『キングオブコント2021』感想
◆ファーストステージ◆
蛙亭【実験体No.164】…461点(ファーストステージ6位)
人工生命体ホムンクルスを作り出す研究所で実験体No.164(中野)が脱走してしまう。No.164は研究所の責任者(イワクラ)と出会ってしまい…。
今大会がここまで高レベルで、高水準な得点に繋がったのは間違いなくトップバッター蛙亭のおかげ。ちょっと凄すぎる。
まず、中野さんが出てきた時のウケで今年の成功を確信したよねという。しかもその後緑のスライムを吐き出した後、キャーってなりながらもちゃんと笑いに繋がってるの見て、あぁ今年は大丈夫そうだなっていう。中野さんの持つ引かれ過ぎずちゃんと気持ち悪い面白さが前面に出ていたシーン。
その後の「お母さん!」とか絶対笑っちゃうしな。本当に天性の声だと思う。「きついなぁ~」とか「褒め過ぎ~!」とか、今出てきたばかりの人工生命体とは思えない軽さみたいなのもあまりにも絶妙に表現されていて見てて「違和感のない違和感」を味わえる。
出てきたばかりでオムライス食べに行こうとしたり自分の製造番号を「ひろし」と語呂合わせできてしまったりする、そんなNo.164に徐々に研究者イワクラさんが母性・愛着を覚え、No.164が撃たれた時に「ひろし…!」と呼ぶシーンは面白いしなんか良い。
最後、イワクラさんがNo.164の腕を引っ張ってオムライスを食べに行くシーンで暗転するんだけど、暗転際の中野さんの何とも言えない声が本当に大好きだ。中野さんは文字起こし出来ない、発音がよく分からないけど面白い声出すんだよな…。
蛙亭のコントはそれぞれ色んな面を持っているものが多いけど、このコントは極めて純粋な愛情みたいなものを表現して終わっていくのがとても良かった。
ジェラードン【角刈りガール】…462点(ファーストステージ5位)
転校してきた海野のもとにやってきたのはクラスメイトとなるニカイドウ・シュウジ(かみちぃ)。そして、その後にやってきたエリナ(西本)という女子生徒との関係は…。
トップバッターがウケると逆に2番手は苦しい気がして、ここでジェラードンか…!と思ってしまったけど、結果的に点数を1点上回り、蛙亭が作り出した最高の空気をそのまま引き継いだのがめちゃくちゃ素晴らしかった。
2019年、うるとらブギーズがトップバッターが高得点を獲得した際に2番手はそれこそネルソンズだったんだけど、その時は一度上がった点数基準が調整と言わんばかりに若干下がってしまいその後空気階段にその回のファーストラウンド最低点が付いたりと、「面白いのに…!」と悔しい思いをした事もあったので余計に良かった。
長髪で出てきただけでウケるかみちぃさんのパンチ力ね…。しかもその後にまだ本丸が控えてるんだからそりゃ強いよな。それと、かみちぃさん凄く良い声だよなぁ。ジェラードンのコントの中でも特に好きなタイプのかみちぃさんのキャラクターだった。
で、アタック西本さんがひょっこり袖から顔だけ出して、シュウジに「幼馴染のエリナ」と紹介されるシーン。ここで「幼馴染のエリナ!?」っていうストロングスタイルツッコミなの本当に強い。結局オウム返しが一番面白い瞬間。そしてそこからエリナが姿を現すシーン、そりゃ笑っちゃうよな。
アタック西本さんが女性役を演じる上での妙な甘ったるい発声方法笑ってしまう。当然その姿とのギャップもそうなんだけど、単純にあの発声方法なんなんだ。
そこから色んなやり取りが目の前で繰り広げられていって、今更!?っていうちょうど絶妙なタイミングで海野さんの「なんで角刈りなんだよアイツ」というツッコミが入るの素晴らしかった。誰もが最初に思うファーストインプレッションを敢えて中盤で初めてツッコんで面白いのすごい。その後のシュウジへのシンプルな「キモ~」ってツッコミも良い。
