロナ禍と関係ないものの2つだ。

前作『ゼロワン』では、緊急事態宣言の発令に伴って終盤の展開に大幅な調整が発生してしまった。結果としてどうにか完結できたとはいえ、あの当時の状況から考えれば、続きを制作できないまま放送期間を過ぎて未完になる可能性も十分あっただろう。
そこで『セイバー』では最悪の事態を想定し、「とりあえず制作を続けられるようにする」ことが求められたと思われ、設定面でもその工夫が見られる。

従来のシリーズでは「ゲストキャラクターの抱える問題が怪人を生む原因になる」という設定がよく使われた。『電王』から登場して平成二期で定番化した宿主パターンだが、これは「ゲストから発生した怪人が平和を脅かす」→「怪人と戦うことで宿主の人間を助ける」→「人々を助ける積み重ねで世界を守る」というロジックで、毎週のバトルと世界を守るというお題目を両立させていた。

ところが、三密を避けるうえでゲストを出しづらくなったため、『セイバー』では幹部が直接怪人を作ることになった。ゲスト周りの描写が無ければロケも省けるわけで、理にかなっているといえる。
しかし苦しめられる人々の姿がなくなると、世界の平和を守るという理念が途端に絵空事のようになってしまう。被害者の苦しむ姿を見ないと、悪に対する怒りは湧きづらいものである。中盤では従来の宿主パターンも描かれたが、わずかな間のみの例外だ。
世界と異世界を混ぜたり、世界が消滅したり、言葉として大変なことが起きていることは分かるのだが、どうにも上滑りしている感は否めない。最たる例が、マスターロゴスが全世界に向かって戦争をするように呼びかけた場面の滑稽さだ。個別具体的な被害の描写が無いまま一足飛びに世界の危機を訴えても、心には響かない。

この点の弱さは当初からの課題だったようで、『セイバー』ではこれを補うために「父親が悪のライダーだった」「本当は先代が悪のライダーだった」「友達が悪のライダーになった」「幼馴染が悪いやつに狙われている」などなど、レギュラー陣同士の関係性でストーリーを作っていた。
仲間内で完結する因縁話自体が悪いわけではないし、従来のシリーズでもそうした内輪もめはまま見られた展開だが、個人の話と世界の話をつなぐ中間がほとんど描けない現在の状況を踏まえても、『セイバー』のストーリーが上手かったとは思えない。
中間を出せないのなら、いっそ割り切ってセカイ系にしてしまう手もあっただろうが、飛羽真たちライダーは世界を守るという言葉を頑なに繰り返す。ソードオブロゴスとしての職業倫理はまだ分かるが、要たる飛羽真が戦う動機が最後まで曖昧だった。セイバーに変身できる理由やルナを巡る因縁や小説家設定などの各要素と、世界を守ろうとする強烈な使命感とが結びつかない。
コロナ禍とそれに伴う緊急事態宣言で混乱していた序盤であれば方向性を決めかねるのも当然だろうが、コロナ対策がダレてきた時期の後半でも特に変わらなかったのは、なんだかなぁというのが正直なところだ。

それから、コロナ禍と関係ないつまらない理由は単なる悪口になるので、割愛する。

第4章 玩具ラインナップと、迫る不安。

『セイバー』関連玩具に、特筆する点はない。例年通りの小型アイテムと変身ベルトの組み合わせだが、メイン武器を兼ねている点が珍しいといえば珍しい。従来の主人公ライダーの武器の枠をサブライダーの武器兼変身アイテムとして訴求力を高めた他、その後のパワーアップ用の小型アイテムを出していく流れは例年と変わらない。

今年のアイテム「ワンダーライドブック」は、単体で「鳴る」ほかに、固有の「タグ」を内蔵しており、「聖剣ソードライバー」の剣側がそれを非接触で読み取って変身音や必殺技音を発動させるというギミックです。
非接触の不思議さの一方で、物理的な「抜刀」という、勢いのあるいじり方ができる、直球の楽しさが感じられるものになります。

『オーズ』のころは感動した非接触認識タグだが、10年も経てば目新しさは薄れる。音声の豪華さや抜刀ギミックの楽しさなどはあるものの、飛電ゼロワンドライバーの「認証したプログライズキー以外では変身できない」ような技術的なストーリーを感じさせるこだわりは無く、単に技やアイテムの組み合わせが多いだけという印象だ。

それよりも気になっているのは、アクションフィギュアのほうである。
RKFシリーズでは前半の主要ライダーのほか、強化フォームはドラゴニックナイト+クリムゾンドラゴン、キングライオン大戦記しか発売されなかった。
最光セットが出たのを最後に、サーベラやデュランダルなどの後半から登場ライダーやボス格の敵ライダー、エレメンタルプリミティブドラゴンやタテガミ氷獣戦記といった強化フォームはおろか、ほぼ金型を流用できそうなクロスセイバーすら出なかった。
そして、次回作『リバイス』では、アクションフィギュアのブランド名からRKFの文字が消え、「リバイスリミックスフィギュア」となっている。
これはどうしたことだろう?

