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手話通訳者全国統一試験「聴覚障害者活動、関係団体について」2021過去問⑨解説〜3・3声明、全国手話通訳問題研究会〜

2021年度手話通訳者全国統一試験の過去問について、参考文献をもとに独自に解説をまとめたものです。


問9.聴覚障害者活動、関係団体について

聴覚障害者活動関係団体について述べています。下記の(1)〜(4)の中から正しいものを1つ選びなさい。

(1) 警視庁通知により、重度聴覚障害者の運転免許は補聴器なしでもワイドミラーと聴覚障害者マークの装着を条件に取得可能になった。
(2) 生徒にわかる授業への改善を求めた一連の出来事の経過と問題点を発表した京都府ろうあ協会(当時)の声明文を「3・3声明」という。
(3) 手話や手話通訳、聴覚障害者の社会生活問題についての研究・運動を行う全国組織に全国手話通訳問題研究会があり、学術研究組織として日本手話通訳士協会がある。
(4) 世界ろう者会議が1991(平成3)年、東京で開催されたことが契機となって日本国内のろう学校建設やスクールバスの寄贈などが広がった。

2021年度手話通訳者全国統一試験 筆記試験 問9

問題解説

(2)が正しい。聴覚障害者の活動や団体についてその設立の経緯を含め理解しておきたい。

運転免許を獲得するまで(道路交通法規則改正)

その頃、岩手在住の樋下氏が耳が聞こえないという理由で運転免許を与えられず、仕事上の理由かやむを得ず無免許で運転していたところ起訴された。これに抗議し全日本ろうあ連盟を中心として自動車運転免許付与運動が始まった。

1973(昭和48)年に道路交通法施行規則が改正され、補聴器を使って10mの距離で90dBの警音器の音が聞こえればよいことになった。樋下氏も補聴器使用による免許を取得することができた。

2001(平成13)年、道路交通法は「耳が聞こえない人に免許を与えない」という規定が削除されたものの、適性試験における聴力検査規定は残され、自動車免許を取れるのは補聴器を使えば10mの距離で90dBの警音器の音が聞き取れる人に限られていた。聴覚障害者の粘り強い運動の結果、道路交通法が改正され、2008(平成20)年6月1日から、聴力要件を満たさない場合にも条件付きで自動車運転免許(普通乗用車に限る)が認められることになった。

聴覚障害者はなおも運動を続けた結果、道路交通法施行規則が改正され、2012(平成24)年4月1日から、普通乗用車のほかに5t未満の貨物車も条件つきの自動車運転免許が認められるようになった。この条件とは、特別教習を受けたこと、ワイドミラーまたは補助ミラーを装着することの2点に加え、この条件つきの免許を使って運転するときは、聴覚障害者マークを自動車に取りつけて表示する義務がある。

その後も運転免許取得の範囲が拡大され、2017(平成29)年3月12日から、新たに準中型自動車免許が設けられ、聴覚に障害がある方が運転できる自動車の種類が拡大された

警視庁(愛知県警HP)より
警視庁(徳島県警HP)より

✔よくわかる!手話の筆記試験対策テキスト,全国手話研修センター,中央法規,2014

3・3声明とは

1965(昭和40)年11月18日、京都府立聾学校高等部生徒全員が写生大会を拒否するという事件が起こった。生徒は、生徒にわかる授業への改善を求めて、教師との懇談を要望したが、学校側は、差別的で無責任な態度に終始し事件への発展した。当時の京都府ろうあ協会はこれを「ろうあ者に対する差別」としてとらえ抗議するとともに、事件の経過と問題点を1966(昭和41)年3月3日「ろう教育の民主化をすすめるためにー[ろうあ者の差別]を中心として」の声明文を発表した。これが「3・3声明」といわれるものである。