その後エリナがシュウジのジャージを着て登場するシーン。角刈りの西本さんが衣装もジャージになっちゃったら完全にオジサンだし、ここはそういう笑いなんだけど、散々西本さんの姿を女性として認識させられてきて感覚がバカになってるのでちゃんと「角刈りのオッサンみたいな女子がジャージを着てる」なのなんか笑った。
なんといってもオチ。海野さんがエリナを思い切りひっぱたいて去っていくというオチでここはもしかしたら賛否あるかも…だけど、自分は好きだ。
ここ最近「異質な人間を受け入れる」といった構造の笑いがトレンドというか、自分もそういうのは大好きだけど、やっぱりちゃんと異質な人間を異質な人間としてぞんざいに扱っているようなコントもとても好きだ。それはそれで多様性というか。
というかシンプルに思いっきりひっぱたいてたら結局笑っちゃうっていう。めちゃくちゃ単純な構造なんだけど。
男性ブランコ【ボトルメール】…472点(ファーストステージ3位)
サトウ・ミツル(浦井)はボトルメールをきっかけにタチバナ・マリ(平井)という女性と一年間文通をし、ついに初めて出会うことになる。映画のような出会いに胸躍っていると…。
準々決勝では男性ブランコの名前がTwitte上で最も呟かれていたりと、予選のレポで話題沸騰だったこのコント『ボトルメール』、とにかく楽しみにしていたけどそのハードルを遥かに超える良コントですごかった…!
まず波の音と共にフェードインして浦井さんの独白から始まった時点で、蛙亭・ジェラードンと濃過ぎるメンツの後とは思えないフラットさというか、確実に男性ブランコだけの空気作りが完成されてて感動。「これから何かが始まる」というワクワク感。「ボトルメール」という題材も今までにあまり見た事のない題材でとても良い。
そしてその丁寧な空気作りからの「清楚に見えた女性がゴリゴリの関西弁」というバラシで一気に爆発。男性ブランコは関西のコンビながらラーメンズに憧れている事を公言するなどスタイリッシュなイメージでコテコテの関西イメージ無いだけに、平井さんがガッツリ関西弁で喋り出すだけでちゃんと面白いという。
その後、平井さんの「言うてる場合か」という台詞をキッカケに再び浦井さんにスポットライトが辺り独白シーンに戻るところが美しい。スポットライトの下で「いやー、好きだなあ」とこぼすサトウくんと、その脇で揺らぐマリさんの対比も美しいし、ここで飯塚さんが拍手笑いをしているのが抜かれたシーンは今回屈指の場面だと思う。楽しんでたなぁ飯塚さん。
しかもこういうバラシコントってそこからの展開のさせ方がめちゃくちゃ難しいと思うのに、バラシ以降も爆発が何個も点在するような仕掛けになってるのが凄まじい。「いやー、好きだなあ」もそうなんだけど、いわば二重構造になってて、終盤にバラシを超える更なる仕掛けが待っている。
2度目の「言うてる場合か」をトリガーに再びピンスポットライトの下に浦井さんが向かい「愛が止まらないな」というセリフをこぼした、その後だ。
再び波の音が響き渡る。その波の音をバックに、「こんな人だったらいいなぁ」というセリフが置かれる。この台詞をきっかけに、一気にこのコントがパターンシフトしていく事となる。
そこからの情景はまるで追憶のようだけど、今から初めて現実が描かれていく。それを「こんな人だったらいいなぁ」というセリフだけで表現し、受け手にとってはっきり認識していないぐらいのギリギリの感覚のままコントを見せていく。
今まで現実だと思ってこちらが認識していた物語が主人公による空想であった事が明かされたのち、その空想通りの事が現実で起こる事で生まれる喜びが最初のバラシ以上の笑いを生み出す。これの本当に凄いところって、同じ事を二回やっているんだけど一度目は「想定外」で生まれる笑いで、二度目は「想定通り」だからこそ生まれる笑い、という部分だと思う。
