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三匹が行くコロンビアの旅(7)クンディナマルカへ

<20XX年2月11日>
 朝4時に起床。
 PCで仕事の資料を作っていたところ、ルピタが起きだしてしまったため仕事は諦め、ルピタをトイレに連れて行ってから一緒にベッドに戻る。

 6時頃、二度目の起床。
 例によってゆるゆるとベッドを片付け、ドニャ・クラウディアが用意してくれた朝食が、フルーツ、スープ、という風にテーブルに並んでいく。ルピタがキーウィを食べながら不意に「おかあさん」と口にし、少々意表を突かれる。いつもは「ママ」と呼ぶので、「おかあさん」という単語を使うのはたぶんこれが初めてである。呼ばれた当の本人であるアレクサは、少し離れたところにいたので気づいていないようだった。

 7時半、ルピタ、アレクサ、フリエータと共に、ディエゴの運転で出発。ボゴタ郊外を目指す。アレクサの友人夫婦と久しぶりに会うためだ。
 アレクサと日本国内で教会に通うようになって以後、日本に住んでいるコロンビア人のある夫婦と知り合った。しばらく前にその2人は日本での仕事を終えてコロンビアに帰国し、今はボゴタ郊外に住んでいるのである。

 北に向かって車を走らす。
 制限速度があるのかないのかよくわからない、高速道路に見える大きな道路を進んでいくと、料金所に見える検問所に達した。ここでディエゴはいくらかのカネを支払った。いわく、ボゴタを出るときにカネを払う必要があるのでこれがそれだという。ここは高速道路ではないし、有料道路でもないというのだが、高速料金を支払っているように見えるからなんとも妙だ。

 ショッピングモール・Centro Chiaに到着。
 駐車場に車を止めて、待ち合わせ場所であるレストランArchiesへ向かう。ラウラとロベルトの夫婦はすでに到着していて、店内で待っていた。彼らと日本で最後に会ったのはいつだったか正確には思い出せないが、ともかく久しぶりの再会だ。
 フリエータとディエゴは彼らと初対面なので、まずは挨拶と簡単な自己紹介。その後、この店はパスタがうまいらしいので、それぞれが思い思いのパスタを注文した。私はカルボナーラだったが、パスタではなくパンと一緒に食べるという料理だった。
 さて、なんとなくロベルトの手首に目をやると、日本製のG-Shockだったので話を振ってみたところ、「カッコいいので気に入っているのだが、コロンビアではケアしてもらえない」「帰国して以来まったくメンテナンスできていない状態だ」と嘆いていた。
 言われてみると以前、少し古いG-Shockを中古で買った時のこと、簡単な電池交換さえ店頭ではできず、いちいち工場に送らないといけないという話だったのを思い出した。よく見かける「電池交換承ります」的なフランチャイズ店ではG-Shockは扱うこと自体を断られ、正規販売店を通しての工場修理を勧められた。日本国内でさえそうなのだ。コロンビアで満足なメンテナンスができないのも無理はない。
 メンテできない腕時計ほど手間のかかるものはないだろう。ロベルトの話を聞いて、やはりG-Shockにカネを使うのはやめた方がいいなと改めて思う。G-Shockがとにかく好きだとか、持っていることを日本国内で自慢したいということであればいいのかもしれないが…。

 食事を終えた後は、建物外にあるパークエリアでルピタを遊ばせようということになり、移動開始。
 途中、子供向けのエンターテイメントエリア(つまりゲームセンターみたいなところ)が目に入り、エリア内にクレーンゲームを発見。日本では確率機の攻略方法云々など、取る方も取られる方もややこしいことを繰り広げている昨今話題の「クレゲ」の世界だが、ここコロンビアではどうなのか。コロンビアの当世事情を検証したくなったのだが、そのようなことに時間を割いている余裕はないし、いちいち気にするまでもないと思い、何も言わずにスルー。

 外に出ると大きな池があり、池の左側のほうにキッズが遊べる遊具が見えた。近づいてみると、2階建ての小屋を模した遊具で、滑り台がついている。すでにキッズ多数が遊んでいるため、ルピタは例によって気おくれがする。アレクサが一緒に小屋に入って2階へ上がり、滑り台まで案内してあげてようやく遊ぶ感じ。

 時々、G4Sの制服を着た警備員が、巡回のため通っていく。
 先ほど、モールに到着してまず駐車場に入ったときにすぐ気づいたのだが、出ている様々な掲示物、つまり看板をさっと見ると、G4Sのロゴがすぐに目に留まる。また、この巨大なモールの内外を少し歩いただけで、G4Sの制服を着た警備員が多数常駐しているのがわかる。警備員が多数、と言っても決して威圧的な態度で練り歩いているとかではなく、いずれも親切で自然体な印象。きわめて平和的に治安が守られているような印象を受ける。

 小屋型の遊具を終えて池に沿って少々移動。海賊船のような帆船を模した大型遊具があり、こちらはルピタやアレクサだけでなく私も一緒に入って遊んでみた。その後、池を一周して屋外のパークエリアから屋内に戻り、若干のショッピング。
 その後、別の場所へ移動しようということになり、車に戻る。

