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仕事で使える⁈人気バンド再結成術に学ぶピンチの活かし方 【第二章】〜中吊広告でピンチ〜

 ピンチはチャンス!それができたら大逆転も夢じゃない! 私がこれまでに出会ったピンチをどうやってチャンスに変えたのか、その瞬間をお教えします。
 知っておけばピンチになっても余裕が生まれるはず!

https://note.com/suzuking64/n/nb9f72fe79a9b


漏れた情報

 発表まで1年かけて準備を進めていた再結成。極秘裏に進められた全国ツアーの準備も大詰めを迎えていた時、大手チケット・プレイガイド担当者が知り合いを通じて面会を求めて連絡をしてきた。
 嫌な予感は的中。担当者はどこかのライブ現場で再結成ツアーの噂を聞きつけ、もし本当なら当社を使って欲しいとオファーしにきたのであった。
ここまで来たら、嘘を言うわけにもいかず、彼らが提示してきた条件を聞き、私たちの希望を伝えて、ひとまずは持ち帰ってもらうことにして、話し合いは終了。エレベーターまで担当者を見送りドアが閉まった時、私はボスに「どうします? 彼を東京湾に沈めるならいまです」と呟いた。 もちろん、冗談ではあるが、彼に知られたと言うことは他のプレイガイドが知るのも時間の問題。再結成を発表する前にあちこちに漏れてしまっては、公表した時のインパクトが無くなってしまうことは明白だ。
 このピンチをどうチャンスに活かせるか?解決法のヒントはプレイガイドの裏にはコンビニエンスストアがいるということだった。

日本のプレイガイドの座組み

 この当時、メジャーなプレイガイドはぴあ、ローソンチケット、e+の3社。
それぞれの会社がコンビニエンスストアとつながり、チケットを店で発券できる仕組みを作っていた。プレイガイドは取扱手数料、コンビニ側は発券手数料を受け取り、チケットを発券しに店に来た客はコンビニで買い物をするというスキームである。
 そのため、店の外に面した入口側のガラス面や、レジの後ろにはプレイガイドから指定された公演ポスターを掲示するスペースが用意されており、ここに何のポスターを貼るのかはプレイガイドがコントロールしていた。
 コンビニにポスターを貼る事ができるとPRとしてはかなり効果があり、プレイガイドはこのスペースにポスターを貼ることを条件にアーティストの公演チケットの取扱量を増やしてもらうよう交渉するのである。
 ここにポスターを貼ってもらいたいアーティスト側はプレイガイドと早めに交渉を始め、このスペースを確保し、より安い手数料でチケットを取り扱ってもらうことがツアーを成功させるひとつの方法となる。しかし、このプレイガイドとコンビニのパイプだけでは宣伝として広がりがない、もっと良い用法を考えるべきだと考えていた。
 また、特定のプレイガイドにチケットを独占させると手数料を低く抑えることができ、店舗にポスターも貼ってもらえるが、コンビニの店舗数は地域によってムラがあり、独占させることによりファンに負担をかけてしまう可能性がある。
 特に東京のコンビニ感覚でプレイガイド独占を考えてしまうと、北海道や沖縄の人達は地元にそのコンビニがないのでチケットを発券するために数十キロ先にしかないコンビニまで行ってもらうことになるので注意が必要だ。(北海道ならセイコーマートが圧倒的シェアだし、沖縄はファミリーマートの店舗が多く、セブンイレブンが進出したのはついこないだの2019年だ)
 そういう事を知らずに特定のプレイガイドと独占契約を結ぶと割を食うのはファンである。いまであればスマホにデジタルチケットをダウンロードするだけで済むが当時はまだ紙のチケットが必要だったので、ちょっとした小旅行気分で発券しに行くしかなかった。例えるなら東京駅辺りで申し込んだチケットを鎌倉駅のコンビニまで行く感覚である。ファンは電車や車で片道1時間以上かけて買いに行く事をイメージしたら独占がベターかどうか判断できるはずだ。