ここまで空想の中だけで積み重ねてきたマリさんの「言うてる場合か」を現実で聞いて飛び跳ねて喜ぶサトウくんの姿良いなぁ。浦井さんのジャンプのし方面白過ぎる。「大好きだー!」で暗転していくのハッピーが凄いな。
ここ数年見てきたコントの中でも、ここまでコントを観終えた後に「読後感」みたいなものを感じたコントは無かったかもしれない。本当にイイもの見たっていう感覚。終わってからも暫く高揚が止まらなかった。
うるとらブギーズ【迷子センター】…460点(ファーストステージ7位)
迷子センターに「息子が迷子になった」と駆け込んできた父親(佐々木)。父親の言う息子の特徴を聞き、迷子センターのスタッフ(八木)は呼び出しの館内放送をかけるが…。
今大会は、このコントが7位という事こそが如何にレベルの高い大会だったかを象徴してるように思う。自分は、このコントが決勝で披露される時は、うるブギが優勝する時だと思っていた。
まず「定菱」。とにかく「定菱」という言葉が大好きだ。パッと聞いて「えっ?んっ?」ってなる息子の名前として100点なんだよなー。佐々木さんが焦りすぎて「てぃびし、てぃびし」って連発してるところ面白過ぎるし、冷静に八木さんに「ていびし…?」って名前を噛み締められてる姿もいいんだよな。
そこから続々飛び出す怪情報がまた良い。波のように押し寄せる意味わかんない情報たち。そして、それらが後半部分のフリとなっていく様が良い。
このコントの肝は「息子が迷子になって焦っているお父さんが息子の怪情報を連発する」ではなく(そう思わせておいて)、その後の「迷子の呼び出しをするも怪情報がツボに入ってしまい笑ってしまう」にあるので、このコントも二重構造的な側面がある。
うるブギで言うと『イタコ』のコントもそうだけど思わず笑っちゃう演技すごすぎ。ちょうどいい耐え方と吹き出し方。何故か思わず笑っちゃうのをお父さんのせいにしてるのも良い。笑い堪えながらの「失礼しました」の言い方が最高。
館内放送を仕切り直す際の空白の時間がお客さんのざわざわ声で埋められている空間もとても良く、『催眠術』同様まんべんなく笑いを持続させる力の強さを感じる。心落ち着かせてアナウンスに挑むんだけどやっぱり笑っちゃうから何も言わずにアナウンス打ち切っちゃうっていうフェイントかけるところがめちゃくちゃ好き。
個人的に一番好きな台詞は終盤の「ちょっと半笑いで連絡があったんで…」という台詞。この二人だけの対話だけではなく、デパート全体の情景も思い浮かばせてくれるような台詞で。
ニッポンの社長【バッティングセンター】…463点(ファーストステージ4位)
バッティングセンターに来ている学生(辻)の後ろで、学生のバッティングフォームを気にしているおじさん(ケツ)。おじさんは学生に話しかけ、フォームのアドバイスをし始め…。
まず、スロースタートなワクワク感が止まらない。何が起こるんだろう?というワクワク感。まずおじさん姿のケツさんがいるだけで面白いのも良い。
そして一番最初のデッドボールがケツさんに当たる場面。受け手に「あー危ない危ない…」って心理にさせて、「ギャー」とかじゃなくてガチのデッドボールの時の「ウッ」っていう感じなの面白過ぎる。
そこからとにかくケツさんがデッドボールを食らい続けるのに動じずにアドバイスを続けていて、どう見ても異常で違和感のある事態にもかかわらず、「その不条理さを裏付ける何か」がケツさんにはあるのがスゴい。なんなら自分から当たりに行ってる不条理さも何故か飲み込めてしまう異質さ。
ニッポンの社長のコントは発想一本で貫き通すコントが多いけど、とにかく飽きさせず受け手にのめり込ませる力が強すぎる。中盤の勝手にカード入れ出して当たりに行くくだりはめちゃくちゃ笑った。こういうボケが中盤に入ってくるのがニッ社という感じで本当に良い。
