事業戦略、第四章、差別化戦略とは何か?406.コンテンツ・ビジネスで大切なのは、雰囲気をぶち壊さないということである
コンテンツ・ビジネスで重要なのは、雰囲気をぶち壊さない、一貫性を持たせるということである。
コンテンツ・ビジネスにおいて常識や他人に対する配慮を欠いた行為や失敗によって、雰囲気をぶち壊すことは、顧客の企業に対する信頼を破壊する大きな原因になる。
従って、ビジネスはチームワークが大切である。誠実にことを運ぶ人選が大切である。
従業員を十分教育、訓練することである。厳しい倫理基準を設けることである。
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アメリカの大手映画館のチェーンでは、成人向け映画や暴力シーンの多い映画を決して上映しない。そのようであるから、地方都市に映画館を建てることが容易である。
ある航空会社では、女性ヌードの掲載されている雑誌を機内に置かない。こうして、女性や子供の客が安心して乗れるようにしているのである。
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品性のない会話を本当に好む人間はいない。私は、そういう話をしてくる人間に、相槌を打って面と向かって非難はしないが、以後の付き合いは、必要最低限しか行わないように心掛けている。
私が、世阿弥の「風姿花伝」という文献を読んで一番感銘を受けたのは、彼が能役者に対して、何よりもまず一人の立派な人間であることを最大限に要求したことである。
芸能の世界は、とかく腐敗しやすいものである。コンテンツ・ビジネスというのは、直接的な生産活動に依存せず、多分に寄生的である。
また、時として、大きな名声や地位、金が思いもかけず転がり込んでくる。
そのようであると、貧しい生活をしていた者は、堕落、腐敗する傾向がある。
それは、世阿弥の時代も同じだった。一時の成功に思い上がり、酒、女、博打に溺れ、能の道を忘れ、慢心する者はやがて破滅する。
そのような役者たちを世阿弥は目にして、こう述べている。
「能の道を極め、立派な能役者となろうとする者は、人の道に外れた行いをしてはならない。‥‥‥
一、女遊び、博打、酒に溺れる。これは能役者の三つの大きな戒めである。これは、昔からの能の世界の決まり、掟である。
一、稽古は必至にやりなさい。自分勝手に人気に舞い上がり、人とむやみに争う心を捨てなさい」
今、これから組織を健全に運営していくというなら、先ず、正しい組織の習慣、組織の文化を社内に打ち立てる必要がある。
世阿弥が、能の一座を運営するに当たり、座の役者たちに、このような精神的規律を課したのは、当然である。
そのような厳しい精神的規律に服すことができない者は、組織にとって不適格な人物であると、世阿弥は一座を運営する責任者、役者として感じたのであろう。
厳しい規律に服する習慣と、絶え間ない研鑽が、役者の品格、一座の品格を作り出していく。そうした組織の文化が、客を感化させるような、舞台の雰囲気を作り出す。
そのように、私は世阿弥の「風姿花伝」の言葉を解釈したのだが、どのようなものだろうか?
市場経済という言葉がある。マーケットの報復、市場は残酷で冷酷であると言われる。また、隙や弱みを見せたら構わず突いてくると言われる。
もちろん、そのような市場経済の下で生きるのは大変だが、少なくとも誠実に事を運ぶという社会人としての基本だけは絶対に忘れてはならないように思われる。
コンテンツ・ビジネスにおいて重要なのは、「人こそすべて」、最終的に存在するのは人間だけである、という法則を理解することのような気がする。
カメラの機材、巨額の製作費、人気俳優を呼んで映画を作っても、それで収益性の高い映画が作れる訳ではない。
それらの資源を有機的に結び付ける、天才的映画監督、プロデューサー、撮影スタッフがいて、初めて立派な映画が作れる。
いくら立派なコンサートホールやオペラハウスを建設しても、それを運営するオーケストラや歌劇団がいなくては、役立たずの代物である。
また、外国から一流のオーケストラや歌劇団を高い金で呼んでも、彼らの演奏を真に理解し、コンサートを盛り上げてくれる、多数の「目利き」の聴衆が存在しなければ、外国のオーケストラや歌劇団はシラけて二度と日本には来てくれない。
顧客と供給者がともに楽しみながら、良い物、面白い物を作っていく。
そういう場合、生産者や供給者は、何よりも顧客の良きリーダーでなくてはいけない。
そして、どのような分野の指導者であっても、人格的な誠実さを持っていなければならない。
この要件を欠く者は、これからの時代において成功できない。
もう一度、繰り返しておこう。コンテンツ・ビジネスにおいて大切なのは「人こそすべて」という法則である。
407.この章のまとめ
1.これからの時代、ハードよりコンテンツ・ビジネスが収益獲得源泉になると認識しているか?
2.世阿弥の言う、「目利き」、「目利かず」という顧客区分について理解したか?
あなたの企業の供給する商品やサービスは、「世阿弥の条件」、すなわち「目利きが唸り、目利かずが、それなりに納得して買ってくれる」という条件を満たしているか?
3.あなたの立案した戦略には、「目利かず」を教育し、「目利き」をたくさん育て夢中にさせる要素を開発するシナリオが組み込まれているか?
4.あなたは、「いかにしてオタクを作るか?」という問題を、系統立て、秩序立てて考えているか?
5.あなた、あなたの企業の供給している商品やサービスは、他の、顧客の余暇時間を奪い合っている商品やサービスに勝っているか?顧客を十分に夢中にしているか?
6.あなたの事業の商品やサービスの「花」は何か?自問しているか?
また、その超過収益力源泉を適切に管理、育成しているか?どの部分を秘し、どの部分を公開するか?というシナリオを作っているか?
7.あなたは、自分の顧客を飢餓状態に置くよう、商品やサービスの組み立てを考え、「花」を管理しているか?飢餓状態を作り出す「花」を、自在に取り出し、コントロールしているか?
8.あなたの会社は、商品やサービスを供給する事業体なのか?それとも、芸術家集団、演技集団のような組織の集まりなのか?
9.コンテンツ・ビジネスにおいて「人がすべて」という根本原則を理解、掌握しているか?