三匹が行くコロンビアの旅(6)ボゴタの街

<20XX年2月10日>
 朝4時に起きてみたが、すぐにルピタが起きだしてきてしまったので、ルピタを連れて再びベッドに戻り、そのまま明け方まで寝る。

 やがて明け方になると、皆がのろのろと起きだしてきて、朝食となる。朝食は、ハム入りのスクランブルエッグとアレパだ。
 アレパというのは、トウモロコシから作った薄いパンのことで、コロンビアに来たときはたいてい毎日に近い頻度で食べることになる。それだけ一般的な食べ物ということである。例えば、アレクサの親族に日本からのお土産としてせんべいをもっていくと、彼らから見ればそれは「ジャパニーズ・アレパか?」ということになる。

 10時半ごろ、皆でぞろぞろと徒歩で近くのPANAMERICANAへ行く。
 PANAMERICANAというのは、書籍や文房具、玩具などを扱うチェーン店で、ボゴタ市内のあちこちで見かける。
 私もアレクサも書籍や文房具が好きだから、PANAMERICANAへ行くのは、今回だけでなく毎回、旅のやることリストの最上位にあるというわけだ。

 PANAMERICANAへ行くため通りを歩いていると、観賞魚を扱うペットショップを見かけたので、覗いてみたいと提案する。
 店内に入るとさすがコロンビアらしく、日本でいうところの熱帯魚系の魚がたくさんの水槽の中で泳いでいる。しかし海水魚はいっさいおらず、すべて淡水魚である。
 コイもいる。
 聞くと、80年代に中国から輸入されたものをコロンビア国内で繁殖させ、販売ルートに乗せているようだ。呼び方もその通り、「Koi」となっている。
 アレクサの家族は、観賞魚を買うことにあまり興味がないようだ。というより、観賞魚を買うという趣味そのものが、コロンビア全体で日本ほど一般的ではないらしい。日本では一部の熱狂的なマニアがいるのはもちろんだが、マニアほどではないにしても魚を飼うことに理解のある人が多いように感じる。だいたいどこのホームセンターでも観賞魚を扱うコーナーがあるのがその証拠だろう。

 さて、PANAMERICANAは、にぎやかな大通りに面した場所にあった。メインの1階部分は、入り口に近いところに書籍、奥へ行くにつれて文房具やデスク周りの雑貨、それから生活雑貨、子供向けのおもちゃ類という具合に配置されている。ロフトのような2階部分にも少々雑貨を置いているという感じだ。
 ここは前回の旅で寄った店舗ではなく、初めていく店舗にあたる。こういう時は、どんな商品がどこにあるのか把握したいので、基本的に隅から隅まで見て回ることにしている。
 私が動く間、常にファミリーのだれかがそばにいてくれる。私はどこの国へ旅する時でも一人で行動するので、フルエスコートが付かなくてもいいのに、と思うが、彼らは私の身に何かあってはと心配なのだ。そのおかげもあって、この国でトラブルに見舞われたことはこれまで一度も無い。
 子供向けのスーツケースを見つけた。今回の旅の準備をしているときに一時検討していた、子供が座れるタイプのスーツケースだ。

小さい子どもが座れるスーツケース

 買おうかと思ったが、スーツケースを引っ張るためのヒモの固定位置が気になり、実用に向いていないのではないかと感じたためパス。

 最終的に買ったものは、ブック型金庫とミニチュアハウス用の人形と学校の模型であった。この微妙なチョイスは決して予定していたわけではなく、見て回った結果に過ぎない。今回、本は買わなかった。以外にもミニチュアハウスのグッズが充実していて、アレクサに聞いてみると、小学生の頃にたいていはミニチュアハウス製作の授業があるらしく、彼女も経験があるという。材料をそろえてコロンビア的なミニチュアハウスを作ってみたい気もしたが、道のりが遠そうな感じもしたので、今回はパーツを少々買うにとどめて、もし機会があればいずれトライしてみたいと思う。アレクサは、ルピタのために縄跳びを買ってあげていた。

