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貨幣の実質の価値なんて把握するのはしんどい「貨幣錯覚」

貨幣錯覚

貨幣錯覚(Money illusion)とは

実質値ではなく名目値に基いて物事を判断してしまう傾向

本来、貨幣価値の変化を考慮した購買力によって判断しなければならない時に、金額を通じて判断を行なってしまうこと。貨幣の中立性が成立しなくなる一要因である。

本来、貨幣そのものには価値がなく、貨幣が「どれほどのものと交換可能か」ということが貨幣の価値を決めています。ゆえに世紀末を描いた映画なので紙幣を「もはや紙くず」と表現することがありますが、あれは紙幣に商品や何か物質と交換する価値がないことを描写したものです。

しかし人間は、貨幣のこの相対性をうまく理解できません。1万円は、なんとなく「1万円」に対して思い描いている価値で捉えてしまいます。これが「名目的」というニュアンスです。このニュアンスを参照して人は行動します。この行動傾向についてアメリカ合衆国の経済学者アーヴィング・フィッシャー(Irving Fisher)は「貨幣錯覚」と名付けました。貨幣錯覚は、多くの分析や実験などにより、その存在を確認されています(※1)。

インフレーションのずる

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10%のインフレーションが起きていることを知っている企業が、名目賃金を5%引き上げたとします。30万円だった給料が31万5千円なるわけです。これより従業員は「給料が上がった!」と感じますが、実質は10%のインフレーションが起きているので、お金の価値は10%下がっています。故にお金の価値は、名目上31.5万円でも28万3500円の価値になっています。

逆に、1%のデフレ経済においては、給料が500万円から499万円に下がったとき、給料が減ったように感じますが、デフレにより貨幣の価値が上がっているので、その度合がこの場合1%なので、499万円×1.01であり、デフレになる前の価値として約504万円に相当していることになります。にも関わらず「給料が減ったので支出を減らしましょう!」という気持ちになるのが「貨幣錯覚」です。


貨幣錯覚を使った政策

貨幣錯覚を使うとインフレが起こっているときに名目賃金を引き上げることで、(実際は収入が増えているわけでもないのに)人々の消費を増やすして総需要を増加させることが可能になります。ゆえに短期的には、貨幣錯覚によってインフレ率が上がることで雇用を増やすことができます。しかし長期的には是正されてしまうため(魔法がとけてしまって)、失業率が正しい具合になっていきます。

投資家も勘違いする

高いインフレ率のとき、株価が低迷する傾向がありますが、これは投資家が高インフレに伴う高い名目金利を実質金利と誤認するためだという説があります(※2)。この傾向を利用して、インフレ率を引き上げる金融緩和政策が、株価の高騰を抑える効果を持ちえます。逆に低インフレ期には、実質以上に金利が低いと感じてしまい、株価バブルが起きやすくなります。

認知バイアス大全

紹介した認知バイアスをマガジンにまとめています。


参照

※1

※2:株価とインフレーション:日本のデータについての検討

※3:


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