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陽性反応という検査結果をそのまま信じるべからず! 「基準率の錯誤」

“認知バイアス大全”マガジン

236ある認知バイアスをこちらのマガジンにまとめています。


問題

ある晩、タクシーによるひき逃げ事件が起きました。目撃者の証言によると、ひいたのは青タクシーとのこと。その街のタクシーの色は青と緑の2種類。割合は、青が15%、緑が85%。現場は暗かったこともあり、目撃者は色を間違える可能性があります。目撃者の証言がどれぐらい正確かを同じ状況下でテストしたところ、正しく色を判別できるのは80%でした。20%は間違って逆の色を答えていました。
さて、目撃者の証言通り、青タクシーが犯人である確率はどれぐらいだと思いますか。(※2)

この問題に対して、多くの人が「80%」と答えました。
確かめてみましょう。

<目撃者がいない場合>
•ひき逃げ犯が青タクシーである確率は15%
•ひき逃げ犯が緑タクシーである確率は85%

<目撃者がいて「青タクシーが犯人だった」と証言した場合>
•実際に犯人は青タクシー(15%)で、それをみて「青タクシーだった」と証言する確率 = 15%×80% = 0.15×0.8 = 12%
•本当は緑タクシー(85%)だったのに、証言者が「青タクシーだった」と間違えてしまっている確率 = 85%×20%=0.85×0.2 = 17%

よって、犯人が証言通りに青タクシーである確率は、0.12 / (0.12 + 0.17)= 41%です。このように計算してみると証言通りに犯人が青タクシーである確率は、50%以下であり、緑タクシーが犯人である可能性のほうが高い(59%)という結果になりました。

にもかかわらず、どうしてわたしたちは、直感的に青タクシーが犯人の確率は80%だと思ってしまうのでしょうか? それは文字通り、わたしたちの直感が間違えるからです。この直感のことを「ヒューリスティック」と呼びます。そしてこの間違えを「基準率の誤謬」と呼びます。

基準率の錯誤

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人間は確率が苦手。

基本比率の錯誤(Base rate fallacy)とは、

イメージしやすい特殊な数字には敏感に反応する一方で、統計的な一般的な数字は無視する傾向

です。これは病気の検査の正確さでよく発生する間違いで、ある病気の検査が陽性と出たとき、本当にその病気である確率が90%である、などというときに発生します。わたしたちは、自分の検査結果が陽性だったときに、ほぼ確実に「その病気になった」と判断します。しかし、この場合、さきのタクシーのときのように別の可能性と比較する必要があります。

1.本当に病気であり、検査結果も陽性である場合(90%)
2.本当は病気ではないのに、検査結果が陽性である場合(10%)※偽陽性
3.本当は病気であるのに、検査結果は陰性である場合※偽陰性
4.本当は病気ではなく、検査結果も陰性である場合

例題

上記の4つのケースを比較するため、母数を10,000人としてそれぞれ算出してみましょう。病気の発症率を無作為な集団を対象とした場合1%とします。そして検査が陽性で、実際に病気である確率を90%とします。

1.本当に病気であり、検査結果も陽性である場合
本当に病気(1% = 10,000 × 1% = 100人)であり、検査結果も陽性(90%)
100人×90% = 90人

2.本当は病気ではないのに、検査結果が陽性である場合(10%)※偽陽性
病気ではない(99% = 10,000 × 99% = 9,900人)のに、検査結果は陽性(10%)
9,900人 × 10% = 990人

3.本当は病気であるのに、検査結果は陰性である場合※偽陰性
本当に病気(1% = 10,000 × 1% = 100人)であるのに、検査結果は陰性(10%)
100人×10% = 10人

4.本当は病気ではなく、検査結果も陰性である場合
病気ではなく(99% = 10,000 × 99% = 9,900人)、検査結果は陰性(90%)
9,900人×10% = 8,910人

以上を踏まえると病気ではないのに陽性とでる人の数は、病気で陽性とでた人の11倍です。母数の1万人対しては、病気であり検査結果が陽性の割合が0.9%、間違った陽性は9.9%。間違った陰性が0.1%で、正しい陰性が89.1%です。


深刻なケースである場合ほど「基準率の錯誤」は発生しやすい

ガンとかエイズなど深刻な病気の場合やテロリズムなどに生死に強く関わることの確率のとき、この基準率の錯誤は発生しやすくなります。

対策

頑張って、計算する

計算に慣れておくのも良いでしょう。確率は、「確率の無視」でも触れましたが、人間の苦手とするものです。


応用

携帯電話キャリアの値段設定などは、基準率の錯誤や確率の無視などを使って複雑化していると思います。


オススメ本

認知バイアスやヒューリスティックについての権威であり、 ノーベル経済学賞受賞者のダニエル・カーネマンの著書『ファスト&スロー』。役に立つだけじゃなくて読みやすい!(長いけれど、楽しく読めます。)


関連した認知バイアス

•確率の無視(Neglect of probability)
不確かな状況下では、確率を完全に無視する傾向。


認知バイアスの一覧

認知バイアスとは、進化の過程で得た生き延びるための工夫がエラーを起こしたもの。こちらの記事で一覧にまとめています。


参照

※1:Base rate fallacy

※2:Amos Tversky and Daniel Kahneman “Causal Schemas in Judgments Under Uncertainty”


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