三匹が行くコロンビアの旅(2)ボゴタ到着

<20XX年2月6日>
 5時にアラームをかけておいたのだが、二度寝してしまったようだ。目が覚めると朝の7時になっていた。
 2つ並んでいるクィーンベッドの、窓側のベッドに文字通り川の字になって3人で寝ていた。なんとなく皆が起きたところでシャワーに入る。寝る前にシャワーを浴びたか否かにかかわらず、朝起きたら必ずシャワーを浴びるのが外国旅行での私の日課だ。

 居眠りして、目が覚める。
 寝ぼけまなこですぐ右手を見ると大きな窓があり、窓のそばの一人掛けソファに座って居眠りしてしまったのだとわかる。正面を見ると大型テレビがあり、左手を見ると、クィーンサイズのベッドが2つ並んでいて、その奥に部屋のドアが見える。
 言うまでもなくホテルの一室なのだが、自分が今どこにいるのか、なんのためにここにいるのか、一瞬わからなくなる。
 右手の窓の外を見ると、真っ青な空、大きな道路が交わる交通量の多い交差点、道路沿いに並んだパームツリーが目に入る。どう見ても外国だ。それも、南国をイメージさせる外国だ。パームツリーが並んでいる様子や、広い部屋にでかすぎるベッドが2つも並んでいるという点、記憶をたどってみると、この条件に該当する場所はドバイくらいしか思いつかない。
 はたしてここはドバイか。独り身で、ドバイかどこか別の中東某国への旅をしている途中ということなのか。

 アレクサとルピタが部屋に戻ってくる。
 朝食前に少しホテルの中を見て回りたい、と言って出かけていたのだ。私は、腰かけていた窓際の一人掛けソファから身体を引きはがし、2人と共に朝食へ向かう。
 最上階のラウンジで朝食をとる。ルピタと私が席についている間にアレクサがルピタの分と自身の分を取りにいき、戻ってきたところで交代。
 いわゆるビュッフェ形式のためいろいろな料理が選べるのだが、ホテルでの朝食は必ずパン、ソーセージとスクランブルドエッグ、果汁100%オレンジジュース、ホットコーヒー、をとるのが私の外国旅行での日課だ。どこの国へ行っても必ずこのメニュー。残念ながらここのオレンジジュースは果汁100%ではない。
 食べながらぼんやりしている間に、食事以外の時でもマスクをつけている人が周囲には一切いないことに改めて気づく。昨日のニューヨークを含め、この国ではマスクをつけている人が全くいない。新型コロナウィルス対策で大統領でさえマスクを着けていた時期があるというのに、そんな事実は全く存在していなかったかのように、マスクなしの生活に戻っている。
 食べ終わったところで、テラスに出て外の景色を眺める。眼下に大きな交差点があり、多くの車両が忙しそうに行きかっている。そういえばこの州ではナンバープレートは後ろだけで良く、車の前部分にはナンバープレートが無い、という話を昨夜エレナ夫婦から聞いたことを思い出した。
 どこの国でもナンバープレートは前と後ろ両方に付いているものであり、後ろにしかない国があるとは全く想像していなかった。しかもこんな身近な国で、州によるとはいえ、前にプレートが必要無い国があったとは…。
 身辺警護のテクニックの一つに、尾行してくる後方の車のナンバーをルームミラー越しに確認するというのがあるが、そもそもマイアミでは使えないテクニックではないか。

