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メキシコでの興収が日本の興収の3.5倍!『聖闘士星矢 The Beginning』はフランチャイズ化できるか?


 真剣佑主演のハリウッド実写版『聖闘士星矢 The Beginning』4月最後の週末に日本他数か国で劇場公開になりました。なんと公開初週はメキシコの興収が約100万ドル(順位は3位)。日本の興収の3.5倍弱となっています。数字は不明ですがブラジルでも『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』に次いで2位。


 80年代終わりに聖闘士星矢のアニメ・シリーズは中南米の広い地域と欧州ではフランス・イタリア・スペインなどで地上波放送され大変人気でした。メキシコでの好調はその結果と思われますので、今後欧州および中南米諸国で公開されるとそれぞれの地域でヒットが期待できます。

 映画の内容は整理されていないところが多いものの、真剣佑は顔を眺めていれば間が持つし、アクションも決まるので適任。今後の展開によっては次回作も製作されるかもしれません。

課題
 戦いの女神が人間の少女に転生したとき、星矢は彼女と世界を守る聖闘士としての運命そして自分の過去に向き合うことになるのだった…的な話ですが、聖矢は巻き込まれ型で聖闘士としての修行を始めます。謎の組織に攻撃されたり、謎の紳士に助けられたり予想外の出来事の連続となりますが、聖矢はZ世代的というか、予想外の出来事の連続に対応するのにシニカルな態度をとる。ところが同時に、謎の組織に攫われた姉ちゃんを助けるために一途にがんばる!という車田正美的姉弟関係が強調されています。聖闘士星矢の原作者車田正美はボクシングマンガ『リングにかけろ!』の原作者。リンかけも序盤は姉と弟の関係が濃密に描かれるお話でした。
 ただ、シニカルかつ一途という複雑なキャラクターを表現するには、真剣佑の台詞が少なくてキャラクターの思いが伝わりづらくて、演技も上滑り。
いっそのこと、スティーブン・セガールみたいに、演技がへたっぴな前提で主役の台詞を極端に減らして、出演作がほぼ全部【沈黙】シリーズになっちゃうくらいの割り切りをみせてもよかったかも。セガールはアクションだけだけど、真剣佑はアクション+顔+裸で勝負できるし。
(メキシコで当たってるのは、原作の人気もありますがスペイン語吹替版がオリジナルより良くなっている可能性も有りますね…)
 その他のキャストは、本当に守るべきアテナ役と姉ちゃん役の魅力が乏しくて、真剣佑と釣り合ってない印象。さらにボスキャラのファムケ・ヤンセンはボスキャラとしては葛藤を抱えていてそこまで残忍ではないんですが、なんか顔がつぱっぱらかってて何もしないのに怖い。
 
宣伝とマーケティング
 
この映画自体は微妙ですが、原作の知名度は高いし、せっかく続編を製作し続ける前提の映画だし、日本映画の底上げのために真剣佑にもハリウッドで活動し続けてほしい。なのでなんとかフランチャイズ化につなげられないのか?と考えて観察すると消去法的な工夫はやっているようです。
 まず、映画評分析評点サイトRotten Tomatoes。映画評の数が少なくてトマトメーターの表示がありません。米国では5月12日公開なのに映画評がないのはマスコミ向けの試写をしていないということです。映画評での高評価が期待できないときにまれに起こる現象ですが、当然の作戦かもしれません。
 あと5月12日(金)だと米国では超大作が公開されづらいタイミングです。夏休み向けの超大作映画が公開されるのは、5月の最終月曜日メモリアルデー(戦没将兵追悼記念日)の連休の週末。今年は『リトル・マーメイド』。昨年は『トップガン・マーヴェリック』。コロナ前は『アラジン』(2019)、『ハン・ソロ/スターウォーズストーリー』(2018)、『パイレーツ・オブ・カリビアン/最後の海賊』(2017)…など。この週末にメジャースタジオ以外が大作を公開しても宣伝の資金力他で霞んでしまうので、独立系の映画は1~2週前倒しで公開するのがよくある方法。聖闘士星矢もその作戦をとっています。
 試写しないで悪目立ち回避、連休を避けて公開、など消去法の対策は抜かりないようです。米国ではアニメ版は一応カートゥーンネットワークで2000
年代前半に放送された経緯はありますが、比較問題としては他の地域ほどは人気が出ませんでした。5月12日からの限定公開に熱心なファンがどれくらい集まるか?が米国での勝負になると思います。『ドラゴンボール超:ブロリー』が2019年に1日だけ北米興収のNo.1になったり、今石洋之監督の『プロメア』も同じくデイリーですが3位を記録したりということもあったので、その手の瞬間最大風速がどれくらいになるか?注目だと思います。
 米国での評価が各国での盛り上がりに大きな影響を与えるような作品ではないと思いますが、盛り上がった場合には順次公開されていく各国でも好ましい状況となります。今後の各国での公開に注目です。

各国公開日
April 27 – Brazil, Mexico, Latin America
April 28 – Kenya, Romania
May 12 – Nigeria, Poland
May 16 – Germany
May 24 – France
May 25 – Middle East, Czech Republic, Ukraine, Portugal
May 26 – Spain, Bulgaria
June 26 – Italy
June 23 – South Africa
July 28 – UK


日本公開の謎
 で、日本の公開なんですが、なんでGW公開にしちゃったんでしょうね?日本のGWはコロナ前に名探偵コナンの劇場版が100億円を狙うレベルまでの超人気シリーズに成長していました。コロナ禍でも75億円以上を記録。この映画に限らず、GWに公開したらどんな映画でも負け戦です。
 ましてや同じ東映の配給で、『The First Slam Dunk』と『シン仮面ライダー』がそれぞれGW中も絶賛公開中。対象年齢も被る部分が多いおじさんIPの映画を3作品同時公開には無理がある。この辺の謎戦略が人気マンガ原作の映画なのに興収がメキシコの1/3に届かなかった原因と思われます。
 むしろGW中の劇場で予告編を見せこんで、もともと日本にもファンがいる真剣佑の顔と裸をアピールして、先行公開した世界〇△ヵ国で大ヒット!!!!(中南米+欧州数ヵ国で”十数ヵ国”になると思われます)と宣伝して、GWと夏休みの端境期に公開した方が結果がよかったのでは?
 …という謎公開なのですが、今後の作戦としてひとつ考えられるのはロングランです。例えば3/3公開の春休み映画『映画ドラえもん のび太と空の理想郷』はGW中も公開中ですし、スラムダンク(昨年12/3公開)、シンかめ(3/18公開)に限らず邦画は公開期間が長期化する傾向のようです。今後”5/24に公開されたフランスで大ヒット!””5/26スペインでも絶好調””6/26満を持してイタリアでも公開!大ヒット!”的な展開で盛り上げるのかもしれません。
 
 ただ、この作戦をとるには歯を食いしばって国内の劇場公開を続ける必要があります。ハリウッド実写版『聖闘士星矢』のフランチャイズ化に向けて日本と世界で頑張ってほしいと思いますけれども。