2021年によく聞いたアルバム

2021年のアルバムではない。そもそも今年はあまり音楽を聴かなかった。音楽を聴きたい気分でいることが少なかったから。それでも音楽を聴くときは、音楽を聴きたい気分でないときに聴ける音楽ばかり聴いた。文字を書く元気がない。でも短くとも書いておくと、あとあと自分が助かったりするので、メモ書き程度でも残しておく。

Ray Barbee Meets the Mattson 2 / Ray Barbee Meets the Mattson 2

Tommy Guerrero周辺のスケーターたちの音楽が好きでよく聞いていた。Ray Barbeeもそんなスケーターの一人。主にギターを弾くが、ベースに鍵盤、パーカッションもこなすマルチインストゥルメンタリスト。本作は双子のジャズ・デュオのThe Mattson 2との共演盤。Tommy Guerreroも参加している。いつ聞いてもいい。ミストーンにも聞こえるエレキギターの音が詰まってしまうところまで、すべていい。なんらかの発作によりギターが聴きたいときは、だいたいこれを聴く。まぎれもない音響派の作品。「いわゆる」と前置きしなくていいポストロック。Ray Barbee単体のときよりもジャズに比重を置いているが、それでもやはりサーフロックやファンクのエッセンスも感じる。もっとダブ、ファンクなどブラックミュージックに寄せたのがいいならBlktop Projectを、Sea And Cake方面のラウンジミュージックっぽいポストロックだとRay BarbeeのIn Full Viewあたりを聞くのがいいんだと思う。

David Sylvian / Manafon

一年中Manafonを聴いていた記憶がある。気のせいかもしれないと思って初めて聞いた月を確認したら今年の二月だった。ほぼ一年中聞いていいるで間違っていない。

Manafonについては前に書いた文章があるのでいま特にいうことはない。

これが気に入ったらBlemishも聞くとよい。

Guitar / It's Sweet To Do Nothing!

最先端の音楽、エレクトロニカ。十月はほとんどエレクトロニカばかり聞いていた。Guitarもそのときに知った。ComputerjockeysのMichael LücknerとAyako Akashibaのデュオ。Guitarというユニット名は検索に困る。初期はシューゲイザーにヒップホップのビートを噛ませた曲もやっていたが、このアルバムではそういった側面は完全に影を潜め、クラシックギターとストリングスのサンプリングを多用。ポストクラシカルのサウンドに接近している。おもしろサンプリング音楽が好きで、室内楽的な少人数編成の弦の音が好きなので、このアルバムは全部好きということになる。いいループが聴きたかったらこのアルバムを流せばよい。

Swod / Gehen

最先端の音楽、エレクトロニカ。十月はずっとエレクトロニカばかり聞いていた。一か月も聞くと、まったくわからないところから、その音楽のどこに惹かれるのか、理由の一端を言葉にするくらいのところまではいく。列挙するとこうなる。音響とテクスチャーへの偏執。システムに基づいたランダム、あるいはコンプレックスなゆらぎのリズム。普通に考えたらよくない音、機能的でない音を積極的に取り入れていく実験的姿勢。そしてそれらの実現のためにサンプリングが多用されること。ぼくがエレクトロニカで好きなのはそういった部分だということになった。このアルバムにはそのすべてがある。ピアノのサンプリングを多用した、これもポストクラシカルっぽいアルバムだ。ときおり入るぼそぼそ話す声もいい。マイクロスコピックなグリッチサウンド、エレクトロニカでしばしばイメージされるぷちぷちピリピリした音がしている。OvalのDo Whileから十年もあとのアルバムなのに、まだクリシェの感じがしない。Swodがすごいってことでもあるし、Ovalがすごいってことでもある。

Mono Fontana / Cribas

アルゼンチン音響派というものがあるらしい。全然知らなかった。Mono FontanaはアルゼンチンのロックバンドLuis Alberto Spinettaのドラマー、ピアニストとして有名らしい。これも知らなかった。今度聞いてみよう。Mono Fontanaは1stも間違いなく傑作なんだけど、繰り返し聞いているのは2ndの方だ。フィールドレコーディングと浮かんでは溶けていくようなピアノのコラージュ。言葉にするとよくありそうなピアノ・アンビエントだけど、実際に聞くと特別なものを感じる。似ている音がなにも思い浮かばない。いまだかつて聞いたことのない音がしているのに、なぜか強烈にノスタルジーを感じる。もっとも切実な郷愁は、存在した過去ではなく、決して存在しなかった過去に向けられる。

朝生愛 / The Faintest Hint

ギターを抱えた女性シンガーソングライターがスロウコアをやっていると想像すれば、そう遠くない。そこにうっすらとしたシンセ、ドローンやフィールドレコーディングからなる不穏な音響がまとわりつく。遅くてスカスカな音楽。なにより好きなのはボーカルで、震え、かすれる声が頼りなく濁っている感じがしてたまらない。今年の初めの寒いころに特によく聞いていて、最近寒くなったのでまた聞いている。

Richard Youngs / May

Richard Youngsでよく聞くアルバムと言えば無垢なクラシックギターとはかなげなボーカルがいつまでも遠くで響いているSapphieだったんだけど、今年はドライな質感で生々しいアコースティックギターが印象的なMayをよく聞いた。曲でいうとGlidingがとにかくよくて、まちがいなく今年一番聞いたギターリフ。すべて透き通っていて美しい。十代のころニール・ヤングとコリン・ブランストーンに求めていたものを、いまはRichard Youngsに求めている。

Danish String Quartet / Last Leaf

ECMもの。クラシックはあまり聞かないけど室内楽は好き。弦楽四重奏は特に。本作はデンマーク弦楽四重奏団による北欧トラッドのアレンジ。コメントできるだけの知識がなにもないが、さすがトラッドをやっていてもフィドルではなくバイオリンだなあという感じはする。どの曲もいいんだけど、特に6曲目の”Æ Rømeser”でビオラが主旋律を担うパートには息をのんだ。これは動画で見てみて。

こうして振り返ってみると、思ったよりはいろいろ聞いていた。よかったね。偏った選曲をしているので好みがわかりやすいと思う。こういう音楽が好きなので、オススメがあったら教えてください。終わり。

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