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#89 読書日記09 文學の実効 文学は精神に作用するテクノロジー

■『文學の実効』アンガス・フレッチャー

教職課程や一般教養演習の授業に臨むにあたって必要だと思い研究費で購入した。

フレッチャー先生は「文学は凄いんだぜ!」などとそんな安易な書き方はしていない。

神経科学と文学の学位を持つフレッチャー(Angus Fletcher)は、スタンフォード大でシェークスピアの講義をしている。

そういう人が書くとこうなるか。
私は文学研究者ではないが、今も小説を読むし、少年期はマンガもよく読んだ。

自分のフィールドの専門書より読んでいると思う。

今回は読み応えがあって、ハムレット、オイディプス王、変身、くまのプーさん、不思議の国のアリス、羅生門‥‥等々、世界の名作の底流にあるものを紐解きながら、文学の効用を真っ向勝負でたたみかけてくる。

■人はどのようにして物語を紡いでいくのか

「イラストAC」

人文科学にも社会科学にも、そして自然科学にも物語がある。
我が家の猫にも波瀾万丈の物語がある。

例えば、歴史には虚々実々のさまざまな物語がある。
フィクションであろうがノンフィクションであろうが、人々はその物語に魅了される。

本を読むのは
「好きだから」「面白いから」
基本的にそれでいいと思う。

結果として、こころの内に何かが刻み込まれる。

「好き」や「面白い」について、深掘りしたり意味づけするのは読み手である。

私はなぜ小説を読み続けているのだろう。

それはきっと
明確な答えが書かれていないから。
こころが揺さぶられるから。

そう思うのである。

感性や思考力、想像力を頼りにあれこれと自分なりの答え探しをする。

それが自分の生き方やあり方にどれほど影響しているかは分からない。

解説や書評にはない自分の解釈や気付きもある。
「オレは見つけたぞ、ムフフ‥‥」と。

自分だけの答えがあるような気がするのだ。

文学が好きな割に、その良さを言語化して誰かに伝えるという努力をしたことがない。

誰かと思いを共有したり、みんなにお薦めの本を紹介したくて図書局員になるとかコミュニティでワイワイガヤガヤやるタイプでもなかった。

評論家になりたいというほど文章力が長けているわけでもない。

フレッチャーは本書において
「文学は精神に作用するテクノロジーだ」 と述べている。

文学は人類最大の発明ではないのか?
産業革命以上の威力があるような気がしてきた。

本書は、精神に奇跡をもたらす文学による25の発明を25の章立てにして文学の実効を述べてている。

勇気を奮い起こす
恋心を呼び覚ます
怒りを追い払う
苦しみを乗り越える
好奇心をかきたて
心を解放する
悲観的な考え方を捨てる
苦悩を癒す
絶望を払いのける
自分を受け入れる
悲痛を撃退する
人生を活性化する
あらゆる謎を解決する
自分を高める
失敗から立ち直る
頭をリセットする
心の安らぎを手に入れる
創造力を育む
救いの扉を開く
未来を書き換える
賢明な判断を下す
自分を信じる
凍りついた心を解かす
夢の世界を生きる
孤独を和らげる

文学は科学とは異なり、主観が入り込んでいる。

フィクションは客観性・現実性に乏しく「所詮はつくり話」と感じて敬遠する人もいるだろう。

実用性のないものは読むだけ無駄と考え、実用書やハウツー本を読む人もいるだろう。

SNSや動画のコンテンツ、マンガ、アニメから何かしらの学びを得たり触発されて行動を起こす人もいるだろう。

VUCA(変動性、不確実性、複雑性、曖昧性)が深まるこの時代に生きる私たちは、どのようにして物語を紡いでいけばよいのだろう。

それもまた文学が答えてくれるのだろう。