RKFシリーズは『ジオウ』とともに始まり、現行作品と過去作品が並行して販売された。レジェンドと共演する『ジオウ』の設定もあり、初期は直近のレジェンドである『ビルド』『エグゼイド』などが発売。レジェンドライダーが同一ブランドで出ることが、RKFのウリの一つであった。

フィギュアの新ブランド「RKF(ライダーキックスフィギュア)」!!
全身16カ所可動で思いのままに決めポーズが決まる!
「ライダーアーマーシリーズ※」と「レジェンドライダーシリーズ」の2つのシリーズで展開します。
※ライダーアーマーシリーズは『ジオウ』のみ。

うろ覚えだが、RKFのコンセプトは従来のアクションフィギュアよりもサイズを小さくして、変形や組み換えなど特殊なギミックを廃して価格を下げることだったと思う。コストを下げることで、劇場フォームのような従来は商品化されてこなかったマイナーなものまで同一フォーマットで出せるようにしていると、どこかの雑誌で読んだ気がする。(自信なし)

しかし、『W』の全ライダーを出したあとオーマジオウを2020年7月に出してから、レジェンド枠は音沙汰がない。
てっきりコロナ禍に入ったのでレジェンドを控えているの思っていたが、現行作品の『セイバー』すらストップしているところを見ると、そもそもRKF自体を畳んでいるのではないか?

というのも、『セイバー』後半に出たフォームは、そもそもフィギュアを前提にしたデザインには見えないからだ。
タテガミ氷獣戦記のモサモサの髪の毛はまったくアクションフィギュア向きではないし、プリミティブドラゴンからエレメンタルプリミティブドラゴンへのパワーアップも共通部分がほぼ無いためフィギュア的なパーツの付け替えを想定したデザインには見えない。ソロモンやストリウスに至っては、最初から商品化を想定してなさそうだ。
思い返せば、RKFはいつも玩具売り場の一角に並べられたまま、どんどん値下げされていった。……実はコロナ禍とは関係なく、当初からRKFは終わる予定だったのではないだろうか?

想像するに、大人向けトイではレジェンドライダーの活用が好調のため、子供向けで同様のコンセプトのRKFシリーズを作り、レジェンドと共演する『ジオウ』に合わせてリリースしたのだろう。
だが、変形や組み換えのようなギミックが無い、ただ手足が動くだけのフィギュアは子供への訴求力が低く、さらに過去作品の派生フォームは認知度も低かったのではないか。加えて、『ゼロワン』では玩具ギミックとしてゼロワン初期5フォームとアークワンにパーツ換装によるフォームチェンジギミックを持たせたが、パーツが細かいため遊びが煩雑になってしまう。
そこで『セイバー』では(ほぼ)全ライダーに何らかのギミックを搭載。『ゼロワン』同様のパーツ換装の他、サブライダーには簡易的なフォームチェンジとして腕交換や変形ギミックを持たせるたものの、当初から『セイバー』後半のライダーはRKF化の予定が無かったため、アクションフィギュア向きではないデザインにしたのではないか。
『リバイス』ではアクションフィギュアを仕切り直して、2体が合体する遊びやすいギミックを搭載。小売店でいつまでも売れ残っていたRKFの名称は廃止してイメージを刷新。……といったストーリーだろうか?
もちろん特に根拠の無い想像ではあるが、大人目線で見るとカッコいいポーズが決まるフィギュアのほうが魅力的に思えるが、子供受けがいいのはシルエットが大きく変化する変形や組み換えのようなギミックなのかもしれない。

とはいえ、レジェンドライダーという強力な資産を子供向けのアイテムに使わなくなるわけではない。レジェンドライダーの変身ベルトは今も続いているし、『リバイス』は『ゼンカイジャー』のような方式で各フォームにレジェンドの意匠を取り入れている。ストレートなアクションフィギュアが出なくなっただけであって、今後も手を変え品を変えて、RKFのポジションの2,000~4,000円程度の中価格帯を狙ったレジェンド玩具が出てくることを期待したい。

個人的には現行ライダーとレジェンドライダーを絡めやすいアクションフィギュアというコンセプトは良かったと思っている。ただ、作品ごとの商品数を増やすのは良し悪しかな、と。
派生フォームを出して金型を流用できるのは大きなメリットだが、じゃあ子供が自分の生まれる前の見たことがない作品の3号ライダーまで欲しがるか?というと疑問だ。例えばGUNDAM UNIVERSEのように、まずは主役ライダーを出しつつ、徐々にサブライダーも補完していくくらいのペースのほうが食指が動いたように思う。
あるいは、レジェンドのアクションフィギュアはさらに低価格帯の食玩で出す方法もあるだろう。(SHODOやSO-DO CHRONICLEは対象年齢15歳以上なので子供向けではない)
もっとも、繰り返しになるが特に根拠の無い想像である。あれこれ偉そうに講釈垂れたが、野球中継を見ながら「なんでソコで打たねぇんだ!」とテレビに話しかけるような、単なるヨタ話と思って流していただきたい。

最終章 そして続く、仮面ライダー。

何はともあれ、『セイバー』も無事に完結した。例えどれほどつまらなくても、コロナ禍という未曾有の危機の中にあって一度の休止も無く1年間放送し続けたという実績は、素晴らしいことだ。
未曾有の危機に陥ってもその努力と創意工夫によって撮影した映像は、ストーリーを超えて見る人の心を打つ。前例の無い事態の中、手探りで模索し続けて感染症予防と毎週の放送を両立させたノウハウは、掛け値なしの宝である。逆境の中でも負けず、折れず、戦い続けたセイバーは、まさにヒーローだ。
『セイバー』がきちんと完結したという事実は、仮面ライダーが今後も続いていく上で大きな希望になる。
願わくは、続く『リバイス』はストーリーも面白くなりますように。

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