不動産あれこれ第7回 物件をいくつかハシゴしてみると…

 2017年の冬、本気でアパート一棟買いするつもりでいくつか物件を見て回っていた頃の話。

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 不動産投資の一環として収益用不動産の現地調査を何件か実施してみた。現地調査といっても特別に何かの調査をするというわけではなく、とりあえず現地に行って物件を見てみようということにすぎないが、実際に物件を自分の目で見てみると、紙の資料を見ただけでは全く予想できなかった新たな事実が明らかになったりするので、非常に面白い。具体的な例をいくつか挙げてみよう。いずれも千葉県内の物件である。


 まず1件目。1Kが8戸の木造アパートで、価格は2000万円。最寄駅からは徒歩25分で、8戸のうち4戸が空きということもあり、紙資料で見たときはあまり魅力的に思えなかったが、現地で実物を見ると写真の通りなかなか立派。「これはいいんじゃないか!」と言いたいところだが、実はこの物件のすぐ近く、上の写真から見てすぐ左側にデカい鉄塔が立っており、威圧感たっぷり。現地確認を終えてこの物件を離れた直後に、私もアレクサも頭痛を感じたほどだ。どちらか一方だけならまだしも二人揃って頭痛になるのはフツーではないだろう、と頷き合った次第。ちなみに、写真を見てもわかる通り、部屋数は8戸だが駐車スペースは8台分も無い。半分が空室になっている理由である。

 この物件は比較的長い間売りに出ているようで、半分しか稼働していない状態がずっと続いている上、オーナー側の注文もいろいろ多いらしく、紹介してくれた不動産屋もお勧めできないと言っているような始末だ。


 次の物件。平屋4戸のバルク売りで2000万円という物件。4戸すべて稼働中で、各平屋の屋根に売電システムを設置しているので賃料プラスアルファがあるという少々珍しい物件である。

 紙資料で見た限りではなかなか良さそうにも見えたが、現地を見て私が気になったのは、敷地奥にある田んぼ。奥まで入ってよく見てみると、田んぼとの境にあるフェンス、というかブロック塀そばの土壌が非常に緩く、踏み込んだ足がかなり沈んだ。また、ブロック塀自体もすでに傾いており、少し大きめの地震や大雨などがあれば倒れそうだし、何も起きなくても倒れるかもしれない。さらに、平屋ということもあって敷地はかなりプライベートな雰囲気になっているので、オーナーと言えどやたらと敷地内に立ち入るのは遠慮したほうが良さそうな印象だ。問題のブロック塀の傾き具合その他、気になるところを定期的にチェックするのも難しいのでは?と感じさせる。

 現地に行ってみないといろいろわからないものだ。


 次の物件。見た目がすでにすごかったのだが、こちらは大規模なリフォームが実施されているところで、1000万円近くが投入される模様。敷地入口付近に古い便器がたくさん放置されていたのはそういう理由である。リフォーム中とはいえその風景はどうかと思うが…。

 リフォーム完了後の引き渡しで2500万円程度になるとのことだった。2Kが8戸で、満室になればかなりの成績が期待できる物件であり、なかなか良さそうであったが、現地調査で意外な事実が分かってしまった。

 その衝撃的な事実は、物件の周囲を歩いてみて、最初に入った路地ですぐにわかった。アパート周辺の状況を見ておこうと近くを歩いてみたのだが、路地に入ると、あたりの様子がおかしいことにすぐ気付いた。まず、路地に面した家々のブロック塀が、あちこち壊れている。主にブロック塀の角やつなぎ目だ。最初、クルマか何かがぶつかって壊れたのかと思ったが、違うとすぐに気づいた。破損箇所が多過ぎるのだ。路地に並んでいる何件もの家のブロック塀が、あちこちでおかしくなっているのである。これはもしや地震の影響ではないか?と思った。

 路地全体を大きく見渡してみて、その予想が確信に変わった。なんというか、道路を水平の基準にして見てみると、両サイドの家々が「花が開花するように」それぞれ道路の反対側に傾いているのだ。右側の建物は右側に傾き、左側の建物は左側に傾いている。


 例えば、ある家の倉庫。この倉庫が明らかに右側に傾いている。ひと目見てすぐわかるくらい、思い切り傾いている。あまりにも「普通に」傾いているので、自分の目の方がおかしいのではないかと疑ったくらいだ。

 まるでトリックアートの世界に紛れ込んでしまったかのような感覚、しかし建物は傾いているし、ブロック塀はゆがんだり壊れたりしているし、錯覚などでは決してないのだ。その後、現地調査を終えてこの現場からクルマを運転して離れながら周囲を見てみると、道路沿いのフェンスや案内板が少なからず傾いているのを見かけた。思うに、このあたりの地域は例の311の影響で地盤に変化が生じたのではないか。明らかに広範囲に及ぶ地域的な地盤の問題が起きているように見える。

 そもそも上記の路地のような状況が物件から10メートルと離れていない場所で起きているとなると、2500万円も払って買う物件ではないだろうという気にもなってくる。紙資料を見ただけでは、決して知ることのできない現場の状況だ。

 もうひとつ面白いと思ったのは、この物件を紹介した不動産屋の担当者が、物件周辺のブロック塀や建物が思いきり傾いている事実を伝えても、気にも留めていなかったということである。

 「それがどうしたんですか?何がそんなに気になるんですか?」とでも言いたそうな感じだったのが印象的だ。そんなことを気にするあなたのほうが異常だ、と言っているようにも感じた。

 と、このように、今回の物件巡りの旅では非常に面白い発見が次から次へと出てきた。いずれも紙の資料を見ただけではなかなか知りえなかったであろうし、非常に受け入れがたい現実がどの物件についてもいちいち付いて回っているので、そろそろ決めたいと思っていた期待はいずれも打ち砕かれたような状況だった。

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 そういうこともあったな、と久し振りに思い出した2021年現在の私。ちなみに、一番最後に出て来た不動産屋の担当者の件だが、その不遜な態度が不快だったので、その後すぐに付き合いをやめた。

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