そして何と言ってもラスト。ケツさんが連続ホームランを繰り広げてそのままフェードアウトしていくシーン。ケツさんの真顔といい綺麗な左打ちといい、マジで衝撃のオチって感じで最高だった。最後大爆笑に包まれて終わっていくの理想の終わり方すぎて。あそこで一気に自分の中の「好き」が上がる。
そして全編通して辻さんの戸惑いの感情と「なんやねんコイツ」の感情の入り混じるおじさんへの対応が良いなぁ。
そいつどいつ【パック】…456点(ファーストステージ8位)
彼女(刺身)が一人座り込む部屋、そこに帰宅してくる彼氏・ユウくん(竹馬)。彼氏に背を向けていた彼女は振り向くとパックをしていて…。
唯一、今大会で生で観たことあるコント。6月によしもと有楽町シアターにて行われた「好きなネタ、2本ずつやるライブ」というライブにて。配信が無い事もあってコント師達が調整に入る中、ひときわウケていたコント。
『すっぴん』のコントもだけど、この二人の彼氏彼女コントは自然さに満ち溢れている。それぞれ、彼氏の喋り方だし彼女の喋り方なんだよな…。
物語は彼女のパックを中心に進んでいき、彼女がパックを利用して彼氏を執拗に怖がらせていくことでコントを加熱させていく。
電気を消してからの蓄光パックのシーンは、生で観た時の記憶をもとにテレビで見るとこんな感じなんだ!という嬉しさも。舞台を広々と使う見せ方がとても綺麗。
さらに舞台を縦横だけではなく「高さ」も使って表現を拡大してて、暗闇の中に光るパックがみるみる上昇していく光景は爆発しないわけがないポイントだなと。
ただ、初見の時は思わなかったけど、このシーンよく考えるとあの包丁の怖い音どうやってその場で出てるっていうテイなんだろうなーとか少し考えてしまったり。包丁を研いで音出してたとき、両手ふさがってたので…スマホで警察役を演じていた友人に音を出してもらってた、っていう設定になってるのかな。
割と評価が割れた印象だけど、それぞれの重視するポイントによって意見が割れやすいコントだとは思うし、今までの偏り過ぎてた審査を考えるとちゃんとコントの評価が割れてそれぞれの審査コメントがちゃんと聞ける喜びがあった。
ニューヨーク【結婚式の準備】…453点(ファーストステージ10位)
結婚式を挙げる男(屋敷)と、その式場の担当ウエディングプランナー(嶋佐)。担当プランナーは結婚式のプランの最終確認を得意げに話し出すが…。
ニューヨークがこういうタイプのドタバタ劇を演じるの割と新鮮で珍しいイメージ。
なぜかこのコント、式場の担当プランナー役の嶋佐さんが目に肌色のテープを付けて少し人相を変えてるんだけど、この目テープの感じが恐らく「本人達にだけ分かる特定の誰か」を模してそうでめちゃくちゃ笑った。物語上は別に必要ないんだけど、してるってことは必ず意味があるんだろうなっていうやつ。
で、実際そうらしくて、無限大ホールの舞台監督の方をモデルにしているらしい。こういう実際にいる人を模したコント、知らなくてもなんとなく「なんか、いるんだろうなぁ」で笑っちゃう。勿論知っている人にとってはもっとめちゃくちゃ面白いだろうけど。
ちょいちょいタメ口きいちゃってるところを屋敷さんがさりげなくツッコむところとても好き。
ただ、個人的にはニューヨークのコントはやっぱり、悪意だったり偏見だったり、人のダサさを追及するようなコントが好きってのはある。去年の2本もそういう傾向のネタって感じではなかったので、本人達の中で本当にやりたいコントは案外ストレート路線なんだろうな。
あとやっぱり講評でもあったけど終盤以外は「漫才でもできそう」な部分があって、漫才で言うと和牛の『ウエディングプランナー』のネタとかもあるので、新郎新婦登場のボケとかはその漫才を思い出してしまったり。