全国手話通訳問題研究会

全国手話通訳問題研究会とは

全国手話通訳問題研究会は手話や手話通訳、聴覚障害者問題についての研究・運動を行う全国組織で、会員10,000人を超えている。全国手話通訳問題研究会は全都道府県すべてに支部を置き、聴覚障害者団体とともに地域の福祉向上のための学習や活動を行っている。機関紙「手話通訳問題研究」の発行、研究図書などの出版を行い、聴覚障害者の問題の啓発に努めている(手話通訳Ⅱp63)。

全国手話通訳問題研究会は手話や聴覚障害者の問題を考えるすべての人を会員対象とした個人加盟の全国組織である。手話通訳者だけ組織ではなく、さまざまな仕事をもった幅広い層の会員で構成されている。

全国手話通訳問題研究会の設立

全国に点在していた手話通訳者が集まり、恒常的な全国組織結成の必要性が議論され、1974(昭和49)年に設立された。当初、278名の会員でスタートし、現在は10,000人を超える会員を擁する組織となった。2010(平成22)年、長年の課題であった法人格を取得し、一般社団法人全国手話通訳問題研究会となった。

全国手話通訳問題研究会の理念

「ろうあ者の暮らしを見つめ、ろうあ者の暮らしから学ぶ」ことを基本的な視点に据え、会の活動を展開してきた。手話を伝達手段としてだけ学ぶのではなく、その手話を使用し、同じ社会に生きているろうあ者の聞こえないことから起こる差別、暮らしにくさを学び、その解消のためにともに歩むことを基本にした。いいかえれば、「学びつつ活動し、活動しつつ学ぶ」という姿勢である。

実践的には、「アイラブコミュニケーションパンフ」普及運動、「障害を理由とする欠格条項撤廃」運動などを全日本ろうあ連盟とともに進めてきた。全国手話通訳問題研究会がろうあ運動と「車の車輪」の関係といわれるゆえんはこの歴史から作られてきたものといえる。

✔よくわかる!手話の筆記試験対策テキスト,全国手話研修センター,中央法規,2014(p133-135)

手話活動と手話通訳活動

全国手話通訳問題研究会の初代運営委員長であった伊東雋祐は、著書の中で以下のように手話や聴覚障害者、手話通訳にかかわる活動を整理している。

◯「手話活動」…聴覚障害者の生活や文化向上をめざし、集団的に手話を学んだり、広めたりする活動(集団とはろうあ者も健聴者も含む)
◯手話通訳活動…より豊かな手話通訳をめざす集団的な取り組み
◯手話運動…権力に対する側面をもち、全国的な視野に立ちながら「手話活動」をさらに大衆的に拡大した取り組み
(講義テキストp10)

日本手話通訳士協会

日本手話通訳士協会は、1989(平成元)年に第1回「手話通訳技能検定試験(手話通訳士試験)」が実施された後、3年を経過して設立された。手話通訳士の資質および専門的技術の向上と、手話通訳制度に寄与することが設立の目的とされた。

手話通訳士試験開始までには多くの検討が行われ、1982(昭和57)年に連盟は厚生省(当時)から委託を受け「手話通訳制度調査検討委員会を」設け、1985(昭和60)年には「手話通訳制度調査検討報告書」を提出し、その中で手話通訳士制度の必要性について提言した。翌1986(昭和61)年には「手話通訳認定基準策定委員会」が設置され、1988(昭和63)年には「『手話通訳士』(仮称)認定基準等に関する報告書」がまとめられた。このような経過を経て、「手話通訳技能認定試験(手話通訳士試験)」の実施に至った。

手話通訳士の社会的認知は年々進んでおり、手話通訳士の登録者総数は2023年8月現在、4,075人である。日本手話通訳士協会では、具体的に次のような活動を行っている。

①手話通訳士の現任研修
②手話通訳士に関するさまざまな情報を発信する活動
③手話通訳士を目指す人の学習支援
④手話や手話通訳に関する相談

障害者権利条約の批准、障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律の成立等、障害者一人ひとりが生きやすい社会環境が整いつつある。このようななか、聴覚障害者の社会参加において、手話通訳士の役割はますます大きくなっている。

✔よくわかる!手話の筆記試験対策テキスト,全国手話研修センター,中央法規,2014(p147-149)

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