 PANAMERICANAを出ると、次は近くの衣料品店ONLYへ。
 ここでルピタの服を少々購入。この店の面白いところは、建物の中央が吹き抜けになっていて、上のフロアで商品を選ぶと、店のスタッフが商品をカゴに入れて、その吹き抜け部分から1階までカゴをおろすのである。そして、1階にあるレジで支払いを済ませてから、商品を受け取る流れになっているのだ。
 カゴを下におろすとき、1階にいるスタッフの頭にかごをぶつけたりしないのか疑問に思うが、不思議とそのような事故は全然ないそうだ。

 買い物をひと通り終えると、フリエータのアパートへ行き、敷地内にあるプレイグラウンドで、先ほど買ったばかりの縄跳びを試してみる。ルピタは、日本の保育園で縄跳び遊びを見たことがあるようで、自分でも真似して飛んで見せようとするのだが、なかなかうまくいかない。やって見せようかというと、自分でやるからいいと言い張る。こういうところに、自己主張の強いルピタの性格が表れている。黙って言うことを聞くだけのベイビーではもうないのだ。

 帰路、道路を挟んで反対側の歩道を歩く一人のホームレスとすれ違う。
 中年の男で、なにやら歌いながら歩いている。よく聞くと、途中で節が変わって、「Buenos Dias, the family from far~」のようなことを歌っている。周囲の様子とは無関係に好きなことを歌っているのかと思いきや、意外にもわりと周りをよく見ていることがわかる歌詞(?)である。

 午後2時ごろ、帰宅。
 皆が集まっているところにフアンが到着し、久しぶりに再会を果たす。私がコロンビアを訪問する時には毎回必ずフアンが登場するので、普段からアレクサファミリーと頻繁に会っているものと思いがちだったのだが、アレクサの話では、最近はあまり交流がなかったところ、われわれ3人がコロンビアに来るというのでフアンも加わることになり、アレクサファミリーにとっても久しぶりに彼と会う感じになったという。
 持ってきたお土産の山の中から東京2020の記念グッズの一つを見つけ出して、フアンに渡す。彼の趣向にうまい具合に合致していたようだ。

 フアン、アナ、フリエータ、そしてわれわれ3人の合計5人でぞろぞろと外出。おとといの夜にカルロス牧師と一緒に行った、お姫様チックなヨーロッパ風カフェへ行く。
 道中、このあたりの繁華街にあたるにぎやかなカジェに沿ってしばし散策し、ルピタの服を購入。天然石を扱う店をたまたま見つけ、覗いてみる。そういえば、今回の旅ではエメラルドの店に行っていない。

 ちなみに、ボゴタの街は、基本的にカジェとカレーラという2種類の道路で構成されている。カジェ(Calle)とは「通り」とか「街」を意味し、東西に走る道を表し、カレーラ(Carrera)も同じように「通り」の意味だが、こちらは南北に走る道を表す。
 カジェとカレーラにはそれぞれカジェ10とか、カレーラ20のような数字が振ってあり、地図で見ると縦軸と横軸で位置を容易に特定できるような要領になっていて、非常に合理的だ。これで住所を表している、という説明を見かけることもある。

 この日、私たちが散策したカジェがカジェいくつにあたるのかは、明らかにするといろいろな支障があるので伏せておくが、カジェ〇〇沿いにあるあの店、という具合に、そのクラシックヨーロッパ風のカフェへと向かったわけだ。
 今回は、中庭(パテオ)スタイルのエリアに陣取って、コーヒーやケーキを食べながらいろいろな話題に興じる。そこへ、仕事を終えたディエゴも合流して、また話を続ける。

 夜、ルピタが寝てしまった後、日本人と結婚して日本に住んでいるコロンビア人の話や、われわれのこれまでの生活などについてアナとじっくり話す。
 ついこないだ結婚したばかりだと思っていたのに、あっという間に月日が過ぎ去っていく。

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