ザ・マミィ【この気もちはなんだろう】…476点(ファーストステージ2位)
街で一人、日頃の不満をぶつぶつとまくし立てているおじさん(酒井)。そこに、道に迷っている男(林田)がやってきて…。
最近、意外とこの手のコントはトレンドというか、今年の予選でもイノシカチョウや学天即がこの題材のコントを披露している。「ヤバいおじさんに当たり前のように話しかけるヤバい人」を題材にしたコントだ。この場合、いずれもそのヤバいおじさん側がツッコミとして機能する事となっている。
こういったコントの潮流の中でも、このコントは台詞回しやそこからの展開などがかなり傑出したものとなっている。
一旦、林田さんを泳がせてから一気に爆発させて受け手を引き込んだり、そんな中でさりげない「すごい来んじゃん」みたいなフレーズがとても良かったり。初対面の街のヤバいおじさんに2万借りようとしてる林田さんの無垢な異常性みたいなものもどんどん暴かれていく。
中でも特に突出して凄いセリフだと思ったのは、「ここになんかある」というめちゃくちゃシンプルなセリフ。感情の芽生えを最も単純に、或いは雑に表現したセリフなのでは。抽象的な言葉しか使っていないのに、ちゃんと伝わる良いセリフ。
そして最後は、歌詞がこのコントの題名にもなっている「春に」の合唱で締め括られていく。ヤバいおじさんとヤバい青年のコントが、急ハンドルで人間らしさの美しさという命題で締め括られる不条理さみたいな感じ。
ザ・マミィは古き良きコント性みたいなものも持っていて、そういう意味では煽りVでキングオブコント2010のCM曲でもある鶴『ハイウェイマイウェイ』で使われていたのはマジでベストチョイス。嗚呼、またオロナミンCを飲む芸人達のカッコイイ姿見たいな…。
空気階段【火事】…486点(ファーストステージ1位)
SMクラブに来ていたオカモト(かたまり)は、視界を奪われ縛り付けられている最中に火事に遭ってしまう。そこに、同じくSMクラブに来ていたヤマザキ(もぐら)という男がやってきて…。
すげーーー!!!歴代最高得点だーーー!!!このコントが歴代最高得点を叩き出したの、あまりにも文句なし過ぎて爽快感が凄かった。
最初からトップスピード…!明転して現れる裸で縛り付けられているかたまりさんと、次に現れるパンスト被った裸のもぐらさんの姿。なのに出オチキモコントじゃなくてめちゃくちゃ物語性のあるコントなのスゴい。誰も太刀打ちできないよじゃあ。
もぐらさんの大真面目な「私は消防士です!」という台詞は本当に衝撃的だったな…。しかもそこだけでもすげえコントだって興奮してたのに、その後中盤でかたまりさんが「私は警察官だ!」とか言い出して、本当に凄いものを目の当たりにしてるなと思った。
このコントは「SMクラブに来ていた男が火事に見舞われるコント」かと思いきや、「SMクラブに来ていた男が同じくSMクラブに来ていた消防士の男と共に火事から逃げるコント」かと思いきや、「SMクラブに来ていた警察官が同じくSMクラブに来ていた消防士の男と共に火事から人々を救うコント」である。
こんだけ乗っかってるのに、繊細に緻密に描かれている部分のお陰で一切渋滞していない。
このコントでは、日々人々を救い続ける「消防士」と「警察官」という二つの職業種が、「M」という性癖を通じて意図せず出会い、そして交わっていく様が描写されていく。
「問題ないです、Mですから」「そうでしたね」…こんなやり取りが、日々市民の安全を確保する公務員から出るだけでめちゃくちゃ面白いし、なんといってもかたまりさんの跳躍!画として美しすぎる。
