外資セキュリティマネージャー職

 本日は久し振りにセキュリティマネージャー職の話をしよう。比較してみるとその両者の違いがわかりやすい過去の事例が2件ある。

 まずはH&Mのセキュリティマネージャー。

 H&Mは言わずと知れた海外生まれのファストファッションブランド。日本には2008年に進出して、特に若い世代を中心に人気があって有名だ。

 しかし、飛ぶ鳥を落とす勢いもいつごろまでだったのか、日本上陸第一号店かつH&Mブランドの旗艦店でもあったH&M銀座店を、日本進出10年目となる2018年7月に閉鎖。理由は、GUやZARAなどの競合ブランドの台頭、通販の普及などでアパレル業界が激変しており、銀座の高額な賃料に見切りをつけたというのが大方の分析のようである。

 さて、ネームバリューのわりに最近の流れはどうなのかという印象を受けるH&M。このブランドを展開する会社の正式名称は、エイチ・アンド・エム へネス・アンド・マウリッツ・ジャパン株式会社。今回取り上げたセキュリティマネージャー職の募集会社だ。求人情報の詳細が掲載されていたのはこの会社の公式Webではなく、HirePlannerというサイトであった。以下は掲載されていた主な情報だ。

Web掲載日:2019年11月24日

身分:正社員

報酬:年収800万円

勤務地:東京・渋谷

概要:セキュリティとセイフティ両面における会社スタンダードと日本国内スタンダードの順守

スキル・資格:英語必須、日本語出来れば尚可(日本語は必須ではない)。3年くらいのチームリーディング経験、セキュリティ・セイフティ・コンプライアンス業界での勤務経験あれば尚可(必須ではない)

業務内容:リスクマネジメント、クライシスレスポンスプラン、チームリーディング、収益性の追求(コスト管理、KPIなど)

勤務時間:「優れたワークライフバランス」と記載されている

休日:土日祝、有休

その他:応募は日本国内居住者に限定

 以上の情報から見る限り、経験豊富な日本人の「セキュリティプロフェッショナル」を求めているというよりも、英語ネイティブでチームリーディングができる人間を求めていると解釈するのが妥当だろう。この時点で、セキュリティ重視の日本人は有望な候補者から外れると見て良い。一見すると、日本人と結婚して日本国内に居住し、法的に問題なく就労できる英語ネイティブの外国人を想定していると思われる内容だ。

 報酬が年800万というのも、実はネックである。

 この金額では、バイリンガルの「セキュリティプロフェッショナル」は雇えないと見て良い。この金額に応じるのは、やはりセキュリティ経験は無いが日本人を配偶者に持っていて就労に問題の無い英語ネイティブか、報酬はともかくとりあえずセキュリティマネージャー職にチャレンジしたい若手のセキュリティ出身者か、といったあたりだろう。

 何やらディスってばかりのようだが、次のセキュリティマネージャー職を見てみよう。

 次のセキュリティマネージャー職は、Micron のセキュリティマネージャーである。肩書はその名もずばり、ハシモト・セキュリティマネージャー。

 Micron、つまりマイクロンはいわゆるテクノロジー系の外資系企業で、メモリやストレージ製品を扱う会社である。日本法人としてはマイクロンメモリ ジャパン合同会社とマイクロンジャパン株式会社の2社がある。テクノロジー系の外資の特徴として、八王子など関東西部に拠点を持っていることが多いが、このマイクロンの拠点のあるのが、八王子にわりと近い神奈川県橋本市である。

 今回の求人、ハシモト・セキュリティマネージャーはまさにこの橋本勤務のポジションである。会社公式Webに求人情報が掲載されていた。

 以下が主な掲載内容である。

Web掲載日:2019年11月22日

勤務地:橋本

責務:日本国内のフィジカルセキュリティ全般、アクセスコントロールやCCTV等の管理、セキュリティチームとの連携、日本国内法の順守、アジア担当のMicron リージョナルセキュリティマネージャーへの報告など

教育/経験:学士の学位、最低3年のセキュリティ経験、Certified Protection Specialist (CPP)、 Physical Security Professional (PSP)、Professional Security Investigator (PSI)、Industrial Security Professional (ISP)の資格所持者歓迎

身分:正社員

 以上が掲載されている主な内容である。報酬などの情報は無いが、上記の内容を見ただけで、マイクロンの求めている人材が、セキュリティプロフェッショナルだということが明確に読み取れる。

 理由は、業務内容がセキュリティに関する具体的な内容となっており、候補者に求めているものが明確、かつ歓迎する資格としてセキュリティについて知っている人間にしかわからない資格の名称を具体的に列挙している点が挙げられる。この求人概要を作成した担当者自身がセキュリティに詳しい、もしくはセキュリティに詳しい人物が後ろにいる証拠である。

 以上2件のセキュリティマネージャー職を比べてみると非常に面白い。

 どちらも外資系企業のセキュリティマネージャー職である。しかし、求人情報から得られる採用側のメッセージ性は全く異なっている。H&Mに比べ、マイクロンの求人概要としての情報量は少ないとしても、求めている人材は、明らかにマイクロンのほうがプロである。マイクロンに比べると、H&Mは英語ができるなら誰でも良いと言っているに等しい。

 名前を取るならH&M、玄人としての実を取るならマイクロン。面白い選択と言えるだろう。

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