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「フィーリング」(昭和51年 1976)HI-FI-SET

 もしも、当時、流行語大賞があったら、おそらく大賞を獲ったかもしれないと思います。曲もヒットしたし、「フィーリングが合う・合わない」という普段遣いがこの頃されていたと思います。でも、今やこれも死語ですね。

 当時、「ニューミュージック」というジャンル(これも流行語大賞候補になったと思います)が言われるようになって、いわゆるプロの作詞家・作曲家ではなく、主に、シンガーソングライティングされた曲たちがこのジャンルに《《属》》《《させられ》》ました。だから、中には、「俺の曲はニューミュージックじゃない!ロックだ!」とかジャンルの住み分けに不満を述べるミュージシャンもいらっしゃいました。
 現に、当時、レコード屋に行くと、ミュージシャン名の五十音順にレコードが並べられていましたが、ミュージシャン名ひとつでは山を設けられない(要するに売れていない)ミュージシャンは、この「ニューミュージック」と書かれた仕切りの中にレコードが納められていました。

 で、このHI-FI-SETは、当時のニューミュージック界の申し子的存在だったと記憶しています。「翼をください」で有名な“赤い鳥”から抜けた山本潤子と山本俊彦、そして、大川茂の3人グループです。
 あべ静江同様(何度も登場させてしまいますが 笑)、当時の山本潤子の美貌にも、美声にも、子どもだった私は引っ掛かることなく見聴きしていましたし、むしろ、彼らが歌番組に登場しても、退屈で、「早く次の人、歌わないかな~」なんてことを思っていた記憶があります。

 が、この山本潤子。好きです!(笑)
 容姿も、少し憂いのある話し方、歌い方も、名前の通りに、彼女が歌うワンフレーズに潤いが感じられる声。お歳をとられても、それらが錆びついていらっしゃいません。彼女と同世代の男性で、“赤い鳥”からのファンであれば、私以上の感情をお持ちだろうと思います。

 前置きが長くなりました。
「フィーリング」ですが、おそらく、彼らのキャリアの中での最大のヒット曲だったろうと思います。が、これがカバー曲だったというのを知ったのはだいぶ経ってからでした。
♪(原曲)「Feelings」Morris Albert https://www.youtube.com/watch?v=pIICi7KjfI0
 ブラジルのシンガーソングライター、モーリス・アルバートの曲で、日本語訳詞を見るとわかりますが、失恋した男性が女性に向かって未練悲しく歌う曲になっています。だから、「フィーリング」のなかにし礼は訳詞ではなく、作詞と言っていいと思います。
♪(日本語訳詞)「Feelings」Morris Albert https://www.youtube.com/watch?v=e2ULxNnar5U
「死ぬまで感じるだろうこの感じ」と彼は歌い上げていますが、どんだけの失恋なんでしょう(遠い目になって思い起こせば、私も彼の気持ちがわからんわけでもありません 笑)

 しかし、なかにし礼は、「死ぬまで覚えている」とは全く真逆な詞をつけました。
「ただ一度だけのたわむれ」「その場かぎりのまぼろし」「今 あなたとわたしが美しければ それでいい」といった具合に、この行きずりの恋、もしくは、事情があっての一度だけの情事を、一見、日本語的感覚の“フィーリング”という語を使って女性がサラリと歌い想っている、《《ように見える》》詞を書いたのです。
 この、日本語的感覚の“フィーリング”というのは、「愛」のように重くなく、ドロドロしていなく、あくまでも“軽い”感じで当時も捉えられていたし、この曲に登場する女性像も、未練たっぷりで北国に向かう汽車で車窓を眺める演歌風な女とは違う、もっとスマートで軽いものなんだ、と捉えられていたはずです。

 しかし、わかったようなことを繰り返し言っていながら、この歌の最後に彼女は「泣かないわ」とリフさせます。ということは、「ただ一度だけのたわむれ」「その場かぎりのまぼろし」「今 あなたとわたしが美しければ それでいい」といった詞は皆、未練を捨てなければならない!と女性が自分に言い聞かせている言葉たちなのではないか。北国行きの汽車には乗らないけれど、この曲の女性も日本人らしい日本人なのだと。それを、なかにし礼は、最後のたった一言「泣かないわ」に込めたのではないか、と。

 私にしては珍しく、サビ以外のAメロ・Bメロが大好きな曲です。
 まず、繰り返される二語。
「《ただ》 一度だ《けの》 たわむれ《だと》」 
「《もう》 逢えない《こと》 知ってた《けど》」
 この二語を山本潤子はアクセントを付けて歌って、私たちに印象付けていると思います。
 その後の、
「そうよ」は、二番にも登場しますが、一番と二番では歌い方を変えています。まるで、男と女が会話をしながら到達点を見出した感じを二番の「そうよ」で表しています。
 私が特に好きなのは、二回登場する「今」です。一拍遅れて、それでも、短くはっきりと言っています。

 原曲の美しいメロディ、なかにし礼の短くも秀逸な作詞、そして、憂いと潤いをもって歌い上げる山本潤子。
 私は、職場の休憩時間に、廊下で口ずさんでいます(笑)

♪「フィーリング」(昭和51年 1976)HI-FI-SET
 作詞:なかにし礼 作曲:Morris Albert
 https://www.youtube.com/watch?v=gf6paF1fx2E(静止画 フルコーラス)

 https://www.youtube.com/watch?v=NFW6xU2aAFo(紅白歌合戦ショートバージョン)