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事業戦略、第四章、差別化戦略とは何か?401.売上創造の重要性

利益は次の算式によって計算される。

売上高ー原価(コスト)=利益額

それでは、利益額を増加させるには、どうしたら良いか?三つ方法がある。

1.売上を増やす。
2.原価を減らす。
3.売上の変化率以下に原価の変化率を抑える。たとえば売上が十%増えても、原価の増加率を十%以下に抑える。

世の中には、利益額増加のためにコストを低減させる手段を書いた本は非常に多い。
しかし、利益を増加させるには、もう一つ方法がある。それは、「売上を創造する」ことである。新規の商品やサービスを開発し、新規顧客を開拓するイノベーションという利益獲得の手段がある。

これに体系的に論究しているのは、シュンペーター、ドラッカーの本くらいである。
ドラッカーは、人間が新しい、従来の商品やサービスと異なった商品やサービスを開発。経済資源を、古い、もう利益を産まなくなった商品やサービスの生産、供給から、利益を生むようになった商品やサービスの生産、供給に移動させることで社会が存続できるという主張を取った。

従来の経済学は、一定の商品やサービスの存在を不変と仮定して組み立てられていた。
これに対してドラッカーは、人間の創造やイノベーションによって、企業の供給する商品やサービスが新しく生まれることで、一定の社会的枠組みが破壊されることを前提に理論を組み立てている。

従来の経済学が重点を置いたのは、不変と考えられる商品やサービスのコスト低減である。
それに対してドラッカーの考えは、「売上を創造する方法」に重点が置かれている。
この本も、ドラッカーの主張を支持している。そして、起業家というのは、売上を創造し、社会を豊かに変える使命を持った人間である。

昔、日本が重厚長大型企業の時代にあっては、原価管理を適切に行うことが、利益の重要な源泉になった。
その時代、企業の生産する商品やサービスは、ほとんど急激な変化というものが、なかった。また、日本では長年にわたり政府の規制があって、時代遅れの商品やサービスを供給していても、充分食っていけた。だから、企業の知識労働者も工員も原価削減だけに注意を向けていれば良かった。
そうした、静的で構造的な変化がない時代には、ひたすら原価削減を行う、ワンパターンで行動していれば良かった。

しかし、現代は、そういう時代ではない。現代において必要なのは、中身(コンテンツ)、個性である。
現代は、社会主義国家のように、靴五千足というような物量ノルマを果たせば良い時代ではない。顧客が喜んで高い金を払う商品やサービスを供給しなければ、企業は簡単に潰れてしまう時代である。

文庫本をやみくもに大量生産しても売れない。文庫本はその中身(コンテンツ)が立派であって初めて売れる。
DVDのディスクをやみくもに大量生産しても売れない。
人々が原価百円程度のDVDディスクを何千円も出して買うのは、そのDVDに書き込まれた映画などの中身(コンテンツ)の内容が優れているからである。
イタリア、フランスで作られた既製服が高い価格で売れるのは、そのデザイン、センス、ブランドイメージに顧客が金を払っているからである。

これからの時代において、企業の戦い方には二つあるように思われる。

1.アイデアやイノベーションによって、他に真似できないような商品やサービスを供給し、大きな利幅で売る。そして、その商品やサービスが模倣され、利幅やコストの優位性がなくなる前に供給を打ち切り、新しい商売のネタを考え、新しい、利幅の大きい商品やサービスに企業資源を回し、供給する。
これを「差別化戦略」とマイケル・E・ポーターは呼んでいる。

2.ある商品やサービスを異常な低コスト、低価格で供給し、大量の顧客を引きつけ利益を確保する。これを「コストリーダーシップ戦略」とマイケル・E・ポーターは呼ぶ。

これからは、このどちらか(ないし適当に、この戦略を組み合わせた戦略)によってしか、企業は生き残りが不可能になっていくだろう。
企業は、一体、自分はどの戦略で生き残るのか?そのポリシーを決める必要がある。
また、同一企業内において、異なる種類の戦略が必要になる場合がある時は、事業部に分割したり、子会社化するなど、適切なプロフィットセンターに分割する必要がある。

私は、この差別化戦略を構成する事業を、いわゆる「コンテンツ・ビジネス」と呼びたいと思う。(もちろん、それで括られない差別化戦略もあることは、充分に承知している。)
コンテンツ・ビジネスは、これからの小規模企業の時代をリードしていくのではないだろうか?

コンテンツ・ビジネスにおいて重要なのは、商品のデザイン、ブランドイメージ、パッケージ、センス、ソフトの内容、面白さ、顧客が夢中になれる要素のような無形のものである。
そのような顧客の要求を満たすものでなくては、コンテンツ・ビジネスは成功しない。
そして、商品やサービスの原価自体は極めて低いのが通例である。

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コンパクトディスクやDVDの原価など、たかだか百円程度だろう。洒落た既製服の原価などたかが知れている。音楽が記録されたコンパクトディスク、映画のDVD、ブランド物の既製服、売価は非常に高いが、それでも顧客は金を出して買う。
夏祭りの夜店に並んでいる商品の原価は知れている。しかし、その雰囲気に釣られて、顧客は高い商品を買っていく。
超一流ホテルのコーヒーやオレンジジュースの原価など知れたものだ。それに一杯千円の金を払うのは、その場所の雰囲気や、場所に集まる人々と会うための経費のようなものである。

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このようにコンテンツ・ビジネスが、現代において決定的に重要であるにもかかわらず、私は、このコンテンツ・ビジネスをどのような原則によって展開すれば良いのか?その事業展開上注意すべき諸点について述べた本を、あまり見かけない。

それについて触れた面白い本は、十五世紀の能役者で、偉大な思想家であった世阿弥(ぜあみ)の「風姿花伝(ふうしかでん)」である。

コンテンツ・ビジネスにおいて重要なのは、顧客の感情というものを良く理解することである。
私の小さい頃の楽しみはプラモデルを作ったり、北杜夫の「どくとるマンボウ」シリーズの本を読むことだった。
なぜ、そんなことをしたのか?今では理解に苦しむのだが、その当時はプラモデルや本に夢中になったものだ。毎月、小遣いが貰える日を楽しみにしていた。そして、プラモデルや本を買い集めた。

そんなことは、誰もが経験していることである。こう、そわそわ、ワクワクして買い物をした経験は誰にもある。百貨店で買った商品を、家に帰って袋や箱から取り出す楽しみというものは、何にも代えがたいものだった。

逆に、商品やサービスを供給する側から言えば、顧客が何に対して「そわそわ、ワクワク」しているのかを常に中心に置いて商売をして、顧客を夢中な状態に置いて置けば事業は成功するわけだ。
私が考えるに、コンテンツ・ビジネスにおいて大切なのは、顧客の心理状態を的確に把握することである。
逆に言えば、このような顧客の心理状態を理解できない、他人に対する感受性の欠ける人間に、この事業をマネジメントさせたら、失敗することは容易に理解できる。

従って、コンテンツ・ビジネスの管理原則がいくつか挙げられる。

1.顧客の心理状態を読むことができる人間を重視する。
2.できれば、良き顧客であるような商品やサービスの企画者を選び仕事をさせる。
3.顧客心理に無理解な人間を管理者に任命しない。
4.顧客が新企画に興味を示さない場合、その原因を徹底的に検討する。
5.結果によって評価する。

コンテンツ・ビジネスは金の問題ではなく、魂の問題である。出版、ソフトウェアからテーマパークにいたるまで、「楽しむ」、「ワクワクする」、「しばし現実を忘れることができる」という要素が何にもまして重要である。

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