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#63 ティーチングスキル③ 1つの指示で1つの行動

引き続き、授業の展開方法やティーチングについて学生とともに探究した話を。

彼らは中学校や高校の教師を志している。

行動心理学や社会心理学の観点も動員しながら学生に調べものをさせた。

手分けして調べたことを持ち寄る「ジグソー法」である。

発達心理学のレフ・セミョーノヴィチ・ヴィゴツキー(1934-1962 旧ソ連、現ベラルーシ)の「記号としての言葉」の理論に関する報告が面白かった。

なんだか難しそうだったけど・・・・・

私たちは、外界と関わる際に、まず目的を見据え、その目的に向かって自分自身の行動計画を組み立て、その計画に則って行為を実行する。
そして、自己の行為の結果を修正するという一連のプロセスを歩んでいる・・・・といった内容だ。

フムフム、なるほど・・・・

この一連のプロセスを「行動調整」という。
行動調整は、自己を取り巻く環境との相互作用を円滑に進める上で重要な能力となる。

自分自身の心理過程を制御することを可能にするものとして「記号」がある。

この記号の中心をなすのが「言語」であり、心理過程の形成に決定的な影響を及ぼす。

話が抽象的なので、学生達も「難しいですね・・・・」と。

言い回しが難しく聞こえるだけだ。
具体的、日常的なことに置き換えて(私の失敗例も含めて)補説してみた。

教育における言語活動は、生徒と教師の間で交わされるコミュニケーションから始まり、生徒は教師からかけられる言語命令 - 例えば、「資料集の10ページを開きなさい。そこに示されているグラフを読み取りなさい」といった指示・命令- に従って資料に視線を向けたり、指示された作業に取りかかる。

その後、教師からの言語命令は、生徒自身が発する自分に向けた言語命令によって自己の行動へと変換する。

わずか数秒~数十秒の指示・命令かもしれないが、小中高校生の学習では、発達段階に応じた工夫が必要になる。

特に、初学段階は未知なことが多く、「分からない」「難しい」という思いを抱きがちだ。

一度にたくさんの情報を与えると、学習者は忘れたり混乱して、言われたとおりに動けなくなる。

私たち大人でさえ、自分の中で情報が整理されないまま行動に移すと大切なことが抜け落ちて失敗してしまうことがある。

例えば、新入生に対して最初の授業でPCの基本的な使い方を教えるとする。

「はい、それでは、まずPCを立ち上げて自分のIDとパスワードを入力してログインして・・・・えーっとIDは学籍番号だっけ? その次の画面で「授業」というフォルダをクリックして、その中にあるファイルの中の『DX №1」つまり「デジタルトランスフォーメーション№1」を自分のデスクトップにドラッグ&ドロップするか、コピー&ペーストでもいいんだけど、そうそうコピーして貼り付けるやつね、そしてファイルを開いてください」

慣れた操作なら「では、最初に例のフォルダから№5のファイルを開いてください」で済む。

操作に不慣れな初期段階は、やや丁寧な指示を出したつもりでも、あちこちで「できません」「わかりません」という状況がほぼ間違いなく発生する。

指示の出し方としては完全にアウトということになる。

誰にも助けを求めることができなく一人で苦戦してしまうと「もう、この授業はムリ!」となる可能性が高まる。

次第に私語が交わされ、教師が「うるさい!」と怒鳴ったりする事態になる。

過去、いろいろな学校で起こった「授業崩壊」の典型的な例は

①教師の指示が理解できない
②置いてきぼりをくらう
③集中力が途切れる
④騒がしくなる
④教師が怒る
⑤先生の指示が悪いと騒ぐ
⑥教師がより威圧的になる
⑦恐怖が先行し「学び」から遠のく

悪循環だ。
前回、長い文章は焦点がぼやけるということを述べたが、本当に伝えたい重要なことはコンパクトにまとめることが重要だ。

口語で伝える場合も同様で、複数情報を伝える時は「読点(、)」で言葉をつなげることを極力避けること。

つまり短文で「句点 (。)」を多くすることだ。

結論を先に明言する配慮が必要だ。

目的から逆算して、学生が取るべき行動を、ひとつひとつ分解していけばいい。

「これくらいできるだろう」という思い込みを捨てることだ。
回を重ねれば「これぐらいできる」ようになるのだから、初期段階は誰も置き去りにしないことを優先させるべきだろう。

指示の基本は端的であること、具体的であること。
「1つの指示で1つの行動」を心がけたい。
One instruction, one action

学生達は納得していたが、むしろ私にとって自戒を込めた話になった。