事業戦略、第四章、差別化戦略とは何か?403.コンテンツ・ビジネスの競合関係を正しく理解する
最近、小説が売れないという。
小説が売れないという場合考えるべきは、顧客の余暇時間である。
通常、週休二日制の企業や官庁に勤務している労働者の場合、余暇で小説が読めるのは、通勤電車の中、早朝、夜、土日祝日の休日くらいである。
もし、小説よりも面白いものがあれば、労働者が小説を読むのに限られた余暇時間を費やすことはない。
昔、昭和三十年年代、労働者には、これといった金も余暇もなかった。そういう時代において、本や小説を読むというのは、大きな余暇時間の活用方法だった。
しかし、現代では、労働者はみんな車を持っている。
休みの日には車で行楽地やテーマパークに遊びに行ったり、家にいてもパソコン、スマホ、DVD、マンガ、スポーツ観戦といった様々な余暇手段がある。その他、旅行、ボランティア活動などというものもあるかもしれない。
小説本は、今では、こういう商品やサービスの類と競争しているのである。
もし、小説というメディアが、こうした娯楽以上に顧客を引きつけるだけの面白さがなければ、当然、余暇で小説を読む人は少なくなり、小説は売れなくなる。
だから、コンテンツ・ビジネスをする者は、「自分のビジネスにより供給する商品やサービスは、他の、顧客と余暇時間を奪いあっている商品やサービスに勝てるだろうか?十分に顧客を夢中にしているだろうか?」と自問するべきである。
私は、コンテンツ・ビジネスなどということを言って、差別化戦略を述べているが、こういうアメリカ流の安っぽい言葉よりも、職人仕事とか芸術創作活動という表現の方が適切なのかもしれない。
映画製作をコンテンツ・ビジネスなどと呼んだら、あの黒澤明監督はカンカンに怒るに違いない。
コンテンツ・ビジネスは、必ずしも金をかけたから立派なものができる訳ではない。また、大量の人員を動員したからといって、成功する訳ではない。
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ベニス映画祭でグランプリを受賞した黒澤明監督の「羅生門」はほとんど金のかからないものだった。
焼けた羅生門を除いて、十人余りの俳優と、安っぽいテレビドラマに出てくるような小道具しかなかった。
しかし、このように僅かの簡単なセットで撮った映画は、世界映画史上の傑作として人々に記憶されている。
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要は、量より質。アイデアが大切なのである。大作を最初から狙わず、小さな作品でまず成功を狙うべきである。
コンテンツ・ビジネスで大切なのは、思い切って捨てるということである。
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私は、昔、スーパーで精肉作業をしていたから、すき焼き用の和牛ロースといっても、本当に美味しいのは、肩に近い部分であることを知っている。
高級すき焼き店では、その部分しか出さない。
通常、人間は二時間程度しか集中できない。だから、映画も最大、二、三時間の内容で終わる。しかし、実際に撮った画像は膨大である。
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