ジロ・デ・イタリア2021 第21ステージ
ジロ・デ・イタリア2021最終決戦は、ミラノで開催された全長30.3kmの平坦個人タイムトライアル。
ジロ開幕前まではそのコンディションを不安視されながらも初日TTでは圧勝していた世界王者フィリッポ・ガンナは昨年同様の「TT制覇」を成し遂げられるのか。対抗馬となるフランス王者レミ・カヴァニャの調子はどうか。
そして、総合争い――総合首位ベルナルは2分近いタイム差をつけているためさすがに盤石だと思うが――においてはジョアン・アルメイダなどがさらに躍進できるのか。サイモン・イェーツはカルーゾを逆転できるのか。
驚きとドラマの詰まった3週間を締めくくる30分の戦いが始まる。
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2月のUAEツアーまでは、昨年の国内選手権TT以来のTT8連勝を重ねてきた世界王者フィリッポ・ガンナ(イネオス・グレナディアーズ)。
しかしその後はティレーノ~アドリアティコ、ツール・ド・ロマンディと、3連続でまさかの「敗北」を喫した彼は、ややコンディションにおいて下降気味か?と不安視されていた。
しかし今大会初日の8.6㎞短距離TTでは2位のアッフィニに(これだけの短距離であるにも関わらず)10秒差をつけて圧勝。
逆に対抗馬として今年実績だけで言えばガンナ以上の成績を出し続けていたフランス王者レミ・カヴァニャ(ドゥクーニンク・クイックステップ)はこのときガンナから18秒遅れの区間5位と沈んでいた。
果たしてこの2大巨頭の対決は、最後の30㎞長距離TTではどうなってしまうのか。
まずはこのステージ争いに注目が集まった。
24番出走とかなり早めのスタートを切ったガンナは当たり前のようにトップタイムを叩き出す。
それまでの暫定首位であったマックス・ワルシャイド(キュベカ・アソス)の記録を33秒も更新。圧倒的であった。
しかも、これは最終盤に後輪をパンクし急遽バイク交換しなければならなかったうえでの記録である。少なく見積もってもこれで10秒は失っていたはずだ。
27番出走の第1ステージ2位エドアルド・アッフィニ(ユンボ・ヴィスマ)も暫定2位につける素晴らしい走りを見せるが、それでもガンナから13秒遅れであった。
さて、それではカヴァニャはどうか。74番出走。
第1計測地点(9.2㎞)ではガンナから14秒遅れ。第2計測地点(19.7km)では18秒遅れ。
やや厳しいか?と思いつつも、最終盤でのペースは結構よさげで、これはもしかしたら?という雰囲気を感じていた。とくにガンナは最後の最後で10秒以上のタイムロスがあるから――。
しかし、カヴァニャもまた、ラスト500mの左直角カーブにて、まさかの落車。左に曲がるにも関わらずなぜかイン側に寄りすぎていて全く曲がることのできないコース取りをしていた結果、まっすぐフェンスにぶつかるというやや不思議な落車。
すぐさまバイクに跨りなおしてフィニッシュするが、結局、13秒遅れの暫定2位。
もしこの落車がなければ――と思ったりもするが、そもそもガンナもパンクしているので、お互い様である。
むしろ、パンクしたガンナと落車したカヴァニャがワンツーという時点で、何かおかしい。
そしていよいよ総合争いへ。
総合上位勢で最もTTで躍進が期待されていた総合8位ジョアン・アルメイダ(ドゥクーニンク・クイックステップ)は第1計測・第2計測とも暫定5位で通過し、最終的にも変わらず5位フィニッシュ。ガンナからは24秒遅れだが、総合勢の中では圧倒的な走りを見せ、最終的な順位も2つ上げて総合6位となった。
昨年マリア・ローザ15日間着用・総合4位と、主役の1人であったアルメイダ。
今年はエヴェネプールがいながらも実質的なエースを任されていたはずの中で序盤の登りでいきなりの大失速。それがゆえにしばらくはエヴェネプールのアシストをこなさざるを得ずさらにタイムを失っていった。
それでも終盤では安定して強い走りを見せていき結果としては十分なポジションに。来年は現チームを去り、新天地に赴くことになりそうだが、彼もまた2020年代の前半を彩る中心人物の1人となりそうだ。
その他第1ステージ区間3位と驚きの走りを見せてくれたトビアス・フォス(ユンボ・ヴィスマ)はこの日はガンナから58秒、アルメイダから31秒遅れの12位フィニッシュ。