 プールがあったからパパも見てよ、とルピタが言うので、朝食後は1階にあるプールを見に行く。

 9時半、ホテルの無料シャトルバスでNorth Terminalへ。マイアミからボゴタへのフライトは、Latam Airlinesである。
 アレクサはルピタを連れていたためゲート式金属探知機を通過。私は通常通りボディスキャナーを受ける。
 搭乗ゲートまでが、やたらと遠い。オートウォーク(歩くエスカレーター)はあるが、動いていない箇所がちょこちょこある。
 搭乗ゲートのそばで待っていると、私たちが乗る便のアナウンスが流れる。スペイン語だ。なぜか英語のアナウンスは流れない。ここは米国じゃないのか、とアレクサに不満を漏らしてみる。周りを見回すと、確かに中南米系の人しかいないようだ。アジア人に見える顔は全くない。自分以外は。
 搭乗ゲートそばの待合スペースはゆとりがあり、人もあまり通らないので、ルピタはカーペットに座り込んでアレクサと一緒にぬいぐるみなどで遊んでいた。

 12時半、LA4401便はマイアミ国際空港を離陸。
 機内ではランチとなるブリトーとサラダ、チョコレートが出たが、ルピタは遊び疲れたのかぐっすり寝てしまっていて、ボゴタに着くまで全く目を覚まさなかった。

 16時、エルドラド国際空港に到着。ニューヨーク、マイアミとの間に時差はない。久しぶりのボゴタ、ルピタにとっては初めてのボゴタだ。
 飛行機を降りたあとの入国審査では、コロンビア人か否かで2つに分けられるが、コロンビア人とその家族ということで、コロンビア人の列に並ばせられた。入国審査官の砂漠色のカーゴパンツとブーツがかっこいい。
 荷物受け取り場に向かう途中、化粧品やアルコール類を扱う店が少々並んでいるのがこの空港の特徴だ。ショッピングエリアは出発時の出国審査から搭乗ゲートまでのルートにあるのが普通で、到着時のルート上にショッピングエリアのある空港はあまりない、と思う。

 荷物受け取り場は広々とした空間になっていて、向かって左側の壁全体がガラス張りになっており、家族の帰国を待ちわびている親族友人の姿がすぐにはっきりと確認できるというのも、この空港の特徴だ。
 今回もやはり、ガラス壁越しにアレクサの家族が大きく手を振っているのが見えた。
 スーツケースをまとめて運ぶトローリーをアレクサが探しに行っている間に、ルピタを抱えてガラス壁の間近まで近づき、ドン・ネストルやドニャ・クラウディアの目の前でルピタと共に挨拶をする。荷物受け取り場でここまでできるのは、やはりこの空港ならではだ。

 その後は、スーツケースを大型のX線検査装置にかけただけで、特に指摘されることもなく晴れてアレクサ家族と合流。アナ、フリエータ、ディエゴも来ている。
 3人ともおなかはあまり空いていないので、早く自宅に戻って休もうということになり、空港駐車場へ。懐かしいエルドラド国際空港の駐車場だ。到着や帰国、いろいろな思い出が湧き上がってくる。ルピタは初めて、コロンビアの地を自分の足で歩く。

 前回、アレクサと二人で来た時のドン・ネストルの自宅(旧宅)は、すでに人の手に渡ってしまっていて、フリエータ・ディエゴ宅から歩いていける距離の場所に引っ越したと聞いていた。したがって、アレクサにとっても初めての新宅になる。旧宅はアレクサにとっても思い出の多いところなのだが、治安が悪くなって住みにくくなってしまったとのことだ。

 18時、新宅に到着。
 家の中を見て回り、どの部屋を使うかなどを簡単に確認した。バスルームが2か所あるのが便利だ。それから、スーツケースの最低限の荷だけ解いて休んだ。大量のお土産のマネジメントは厄介なので、とりあえず後回しにした。
 皆で夕食。ピザでシンプルに済ませた。コロンビア風のローカルなものと、ハワイアンを選択。日本のハワイアンとは若干違いがある。
 空港では恥ずかしがっていたルピタも、少しずつみんなに打ち解け始めた。決して長い滞在ではないが、ようやくコロンビアにいるアレクサの家族にルピタを会わせることができたのだ。私を含め、だれにとっても思い出深い日々となることだろう。
 ちなみに、フリエータとディエゴは来日してルピタと過ごしたことがあるので、久しぶりの再会に喜んでいる。

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