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#209 読書日記37 ニューロマイノリティを内側から理解する

『ニューロマイノリティ ― 発達障害の子どもたちを内側から理解する』

横道 誠  &  青山 誠 編集
北大路書房


序文を読んで購読することにした。

ニューロマイノリティニューロマジョリティと同じように多様性を生きていて、偶然の結果として少数派に属してしまっただけなのだと考えることで、彼らを助けるためのさまざまな方策に関して、想像力が湧いてくるはずです。そのような考えから、発達障害児のための保育や教育を多面的に考えてもらうために本書は、『ニューロマイノリティ――発達障害の子どもたちを内側から理解する』と名づけられました。(「はじめに」より)

【ニューロマイノリティ】神経学的に少数派な人々。
neuro(脳・神経)とminority(多様性)の合成語

本書では、発達障害の当事者、支援者、研究者が一体となって、支援の実践や課題を多角的に描き出している。

私自身、普通学校にも存在する発達障害がある生徒への対応・支援に直接関わって15年ほどがたった。

改めて思うことは、彼らの潜在的な能力をいかにして引き出すか、それをいかに適切に個別支援するかということに尽きる。

専門的な見地に基づき、幼→小→中と切れ目のない個別の教育支援計画が引き継がれ一貫して的確な教育的支援が行われている例がある一方で、十分な支援がなされていない場合がある。

さらに、それを高等学校や大学、あるいは民間の支援団体に接続させたり連携するということに関しては、まだ課題が多いと感じている。

障害に対する社会的認知と関心が高まるにつれ、その特性を能力の欠陥ではなく、「脳の多様性」として理解する「ニューロダイバーシティ」(神経多様性)という新たな概念が広まりつつある。

【ニューロダイバーシティ】
neuro(脳・神経)とdiversity(多様性)の合成語。
脳や神経、それに由来する個人レベルでの様々な特性の違いを、多様性と捉えて相互に尊重し、それらの違いを社会の中で活かしていこう」という考え方を指している。

定型発達で占められている高等学校の普通教育や大学において、知能が高いにも関わらず発達に偏りがあるがゆえに集団の中で苦戦している生徒・学生が一定割合で存在する。

障害に気が付かず見過ごされてしまうと、個別の支援計画による教育プログラムを受けることなく社会へ出て、一層苦戦することになる。

職場でトラブルが発生すると、障害の当事者と上司・同僚との間に壁ができ、最悪・最低の勤務評定を付けられ、勧奨退職まがいの事態になっているケースもある。

また、学校教育を無事に終えたとしても、出口の部分(卒業して何らかの仕事に就こうとする就活)において苦戦を強いられるのが現実だ。

マジョリティの都合によって作られ動いている社会は、マイノリティにとっては生きづらさの因子が満載である。

息子が特別支援学校の教員をしているので、生徒達の職場開拓で企業を訪問し、何とか雇用先を増やすために飛び回っているという話をよく聞く。

通常の採用試験は、社会的な常識(一般教養試験・面接)や非言語コミュニケーション(non-verbal communication:立ち居振る舞い、表情など)を理解していることを前提に設計されており、ニューロマイノリティの受験者はここでも苦戦を強いられる。

障害者差別解消法(障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律)』のお陰もあって、「合理的な配慮」に関する認知度が高まり、特別な事情に理解を示し、雇用と支援に努力する企業が増えていることは望ましいことではあるが、今はまだ決して十分とは言えない。

多数派である定型発達の特性だけを標準として扱うという考え方から、どんな特性の人にとっても「生きやすい環境」をつくるという考えが当たり前になることを願ってやまない。

本書は、マイノリティとマジョリティの間に立ちふさがる「わかりあえなさ」を改善するきっかけになる一冊だと感じた。