また、警察官のオカモトが消防士のサキヤマの事をこの場においては、SMクラブを予約する時の名前であるヤマザキで呼んでいる点も、Mの紳士性を演出しておりとても良い。あくまでこのビルにおいては、二人は消防士でも警察官でもなく、Mなのであるという証明というか。「警察が本名で来ていい店ではない…!」って台詞しょうもないのに渋くて最高だった。
その後の社交ダンスの音楽をバックに二人の裸の男が大真面目に火事から一般市民を避難させている光景はあまりにも異空間で、社交ダンスの音楽が今までになく奇妙に思えてこんな効果的な音楽の使い方があるのかと感動。
そしてそんな中でもとりわけ衝撃を与えたシーンはやはりオカモトが倒れたサキヤマのパンストを引っ張り上げ起こそうとするシーンだろう。
古来より、パンスト芸はシンプルに「顔が面白い」という正面突破型のお笑いとして君臨していたが、そのパンスト芸を「そうならざるを得ない状況」に落とし込む事でその面白さを倍増させるというかなりエポックメーキングな発明だった。
単純に視覚的な面白さでも、もぐらさんのパンスト芸めちゃ面白いのに、そこに状況が乗っかる事でこうも良いシーンになるのか、と。「あんたはここで死んでいい人間じゃない!!」って言われながらパンスト引っ張られるってこの世に存在したんだ。このシーンで松本さんが笑いながら何かをツッコむ姿が抜かれてるのも、今年屈指の名シーン。
そして、無事人々も避難させ、自身も火事から脱出し…。Mを通じて、またどこかで会えるであろうことを確信する二人。
「そうだな、五反田あたりで」コントはこんな台詞で締め括られ、「Show me your firetruck」で暗転していくその様は、麒麟の川島さんがこのコントを「令和のバックドラフト」と称した事にも納得できる感動性だ。
正直ここ数年キングオブコントには裏切られる事もあったり、決勝の客層やなんやかんやとあって、なんとなく漫才を好むようになってコントから離れている部分もあったけれど…このコントを観終えて、改めてコントを愛する事の良さを取り戻しました。やっぱり良いなぁ、コントって。
マヂカルラブリー【こっくりさん】…455点(ファーストステージ9位)
こっくりさんを呼ぼうとする学生・野田とその友達(村上)。しかし友達は怖くなってしまいそれには理由があって…。
今年の出順は感染対策で知らない女の人が代理でくじを引いた、というのが反省会で明かされていたけど、そこでトリ出番が引かれるマヂラブどんだけ持ってるんだ…。いや、今年に関してはその一個前の出番を引いた空気階段が一番持ってると思うけど。
とにかくこのコントは漫才以上に野田クリスタルさんの表現力の高さを感じた一作だった。「こっくりさん」という一昔前の学校の怪談的な題材なのもマヂラブらしくて良い。
コント内では、こっくりさんにさらに不吉要素をてんこもりにして行った結果めちゃくちゃ強いこっくりさんに憑かれてしまう野田氏の姿が描かれていく。こっくりさんは、野田氏の先端に10円玉のついた一本指だけでキャラクター描写されていく。
たった一本の指で、こっくりさんの怖さや気持ち悪さ、時には愛嬌だったり、そしてその細かな感情までも表現していく様はとても見ていてワクワクした。お茶目な様も描写されていくし、「くだらねぇこっくりさんが出ちゃった」っていう村上さんのツッコミも笑った。
中でも魅入られたのは、死んだ野田氏をこっくりさんが引っ張り上げ身体を起き上がらせていく様だ。あまりにも自然に見える筋肉の動き。本当に魂が宿った一本指に身体が徐々に引っ張り上げられていくようで気味の悪い面白さだった。そういえばドラゴンボールの漫才でも死んでいく様を妙に生々しく表現したり、野田氏の表現力は元々高いものだったけどちょっととんでもないところまで来てるなと思った。
