X2Oバドカマー・トロフェー2020-2021 最終戦「ブリュッセル(ブリュッセル大学クロス)」
シクロクロス3大シリーズ戦の1つ「X2Oバドカマー・トロフェー」の最終戦、そして今シーズンの3大シリーズ戦全体における最終戦「ブリュッセル大学クロス」が2/14(日)に開催された。
先週のリールに続き地面の上に雪が覆われ、その名のとおりブリュッセル大学構内を使用し、スタンドの段差もコースにしてしまうようなテクニカルなレイアウト。
ここで、とくに女子においては激しい総合争いが展開。果たして、ルシンダ・ブラントは「グランドスラム」を達成するのか?
女子レース
全部で5周。
前節リールを終えた段階で、総合首位ルシンダ・ブラント(バロワーズ・トレック・ライオンズ)と総合2位デニーセ・ベツェマ(パウェルズ・サウゼンビンゴール)との総合タイム差は41秒。
【X2Oトロフェー女子 第7戦までの総合リザルト】
リールではベツェマより前でフィニッシュしたブラントだったが、その前日のスーパープレスティージュ最終戦「ミッデルケルケ」ではベツェマがブラントに1分以上のタイム差をつけてフィニッシュしている。
また、昨日土曜日に開催された「エークロ」(非3大シリーズ戦)ではベツェマがブラントに28秒差をつけて勝利している。
ブラントが今日勝てば史上3人目、女子では初となる「グランドスラム」(3大シリーズ戦すべてと世界選手権とを同年に制すること)が達成されるだけに、注目の集まる最終戦。
逆転は十分に可能。何が起こるかわからない。そんな中で開催された、今回のブリュッセル大学クロスであった。
ここ最近、ひたすらスロースターターなルシンダ・ブラント。
前節のリールでも最終的には勝ったものの、序盤は完全にベツェマにタイム差をつけられていた。
今日のこの「ブリュッセル」でも、序盤に抜け出したセイリン・アルバラード(アルペシン・フェニックス)にアンナ・カイ(スターカジノ)とベツェマがついていき、最初のボーナスタイムポイントでもベツェマが3位通過で5秒獲得していったのを尻目に、ブラントは5秒~10秒遅れの4位・5位あたりに沈んでいた。
その後はアルバラードが一人抜け出し、完全な独走態勢。
元世界王者、昨年の3大シリーズ戦を2つまで制覇した「最強」に最も近い存在だった彼女が、本来の力を取り戻す勢いで爆走していった。
ベツェマはこれを20秒ほどのビハインドを抱えつつ追いかける。そしてブラントはなおもその5秒~10秒後ろで4番手あたりをひらひらしていたが、最終周に入ってペダルに氷が詰まるというアクシデント。
一方のベツェマも最後の最後でさらにペースを上げ、アルバラードとのタイム差を一気に詰める勢い。
ブラントとベツェマとのタイム差が20秒近くに広がる。すでにベツェマはボーナスタイム5秒を獲得しているため、ブラントに許されるタイム差はわずか、36秒――。
果たして、ベツェマは逆転できるのか。
そしてブラントはこれを守り切れるのか。
まず、勝ったのはアルカンシェルを脱ぎヨーロッパチャンピオンジャージを纏ったセイリン・アルバラード。
そして彼女に遅れてわずか6秒差でフィニッシュラインに到達したのが、デニーセ・ベツェマ。
そしてそこから遅れること——31秒。
「総合タイトルも失ったかと思った」と悔しさとともにフィニッシュしたルシンダ・ブラントは、その次の瞬間、彼女の手の中にこれまで誰も手に入れることができずにいた栄光が残っていることに気が付いたのである。
世界選手権、そして3大シリーズ戦の全制覇。
男女合わせて史上3人目、そして女子においては初となる、歴史に残る快挙をこの「無冠の女王」が達成した瞬間であった。
【X2Oバドカマー・トロフェー第8戦「ブリュッセル」女子リザルト】
【X2Oバドカマー・トロフェー女子 最終総合リザルト】
そのタイム差は、わずか5秒。
史上稀にみる接戦を制し、ブラントは栄光を掴み取ったのだ。
男子レース
全部で7周。
最初から接戦が予想されていた女子と違い、男子の方はすでに総合首位エリ・イゼルビット(パウェルズ・サウゼンビンゴール)が2位トーン・アールツ(バロワーズ・トレック・ライオンズ)に対して3分以上のタイム差を開いているという圧勝状態。
【X2Oトロフェー男子 第7戦までの総合リザルト】
いくらイゼルビットがまだまだ肘の状態が万全ではないとはいえ、この状況をひっくり返すのはさすがに難しい。
正直、女子と比べると緊張感のない雰囲気でこのシーズン最後の3大シリーズ戦レースが開幕した。
しかし、3分以上のタイム差で追うアールツは、最後の最後まで諦めることのない走りを見せてくれた。
序盤から勢いよくペースを上げていくアールツ。2周目終了時点ですでにイゼルビットから26秒もの大差をつけて先頭を通過していく。ボーナスタイムも5秒を獲得。
3周目には独走状態を開始したアールツとイゼルビットのタイム差はさらに開いていき、3周目終了時点ではそのタイム差は38秒にまで開いた。
しかしそれでも、まだ2分以上もある。
しかも、先週のスーパープレスティージュ最終戦「ミッデルケルケ」では総合逆転の目がなくなったイゼルビットを切り離したマイケル・ファントーレンハウトとローレンス・スウィーク(ともにパウェルス・サウゼン・ビンゴール)も、この日はしっかりとイゼルビットを護り続けていた。
そして5周目に突入すると、段々とアールツのペースが落ちていく。
さすがに飛ばし過ぎたか。
しかし誰もが諦めてしかるべきなその総合タイム差を、最後まで決して諦めることなくプッシュし続けたアールツの、熱い走りは確かにそこにあった。
それでも、最後に勝利は掴み取りたい。
6周目に追い付いてきた昨日の「エークロ」勝者クエンティン・ヘルマンス(トルマンス・シクロクロスチーム)に一度は追い抜かれ、先頭を奪われたアールツも、最後はもう一度執念を見せ、7周目に追い抜き返す。
そのまま、今期4勝目(3大シリーズ戦としては2勝目)、UCIランキング今期1位を決定づける勝利を掴み取るに至った。
【X2Oバドカマー・トロフェー第8戦「ブリュッセル」男子リザルト】
【X2Oバドカマー・トロフェー男子 最終総合リザルト】
最終的にはイゼルビットが総合優勝。
エリート2年目にして、このX2Oトロフェー(昨年まではDVVトロフェー)2連覇を果たすに至った。
しかし真に恐るべきは総合8位のマチュー・ファンデルポールと同9位のワウト・ファンアールト。
それぞれ8戦中4戦を欠場。すなわち、ペナルティとして合計「20分」ものタイムペナルティが課せられているにもかかわらず、この位置にいるのである。
イゼルビットもアールツも今、シクロクロス界トップクラスの選手たちであることは間違いない。
しかし、シクロクロスの実力においては、この「怪物」2人には大きく水を開けられている現状を、とくに若手のイゼルビットは今後、どのように埋めていくか。
これにて、2020-2021シーズンの3大シリーズ戦はすべて閉幕。
今年も最初から最後まで白熱の展開が続いていた。
来シーズンもまた、できれば3大シリーズ戦全レースをレポートしていきたい。
もしよろしければそのときはまた、見に来てくれると幸い。
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