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“イケメンは嫌な奴”という思い込み 「バークソンのパラドックス」

「認知バイアス大全」マガジン

今回紹介しているバークソンのパラドックスは認知バイアスのひとつ。認知バイアスは、こちらのマガジンにまとめています。


“イケメンは嫌な奴”か?

イケメンだじゃなく美人についても当てはまる歪んだ認知バークソンのパラドックス

イケメンが性格が良いか悪いかということを扱うわけではありません。どのようにしてデータが歪められるのかということを紹介するのがテーマです。わたしたちは、統計を行うとき、ちょっとした盲点がつくりだしてしまうことがあります。そんな盲点のひとつを「バークソンのパラドックス」と言います。

バークソンのパラドックス

バークソンのパラドックス(Berkson's paradox)とは

一部を欠落したデータを無自覚に使うことで、真実を歪めた統計結果を生み出してしまう傾向

です。医療統計学や生物統計学で出現しやすいバイアスです。バークソンのバイアス(Berkson's bias)、バークソンの誤謬(Berkson's fallacy)とも呼ばれます。アメリカの統計学者、ジョセフ・バークソン(Joseph Berkson)による発見。バークソンのパラドックスは、言い換えると「表向きの相関と真の相関が異なりうる」ということです。

「イケメンは嫌な奴」というイメージの生まれ方

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ほんとうに嫌なやつもいるかもですが(笑)

行動経済学者のライオネル・ページ教授が、バークソンのパラドックスをわかりやすく解説してくれています。(以下の画像はページ教授のツイートより引用。)

まず「性格と容姿は無関係」という前提にします。そしてメンズの特性のうち2つをピックアップしてプロットしていきます。ちなみにこれは女性からみた男性像です。2つの特性とは「性格の良し悪し」と「容姿の良し悪し」。いわゆる「いいやつか悪いやつか」と「イケメンかブス」か。これらに偏りがない場合、分布はこのようになります。

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右にいくほど「良いやつ」で、左に行くほど「嫌な奴」です。上に行くほど「イケメン」で下に行くほど「ブス」です。なので、左上から時計回りに「イケメンだけど嫌なヤツ」、「イケメンで良いヤツ」、「良いやつだけどブス」、そしてオレンジ色になっているのが「ブスで嫌なヤツ」です。青い線は、男性の性格と容姿の相関関係を示しています。ここではフラットになっています。

女性は、付き合う対象の男性について考えるとき、オレンジ色の「ブスで嫌なヤツ」は対象外になります。考えるまでもない対象のために無かったことにしてしまいます。さらにちょっと「イケメンだけどすごく嫌なヤツ」(左上のちょっとしたあたり)も対象外。それから「かなりブサイクで、少しだけ良いヤツ」(右下の一部)のやっぱり対象外。これらの男性を女性は、迷わず対象外なのでサンプルから除外します。先にも述べたように「無かったこと」にしてしまいます。そうするとデータはこのように変わってしまいます。

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このようなデータになると容姿と性格の相関関係が、図のように右肩下がりに変わります。そうして「イケメンだと性格が悪く、良いヤツだとブスになっていく」というデータになります。これがバークソンのパラドックスです。

バークソンのパラドックスとは、このようにデータの一部を無自覚に欠いてしまうことで歪んだ相関関係を認識してしまうことです


「高校の成績が良いヤツは、センター試験の成績が悪い」

大学の新入生を見てみると、どうも「高校の頃の成績が良いヤツほど、センター試験の点数が低いようだ」という相関関係を見出すことがあります。これもバークソンのパラドックス。データはどのように欠損しているのでしょうか。次の図(これもページ教授のツイートから引用)をみてください。

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GPAというのが「高校の成績」で、SATが共通一次試験の結果(いわゆる日本のセンター試験のようなもの)。点全体をみると高校の成績が良いほど、センター試験の成績も良いことが伺えます。当たり前といえば当たり前です。しかし対象を「大学の新入生」とするとどうなるのか。それが青い点です。高校の成績が良い人たちは、もっと良い大学を選んでそっちに言っているため、「大学の新入生」のなかに含まれません。また逆に高校の成績が悪いひとたちは、大学に受からないため、排除されてしまいます。結果、入学した学生たちは、図の青い点だけになります。そしてこの青い点だけを見ると「高校の成績が良い学生ほどセンター試験の成績が悪い」という相関関係が見えてきます。これもバークソンのパラドックスです。


対策・応用

統計を扱い場合はチェック項目にバークソンのパラドックスがないかを含めておいたほうが良さそうです。

統計を扱う場合(特に医療や生物統計学において)、このバークソンのパラドックスをチェック項目に設けておくこと。

ちなみに「原作は良いのに映画化されるとひどい出来になる」と感じたことありませんか?この印象を形成するときには、「原作が悪くて映画の出来も悪いもの」とか「出来の悪い原作」というものが排除されています(笑)。

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原作も映画も悪い映画が考慮する対処に含まれていないかも!?


関連した認知バイアス

•確証バイアス(Confirmation bias)
仮説や信念を検証する際にそれを支持する情報ばかりを集め、反証する情報を無視または集めようとしない傾向。


認知バイアス一覧

まとめて認知バイアスをみることができる一覧記事も設けています。


参照

※1:Berkson's paradox

※2:「イケメンはイヤなやつ」など直観に反する統計結果を生み出す「バークソンのパラドックス」とは?



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