第7回塔新人賞応募作

栗木京子先生と小林幸子先生に1点ずつ頂いて計2点という結果でした。塔本誌に選考委員短評が掲載されているのでよければそちらもご高覧ください。


   白に棲む

まだだれもいない学校スズカケの樹々を立たせる美徳のありて

脚ほそき教師が夢を問いてきぬ一時限目の葉かげのうすさ

たましいをいたわるごとく生物のノートの端のよじれを直す

長月に進路決まりにき 決める、より水底浅いあかるさのうち

くるぶしの先を影へと差し入れて宿題をせぬ言い訳をせり

ぺっとりと机に置きし『青い麦』これから午前が伏してゆくとき

顕微鏡くみ立てるごとやすらかに君に明日の予定を問いぬ

くちびるを上から順に舐めていきすこやかであることとあきらめ

教科書の子規の文体 友のつく嘘に写生の鳳仙花咲く

あめからもあめ上がりからもとおのいて一人の時に消しゴム拾う

血球の融け合うような陽だまりの欄干、煮崩れている偏差値

ピアノソナタ14番をふたり聴く性の匂いのしない真昼に

日焼けせる校旗に空っ風が吹き午睡に夢をみたことがない

てのひらを冬の真水に濡らしめて乾くまでには戻れよ、君に

訳文が四行目から五行目にうつれば右にワックス匂う

ことごとく友が進学することの体育の授業休んでしまう

月を見る角度に君が見上げたるゴールリングの正しい高さ

パスを言う声のわずかな裏声の君の水泉ゆらめいている

完璧な放物線にボール来るいつもたいした祈りはなくて

数式の解き方を乞う両眉は叙情のやさしさに垂れており

答案にみっしりと文字うずめつつ幸福ならば不幸ではない

相槌のつかのま君は俯いて三白眼の白に鬼棲む

カーテンは放課後ふかく昏みたりわたしに不感症みちるころ

昼月のちいさく硬くひとつなりひとの覚悟はしだいに病んで

二人称からがわたしだ枯れ蔦の渡り廊下にふりむいている

深爪のもののあわれがそこにいて横目に君に購うココア

吸うときの息はとうめい 少子化の話もそよ風も聴いている

死ぬのにも必要ならん体力のすこしに温めているiPhone

月光を聴くごと窓に凭れいる手帳に明日の予定読みつつ

ため息のつき始めにてうす光る朝よ椅子のささくれに触る