「ロード・オブ・ウォー」(2005年米)

 ニコラス・ケイジ主演の2005年のアメリカ映画である。

 80年代、ウクライナ移民の息子が武器売買で身を起こす。

 最初の取引はイスラエル製のウージー・サブマシンガン。やがて徐々に商売の手を広げ、老舗の武器商人からは相手にされなかったものの、冷戦終結のどさくさに便乗して一気にビジネスを急拡大。老舗武器商人にも一泡吹かせるほどに成長し、ビジネスは南米、西アフリカにも広がっていく。

 合法を装い、ハッタリ優先の彼のビジネス手法はプライベートな生活にまで影響し、地元出身で高嶺の花だった美人モデルを、偶然を装って口説き落として結婚。すべてが順調に進んでいるように思えたのだが…。

 冒頭、両親が経営する店のキッチンでの、主人公とその弟との会話。弟は、自分の中の「犬」のことについて話す。何気ない会話のため、初めて本作を見たときは全く気付かなかったのだが、これは旧約聖書『詩篇』の中に登場する「犬の力」のことであり、ドン・ウィンズロウの小説「犬の力」を連想させる言葉だ。

 世界を股にかけてビジネスを展開していく様子は、見ていて面白い。つまるところこれはビジネスであり、南米のゲリラ支配地域だろうと西アフリカの難民キャンプのそばだろうと、スーツとブリーフケース姿で「商品」を売って歩く。一見するとこれは商社の仕事と変わらないのではないか、とさえ思える。扱っているものがバナナでないだけだ、と。

 モデルの仕事以外に何もうまくいかず、自信が持てず、自分は何もできていないと悩みを打ち明ける妻の姿が痛々しい。金持ちの夫のおかげで贅沢な暮らしをしているだけの奥さん、とは思われたくないのだろう。

 しかし、高価な宝飾品や服、高級マンションでの至れり尽くせりの生活、そうした贅沢な暮らしを賄うだけのカネを夫がどのように稼いでいるのか、うすうす気づいていながらも彼女はその問題に正面から向き合うことを避ける。そして、本作の後半、夫の逮捕を知った彼女は子供を連れて家を出る。それはあたかも、カネの切れ目が縁の切れ目だと言わんばかりの離婚通告である。

 彼女にそういうつもりはないのかもしれない。しかしまるで、夫が稼いだ汚いカネのおかげで贅沢な暮らしをしていながら、ひとたび夫が逮捕されると、自分と子供は全く無関係なのだから構わないで欲しいと言っているかのようである。

 本作の批評をネットなどでさらっと見ていくと、武器商人の役割だの、存在意義だのについて語っているものが多い。扱っているテーマがテーマだけに、当然だろう。しかし個人的には、この映画で最も印象に残っているのは、やはり夫婦の関係である。あまり大きな声では言えないビジネスで成功している夫。自分たちの贅沢な暮らしがどういうカネで支えられているか、うすうす気づいていながらその生活をやめられない妻。高嶺の花だった彼女を、見栄と嘘と偶然を装って作り上げた舞台で口説き落とし、しかし、きっかけは強引でも彼女のために結婚後もひたすら尽くす夫の姿勢は純情である。

 実は夫婦のことを考えさせられる映画だと思う。

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