熱いうちに交渉

 大手プレイガイドを送り出した直後、私達は彼らの申し出を受けるかどうか話し合った。 手数料などの条件面はこれから詰めることができるが、まずはプライオリティとして彼らを第一優先にするかどうか?が問題である。そこで私は以前から温めていたプランを彼らが飲むことができれば提案を受け入れるのはどうかと提案した。
 その提案とは、ツアー発表と同時にプレイガイド側が東京・大阪の電車の中吊り広告にチケット発売の広告を出すことだった。 当時、プレイガイドはコンビニ店舗のポスター掲示以外で告知する場所がほとんどなかったのである。そんな時、とあるアーティストの公演情報を電車の中吊りで見かけ、印象に残っていたのだ。しかし、その広告は中吊りの片側だけで、その隣には別の広告があり、インパクトとしてはそれほど大きくなかったが、この電車の中吊り広告のスペースを使った露出は通勤客に訴求することができるので、解散当時ハイティーンだったファンが今は社会人となり、広告を目にする機会が多いのではと推測し、私はその中吊り広告の写真を撮りチャンスを温めていた。
 ボスからのGOも出たので、すぐに担当者へ電話すると彼はまだ帰社している途中だった。私は彼に発表時に電車の中吊り広告を両面でやるのであれば第一プライオリティにすると伝えた。彼は「わかりました。いま車に戻っている最中なので戻り次第、検討してご返事します」と返し、電話を切った。
私がビジネスとして大事にしているのは段々のスピードだ。イエスでもノーでも今日中に返事を返してくれば、彼の会社はこの件に関して関心を寄せ、十分なリサーチをして望んでいることがわかるので、この先も安心してビジネスを進められる。
 もし、これが2日以上かかっても返事がこない相手であったら気をつけよう。彼らはたまたま手に入れてしまったスクープで浮き足立っているだけで、こちらの条件を受けてようやく上司に報告し、その上司もどうして良いのかわからなくなってフリーズしているだけで、全く機能していないと推測できる。このような相手にこの案件を任せるわけにはいかない。
 電話を切って3時間ほどで彼は私の携帯に電話をかけてきた。会社で本件に関して話し合い、中吊りの件も含めOK が取れたとのことだった。その後、私達は細部を詰め、いよいよ発表となったその日、思いがけないトラブルで大ピンチとなるのであった。

まさかの中吊り事件発生

 再結成発表と同時に全国ツアーとニューアルバムの発表を同時に行うことで大きなインパクトを持った復活劇となった。スタートは上々である。
 私達は全国ツアーを発表した数日後、チケット申し込みが始まるタイミングで東京と大阪の中吊り広告を手配していた。
 中吊り広告は1週間程度が掲載の期間で、掲載する地域と片側・両側などサイズで料金が決まっている。私達は左右両側で東京と大阪、複数の営団路線で準備を進めていたのだが、当日の電車に乗って驚いた、東京の電車に乗ると大阪公演の中吊りがかかっていたのである。何かの間違いだと思い、別の路線も見るがそこにも大阪の公演。大至急、プレイガイド担当者に連絡すると彼らも事情が飲み込めずパニックになっていた。
 もし、この時、あなたが私の立場っだったらどうするだろう?
いますぐ、東京と大阪の広告を入れ替えさせる?(どうやって?)
広告の担当者を呼びつけて叱りつける?(なぜ?自体は何も解決しない)
金は払わないぞ!と脅しつける?(2度とこの会社と仕事できなくなるぞ)
時間をかけて準備したプランが崩れたわけだから怒りが込み上げてくるのも無理はないが、このタイミングで担当者を怒鳴りつけて良いことは何もない、間違いだったとしてもわざとやったわけではない。問題はどうリカバーできるか?である。
 実際、この広告を見た知り合いなどからは『大阪のライブ情報を東京で載せるなんて、君たちらしい』と褒められているのか、けなされているのかわからない感想をもらった。複雑な心境であったが、明らかにミスしたね!と指摘してきた人間はいなかった。つまりみんなシャレと受け取っているようであった。
 また、この広告を見たファンはHPにアクセスし、チケットの申し込みをするので、大阪の人が東京公演の広告を見ていたとしてもチケットの申込数に大きな影響もなく、チケットの先行受付期間中の申込は予定数を大きく超える数十万席となった。
数時間後、担当者から説明を受けたところ、どうやら発注した広告代理店の担当者が東京と大阪の中吊りを取り違えてしまったらしい。代理店は恐縮しており、ぜひ挽回のためにももう1回広告をやり直させて欲しいとのことだった。
 数日後、チケットの申し込みが順調なことを受けて、私達は東京と大阪それぞれ数日ずつのアリーナ規模の追加公演を決めた。その発表タイミングで中吊り広告の代理店にリベンジしてもらうべく、数週間後に再び追加公演の中吊り依頼。さすがに今回は間違っていなかった。そして、この2度目の広告掲載料はかからなかった。
 もし、私たちがあそこで広告代理店を怒りに任せて問い詰めていたらどうなったであろう?
無料で掲載できた追加公演の吊り広告はなかっただろうし、広告代理店との関係も悪くなり、今後のプロモーションプランとして中吊り広告を使うという選択肢も失っていたかもしれない。
つまり、トラブルを起こした人を怒っても何も問題は解決しないのである。目の前のトラブルを見据えつつ、この先のプランを目指せばどうリカバーすれば良いのかが自ずと見えてくる。私達は2回目の広告を出す時、広告代理店ととても良い関係を作ることができたので、締め切りの余裕もあったし、掲載スケジュールが空いていた別路線にも掲載することができた。
そして、何より最高に笑える話のネタになった。

しかし、この先に更なるピンチが待っているのであった。
詳しくは第三章で。

https://note.com/suzuking64/n/nfe338d5f6795


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