ただ、野田氏がこっくりさんに乗っ取られてからは完全に世界が村上さんと分断されてしまってる感があり、ある意味それが奇しくも漫才論争を呼び起こした『つり革』に被るものを感じてしまった部分も。ある意味『つり革』が漫才である証明になっているとも言えるけど。ツッコミ側からのバラシとなる序盤以外は、なんとなくマヂラブの漫才っぽい構成に思えた。
序盤で村上さんが霊現象を怖がっている描写がなされているので、こっくりさんに目の前で憑りつかれたクラスメイトに触れるわけにもいかず、怖いので逃げるわけにもいかず、という状況なのである程度自然ではあるけど、もう少し村上さんが介入してくるところも見たかったな。
序盤の「明日も学校だし」「俺もだし」みたいなさりげない台詞のやり取りがとても好みだったので、もう少し二人のやり取りも見たかったなと思う。
とはいえ、こっくりさんをここまで気味悪く愛くるしく表現しきったのは凄いとしか言いようがなく、空気階段の後だったからこそあっさりに思えた(実際ネタ尺も4分ちょい程度)けど、単体で見る部分にはめちゃくちゃ濃いコントだなと思う。
◆ファイナルステージ◆
男性ブランコ【袋】…463点(ファイナルステージ2位)・合計得点…935点(全体2位タイ)
会社員姿のモリくん(浦井)の目の前に現れたのは、お菓子を両手に抱きかかえてゆっくり歩いているマツダくん(平井)の姿だった。マツダくんはお菓子をぽろぽろと落としてしまい…。
このコント、平井さん元来のワードセンスが爆発していて好きだ。とにかく回りくどいというか、それでいて繊細なワードたち。
「拾って下さってるご様子」という何とも他人事のようで、感謝している事自体はちゃんと伝わってくるぶっきらぼうな台詞がとても好きだ。これだけでもうこのキャラクターの特徴が分かるというか。
めちゃくちゃどんくさいし勘も悪いんだけど、「僕が西洋の女の人でここがシャンゼリゼ通りだったら」、「せわしなくなってしまった、ランチタイムのような」といったワードが次々日常的に飛び出すやつなんだな、っていう愛おしさがある。
浦井さんに対して「僕がケチったレジ袋ですか?」と問いかけるシーンは、シソンヌのラーメン屋のコントの「あんた、神様だったんだな…!」に通ずるものを感じた。皆メガネだな…。
そして、実はこの二人に関係性がある事が明かされる。実はお菓子を拾ってくれていたモリくんは幼少時代のマツダくんにとっての唯一の友達判定を下した人間であった。その後の浦井さんのスライディング面白過ぎる。一本目のジャンプといい、ちゃんとアクションでの面白さも見せてくるのズルいなぁ。
そしてモリくんがレジ袋をあげるシーンでの、「この大の袋は5円じゃない」という台詞は、このマツダくんというキャラクターが確かにこの物語の世界には存在しているリアリティを色濃く表している。
今までのワードから受け手が形成していったマツダくんという存在が、確実にそこで言いそうな言葉を言ってくれてる。あんまり好きな言葉じゃないけど、「解釈一致」みたいな感覚なのかなぁ。
レジ袋有料化やらSDGsやら、そういった側面に対してのメッセージ性に関しては正直自分はよく分からなくて、このコントからは純粋にこの二人のキャラクターの愛おしさを感じる。
一本目とは打って変わってのコントで、なおかつ男性ブランコの特色が色濃く出ていたコントだと思う。今回の二つで、一気に男性ブランコの虜になった人もかなりの数いるのでは。
ザ・マミィ【社長と部下】…459点(ファイナルステージ3位)・合計得点…935点(全体2位タイ)
会社の部下(林田)に、裏で賄賂を受け取っていた事実を告発されている社長(酒井)。しかしその証拠を突き付けることは出来ず、二人は口撃戦を繰り広げるのだが…。
1本目でも書いたような、古き良きコント性みたいなのがこのコントでも色濃く表れていると思う。それこそオロナミンCがスポンサーについていた初期KOCを思い出すような…。
