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脳は勝手に記憶を要約する “ピーク・エンドの法則”

「認知バイアス大全」マガジン

認知バイアスとは、わたしたち人間の非合理な行動傾向です。間違っているのに、正しいと判断してしまうもの。だいたい200くらいあります


騒音による不快さ

ある実験(※3)で、グループAの人々は、大音量の不快な騒音にさらされましたグループBは、グループAの人々と同じ大音量の不快な騒音にさらされましたが、最後のほうでいくぶんましな騒音が追加されました。グループBの人々の不快さ度合いは、意外なことにグループAより低いものでした。騒音にされされている時間は、グループAよりも長いにも関わらず。これは、最後に「いくぶんましな騒音」が、記憶のなかの不快さに影響を及ぼしたために起こった差です。人は、このように物事のピークとエンドで、記憶を要約します。これを「ピーク・エンド効果」と呼びます。


ピーク・エンドの法則

ピーク・エンドの法則(Peak-end rule)とは

過去の経験をその時間や経過ではなく、そのピーク時にどうだったか、とどう終わったかだけで記憶する傾向

です。ピーク・エンドの法則は、体験が楽しいものか不快なものかに関わらず発生します。また、この法則は、明確な開始期間と終了期間がある場合のみ発生します。「終わりよければ全て良し」というアフォリズム※があります。ウィリアム・シェイクスピアの戯曲「All's well that ends well」のタイトルにもなっています。これは実際に、人間の認知バイアスのひとつになっています。わたしたちは、記憶するとき、一番盛り上がった部分と終わりの部分で記憶を形成します。ゆえにピーク・エンド。これを提唱したのは、ダニエル・カーネマン。

アフォリズム(英語:aphorism)とは、教訓や真理を短い言葉でまとめたもの。語源はギリシャ語のaphorismos。金言とか箴言(しんげん)。

ダニエル・カーネマンの著書『ファスト&スロー』

ダニエル・カーネマンの『ファスト&スロー』は、このピーク・エンドの法則以外にも焦点錯覚やプライミング効果、プロスペクト理論など、わかりやすく使える知見がいっぱいです。


ピーク・エンドの法則を実証した別の実験

1993年の実験で14度という冷たい水に60秒手を入れて計測した不快感の平均が8.44でした。この対象グループとは別に、14度という冷たい水に60秒手を入れてからさらに今度はちょっとだけ温かい15度の水に30秒手を入れていたグループの不快感を調べると、平均して8.34でした。

不快な時間は最初のグループより多く経験しているのに、後者のグループのほうが不快感が減っています。終わりの印象が、前者のグループより良いため、記憶としては、ましにまっているんです。騒音を使って同じような実験結果も2000年の研究で出ています。

日常にみるピーク・エンドの法則

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わたしたちはアトラクションでの興奮(ピーク)を記憶しますが、待たされていた時間はあまり記憶に残しません。

テーマパークのアトラクションで長時間待たされることはよくあります。しかしアトラクションそのものは数分で終わってしまいます。にもかかわらず、わたしたちは、行列に長時間並んだことを忘れ、アトラクションそのものを記憶します。これもまたピーク・エンドの法則の一例です。


対策

ゴールと所要時間を記録する。わたしたちの記憶は当てにならないから。


応用

終わりを良くする

クオリティの高い(そして値段も高い)レストランに行くと、帰りしなに店主たちが、店のそとで見えなくなるまで見送ってくれることがよくあります。接客を尽くしてくれた記憶を形成するピーク・エンドの法則の活用例です。


関連した認知バイアス

持続の軽視(Duration neglect)

不快な事件について、どれだけ不快な期間が持続したかをあまり問題にしない傾向。


参照

※1:Peak–end rule

※2:ピーク・エンドの法則

※3:Well-being: The foundations of hedonic psychology.

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