 ショッピングモールCentro Chiaから10キロほど北東のSopoという街に、La Cabaña Alpinaという生鮮食品マーケットがある。そちらへ向かうことになったのだ。
 Alpinaは、チーズなどの乳製品を扱うコロンビアでも有名な大企業で、本社はSopoにある。その本社に隣接する形で生鮮食品マーケットがあり、Alpinaが販売している様々な食品を買うことができるようになっているのである。Sopoの街は、言うなれば企業城下町といったところか。
 マーケットではラウラが販売されている食品の説明を熱心にしてくれて、特にチーズに関してはなかなかの熱の入れようだった。その情にほだされて、でもないが、純粋に購入したくなる乳製品が多かったので、ボゴタ市外のこうした場所で買うことができるのはあまりない機会でもあるし、いくつか買って帰ることにした。

 買い物を終えて外に出ると、これまたパークエリアになっており、雲の少ない真っ青な空という天候も相まって、青い芝にブランコなどの遊具が点在する広い敷地で、ルピタを遊ばせながら、のんびり過ごすことができた。

La Cabaña Alpina敷地内にある遊具で遊ぶ

 芝生の上を元気に走り回ったり、楽しそうに遊具で遊んだりしているルピタを見ているうちに、私はふと思った。「コロンビア」という国名を聞いて、この平和でのどかな光景を想像できる日本人がはたしてどれくらいいるだろうか、と。
 治安もよく、きれいな建物とよく手入れの行き届いた青い芝生、ひたすら子供たちを喜ばせることのできるいくつもの遊具、コロンビアに何度か来ている私にとっても、この光景はなかなか想像できない。ここなら、家族みんなが幸せに暮らせるのではないかと、本気で思う。
 日本での仕事を終えたラウラとロベルトの夫婦が、コロンビアに帰国するにあたり、ボゴタ市内ではなくこの地を選んで移り住んだ理由が、よくわかる。さすがにボゴタでは、こうはいかない。

 午後2時半ごろ、ラウラとロベルトに別れを告げ、帰途に就く。
 毎度のことだが、車で街を流すときくらいカメラを回して動画を撮っておけばよかったと思う。ようやく思い出して部分的に撮ったりするくらいで、全体の流れを追うこともできず、とてもじゃないが、「動画で振り返るコロンビア旅行」というわけにはいかない。

 Sopoからボゴタまでのフリーウェイを走ると、遠くに見える丘の中腹あたりに、広大な敷地を領有しているっぽく見える邸宅がいくつも目に入る。裕福な人たちはああいう家を郊外に所有しているものだ、とSantander地方への小旅行の際にアレクサが言っていたのを思い出す(後部座席に乗ってるが…)。あれから何年も経つが、まだああいう邸宅に住める身分にはなっていない(なれるわけないか…)。

 午後4時ごろ、自宅到着。
 実はこの日の午後4時から、アレクサの友人たちを呼んで集まる予定になっていて、まさにOn timeの到着となった。というか、ずいぶんとタイトなスケジュールだ。
 場所は自宅マンションの1階にあるホールで、ここは事前に予約しておけば貸し切りで使うことのできる、このマンションの共用部である。
 とりあえず荷物類を部屋へ運んで片付けて、それから1階のホールに入ると、メンツはもう集まり始めていた。前回の旅行ではいろいろなところに案内してもらったりしてお世話になったマリーとクリスの夫婦は、いまは小さな一人娘を連れている。ベビーカーに乗せたベイビーを連れて夫婦でテホ競技場に登場した姿が印象的だったアルベイロは、いまは2人の男の子を育てるシングルファーザーだ。前回会ったときは独身だったホルヘも、いまはカリ出身の奥様を連れている。フアンは相変わらず独身だったが…。車を置いてきたフリエータとディエゴもあとからやって来た。

 ちなみに、テホというのは、コロンビアの伝統的な投擲スポーツで、手のひらサイズかつ少々平たい円盤型の1キロくらいの金属(これがテホ)を、20m近く離れた標的に向けて投げる競技である。標的は、1m四方の粘土板の上に乗っている三角形の小さな紙のようなもので、この標的には火薬が入っており、テホが見事命中すると衝撃で爆発するという、なんとも過激なスポーツだ。

 集まれば、あとは軽食を飲み食いしながらの自由歓談、そしてお土産の交換会だ。アルベイロの2人の男の子は、ルピタにクチャロン(大きな木製のスプーン)をプレゼントしてくれた。日本から持ってきたのは、和菓子やいかにも日本ぽく見えるお菓子、東京オリンピック2020の記念グッズなどだ。特にお菓子系は、見ただけではわからないし、皆の前で「これはこういうもので、こっちはコレコレのもの」と説明風に披露しなければならなかった。
 手軽な日本のお土産、醤油味のせんべいは、英語で説明するとどういう表現になるのか、くらいは事前に用意しておいた方がいいだろう。ちなみに、私とアレクサとの間では、醬油味のせんべいの定義は「ソイソース味のジャパニーズアレパ」である。
 お土産をそれぞれに「分配」してもまだまだあったため、最後は簡単なゲームをしてその勝者に割り振ってしまうという方法でさばき切った。

 宴はなおも続く勢いだったため、アレクサに断って、ルピタを連れて部屋に戻る。ここ数日はシャワーを浴びないうちに熟睡モードに入ってしまうルピタであったが、この日の夜はシャワーを浴びたいというので、その意思を尊重する。
 寝かしつけはアナが引き受けてくれたので、その間に私もシャワーを浴びさせていただき、寝室に戻るとルピタはすでに熟睡していた。
 午後9時ごろ、宴を終えたアレクサら皆が引き上げてくる。明日は親戚一同との集まりだと言い、アレクサは再びお土産の確認と準備に取り掛かる。

 こうして7日目が終わる。

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