告発の場でドラマっぽくなってしまう事に思わずほころんでしまう、緊張と緩和。酒井さんの「ドラマぁ~」の優しい言い方好きだなぁ。
このフレーズが良い!とかよりは、ツッコミの概念もなく全体的な空気で笑わせていくコントという感じ。
ところでザ・マミィって、自分は意外だったんだけど大学お笑い界隈だとあんまり評価されていないイメージで。
推測だけど、大学お笑い界隈は「新しいお笑い」が好きだし、正直トガってる部分とかもあるので、それこそ前述の古き良きコント性を持つザ・マミィはあまり好かれないのかなと思ったり。みんなちがってみんないいんだけどね。
でも確かに、このコントに関しては実在のコントを模していたり、実際にその固有名詞も出てきたりしているので、そういうのが引っかかる人は入り込めないかも。
空気階段【メガトンパンチマンカフェ】…474点(ファイナルステージ2位)・合計得点…960点(全体1位)
雨宿りのために、目についたカフェに入った男(かたまり)。すると店の中で現れたのは、拳をこちらに突き付けて移動してくる謎の男(もぐら)で…。
始まり方カンペキ。「こんなのあるんだ、入ってみよう」みたいな感じじゃなくて雨宿りの名目でぷらっと店内に入る導入も良いし。
「侵入者発見」のアナウンスと共に袖から現れるもぐらさん、意味わかんなすぎて100%笑っちゃうし、カウンターを抜けたあたりでセグウェイに乗ってる事が発覚する二段重ねで登場で二度笑えるの凄い。ダブルで面白い。
で、「自分が小学生時代に描いていた漫画のコンセプトカフェ」っていう題材めちゃくちゃ面白いしなんかロマンがあって良いんだよな。自分もそれだけ自分が幼き頃に作った作品をいつまでも愛せる人間でいたい。序盤の「すごく流行ったんですけどね~」が自分のクラスの中だけでの話なの笑っちゃうな。
あと、小学生時代の自分の中だけでのしょうもない設定を忠実に守り続けて縛られてる画が良いなぁ。そりゃハタから見たらガロン抜かして直でコロニーに換金できりゃいいじゃん、って思うけど本人からしたらそういう設定なんだからしょうがない。100ガロン=一兆コロニー、いかにも小学生時代に考えた設定で愛おしい。
間違えてガロン抜かして一兆コロニー直で渡しちゃってヤバがってるのもどうでもよすぎて笑っちゃうんだよな。「なったじゃん!」
特に好きなやり取りは、「降りた方が良いんじゃないですか?」「足なんで…」というシーン。よしゃあいいのに妙なところにこだわり持ってるのがバカでたまらない。その後のかたまりさんの「あぁ足なんだ…降りたくないんですね」っていう対応、めちゃくちゃ笑ったな。
そして終盤、実はもぐらさんのキャラクターがメガトンパンチマンではなくその敵である「デビルキック伯爵」であることが明かされる。冷静に考えるとセグウェイに乗っちゃって足動かせないのにキックの名前を冠してるの意味わからなくて面白い。
そこから何やら可愛らしいBGMが流れ出し、スペースシップにメガトンパンチマン参上。メガトンパンチマン、可愛いね~。デビルキック伯爵も可愛いんだけどね。
「パンチ♪パンチ♪」というキュートBGMの中、メガトンパンチマンとセグウェイに乗るデビルキック伯爵がくるくると対峙するシーン、マジで何度も見たくなる中毒性。1本目同様BGMの効果的な使い方。
めちゃくちゃ自分で操作してるのモロバレしてるし、見返すと操作しだすくだりで袖から出てくるメガトンパンチマンを目で追ってるもぐらさんの姿めちゃくちゃ面白い。
全編はちゃめちゃなバカバカしさ、そんな中に愛おしさも感じられるような良いコントだった。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?