総合順位を上げることはできなかったが、それでも十分な走り。
2019年ツール・ド・ラヴニール総合優勝者で、前2年の覇者エガン・ベルナルとタデイ・ポガチャルと比べてしまうとどうしても影が薄く感じてしまう彼ではあったが、今回の総合9位は十分に見事な走りであった。
ノルウェー人総合ライダーということで、彼もまた、新時代を担う、注目すべき選手であることは間違いない。
ほか、総合6位ダニエル・マルティネス(イネオス・グレナディアーズ)、総合4位アレクサンドル・ウラソフ(アスタナ・プレミアテック)などのTT巧者はそれぞれ1分21秒遅れの14位、1分26秒遅れの19位と今回も好走を見せる。
一方の総合5位ロマン・バルデ(チームDSM)は2分10秒遅れの31位と、彼にしては決して悪くない成績ではあったもののマルティネスとアルメイダには抜かれ総合7位に転落。マルティネスは総合5位となった。
一方、総合6位ヒュー・カーシー(EFエデュケーション・NIPPO)は昨年のブエルタでは誰をも驚かせたTT力が今回は発揮されず? 2分27秒遅れの39位と失速し、アルメイダに抜かれての総合7位転落となった。あまりにも平坦であったことが、さすがに彼には厳しかったか。
しかし、DSM入りをしていよいよ本格的に総合争いからは離れるかと思っていたバルデのまさかの復活、そしてカーシーのブエルタに続くグランツール総合争いにおける才能の発露。それぞれ、良い3週間を過ごせたかと思う。
そして表彰台争いである。総合3位サイモン・イェーツ(チーム・バイクエクスチェンジ)はかつてパリ~ニースの個人TTでも優勝している実績もありつつも――今回は、さすがに3週間の激戦の疲労もあってか、2分45秒遅れの51位と、大失速。総合4位ウラソフとは3分半以上のタイム差をつけていたために逆転されることはなかったものの、総合順位を上げることはさすがに叶わなかった。
総合2位ダミアーノ・カルーゾ(バーレーン・ヴィクトリアス)は1分23秒遅れの17位。各中間計測地点でもベルナルに対して9秒、23秒とタイム差を着実に広げていき、最終的には30秒を彼から奪い取ることに成功した。
とはいえ、元々このステージ開始前に2分弱のタイム差がすでについていただけに、逆転は望むべくもなかった。
できうる限り最高の走りを見せ、3週間の戦いを走り切ったカルーゾ。最後はその右手に小さなサムアップを見せながら、満足しきった表情でフィニッシュを迎えた。
プロ生活13年。アシストとしてティージェイ・ヴァンガーデレン、リッチー・ポート、ヴィンツェンツォ・ニバリ、そしてミケル・ランダなど数多くのエースを支え続けてきた大ベテランが、エースとして走ったこのジロ・デ・イタリアで成し遂げた偉大なる総合2位。
彼はこのジロにおけるもう1人の勝者であり、主役であった。
おめでとうダミアーノ。
そして、エガン・ベルナル。
無理せず、安定した走りで30㎞を駆け抜けていく。
元ツール・ド・フランス覇者。そこから考えれば、この結果は決して驚くべきではない。
それでも、あの2020年のツール・ド・フランスでの失速。もしかしたらこのまま――という思いも過った中で、チームと二人三脚で苦しいリハビリを乗り越えながら、再びこの位置にまで戻ってきた。
これからもまだ背中の痛みとは付き合いつつやっていかなければならない。タデイ・ポガチャルやレムコ・エヴェネプールなどのさらに若き才能との戦いは決して簡単ではないだろう。
それでも彼は再び勝利した。道はまだ閉ざされておらず、ここから彼の2020年代は始まっていく。
最後は上体を上げ、万感こもったガッツポーズ。
おめでとう、エガン。
【最終総合リザルト】
本来ここに名前を連ねてもいいだけの走りを見せながら途中リタイアを余儀なくされた選手たちも多くいる。
それでも、最終的に並んだこの10名すべてにそれぞれの「達成」がある。
勝者はたった1人。でも、3週間の戦いはすべての選手にとって何かしらの結果をもたらした。とくに今年のジロは、その色が濃かったように思う。
ここを出発点として、さらなるドラマを描いていってほしい。
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