復職後の処遇をめぐって 2

 今回は「精神科医側」からの視点です。

 うつ病などの治療をうけている患者さんは、特別な事情が無い限りは復職しても治療を継続します。医療機関の立地や診療日などで通院できなくなることはあるとしても、一般的には同じ医療機関で通院、治療を継続することになります。

 復職した患者さんはコミュニケーションの範囲が増えます。復職前は家族と医療機関くらいしか話す機会がなかった人が、復職後は職場のいろいろな方と話す必要が出てきます。このため疲労感を感じる人も多いのです。

 他にも仕事上のストレス要因はたくさんありますので、復職した患者さんは疲労を感じることが多いのです。逆に「全く疲れません」というような人のほうが心配です。自分の疲れを上手にモニターできていないからです。

 また、業務について尋ねても、「しっかりできています」と答える方はそれなりにいらっしゃいます。医療機関では業務内容については、内容を把握していたとしても、想像するのは難しい場合も多いです。私は産業医として、他の医師よりは職場に関する知識は(やや)ありますが、私の知らない職場の方が圧倒的に多いですから「しっかりできています」がどの程度のものなのかは、なかなかわからないのです。

 これらのことから問題になることは、復職した患者さんが自分を正確にモニターできているか、ということです。疲労など周囲からはやや気づきにくいことを自分で把握できているか、また、業務についても問題の有無を客観的に把握できているか、これらがどちらも正確にできている患者さんは少ないと思います。

 職場の方々は患者さんを職場の労働者として客観的に見ることが可能です。主治医は直接的には診療室の中の患者さんしか知りません。どちらが長く見ているかというと圧倒的に職場の方々なのです。このような方々からの情報は診療にも役立つのです。

 職場での問題を患者さん当人が気づいていない場合、職場からの情報は非常に助かります。ですので、私が産業医をしている企業では、不調の様子が目立っている方については、主治医に状況をなるべく伝えるようにしています。産業医から医療機関への情報提供というのは、診療報酬のような金銭的なメリットはないのですが、労働者の健康を守るという観点からは重要です。治療者側からすると、簡単な連絡でもよいから頂けると嬉しいのですが、お互いに時間的な制約があるため、難しいのが現状と言えます。

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