ジロ・デ・イタリア2021 第1ステージ
イタリアを舞台に開催される今年最初のグランツール。サイモン・イェーツ、アレクサンドル・ウラソフ、エガン・ベルナル、レムコ・エヴェネプールなどが覇を競い合う、なかなか予想のつかない3週間。
第1ステージはトリノで行われた8.6kmの個人TT。カステッロ広場からスタートし、ヴァレンティーノ城前を通りポー川を渡り、あとはミラノ~トリノの終着点となるスペルガ聖堂麓のグラン・マードレ・ディ・ディオ教会前でフィニッシュ。
オールフラットで直線多めの、TTスペシャリスト向けレイアウト。
昨年のジロで行われた3つのTT全てを勝利した世界王者フィリッポ・ガンナ(イネオス・グレナディアーズ)はもちろん注目されたものの、直近のTTではいずれも調子が上がり切らない様子を見せており、一方でこれを凌駕する走りを見せていたレミ・カヴァニャ(ドゥクーニンク・クイックステップ)にも同様に注目が集まっていた。
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第3出走でいきなり、アワーレコード保持者のヴィクトール・カンペナールツ(チーム・キュベカ・アソス)が出走。
しかし今年走っている唯一のTTであるパリ~ニースでは区間30位とイマイチな結果のカンペナールツ。一応暫定1位は獲るものの、暫定2位のダヴィド・デッケル(チーム・ユンボ・ヴィスマ)にわずか1秒差と、微妙な成績。
実際に8番出走のロジャー・クルーゲ(ロット・スーダル)に早くも抜かれ、暫定首位の座を奪われる。
クルーゲはマディソン種目で世界王者にもなっている一流のトラックレーサーでもあり、スプリント力とTT能力とを兼ね揃えてはいるものの、それでも先のデッケルといい、この8.6㎞の直線多めの平坦TTというのはやはりスプリンタータイプの選手にもかなり有利に働くようだ。
それでも実力派TTスペシャリストのジョナタン・カストロビエホ(イネオス・グレナディアーズ)、ネルソン・オリヴェイラ(モビスター・チーム)の2人がすぐさまクルーゲの記録を塗り替え、暫定TOP3はカストロビエホ、オリヴェイラ、クルーゲの順に。
しばらくはこの成績のまま推移していくことになる。
48分後にこの記録を塗り替えたのが、7度のオーストリアTT王者に輝いている男マティアス・ブランドル(イスラエル・スタートアップネーション)。
カストロビエホを5秒上回り、総合首位に。
さらに今大会の総合優勝候補であるアレクサンドル・ウラソフ(アスタナ・プレミアテック)がブランドルから2秒遅れの暫定2位に。
元々そこまでTTが強い印象のなかった選手だが、この成績はかなりの僥倖。調子の良さを強く感じさせる。
さらに驚くべき走りを見せたのが、2019年ツール・ド・ラヴニール覇者のトビアス・フォス(チーム・ユンボ・ヴィスマ)。
TTスペシャリストのブランドルの記録を一気に10秒も更新して文句なしの暫定首位に。
昨年の第1ステージも区間5位になるものの、風の影響なども言われ、その実力をあまり認められることのなかった男だが、ここでしっかりとその強さを証明して見せた。
状況によってはジョージ・ベネットと総合エースの座を争うことすらできるかもしれない。
そしてこの日の優勝候補筆頭の1人、カヴァニャが出走する。
だが、そのカヴァニャもフォスの記録を上回ることはできず、5秒遅れの暫定2位に。
そしてさらに驚くべきことに、フォスのチームメートであるユンボ・ヴィスマのエドアルド・アッフィーニが、フォスの記録をさらに3秒更新して暫定首位に立った。
元ミッチェルトン・スコットで、今年からユンボ・ヴィスマ入りを果たしたオランダチームには珍しいイタリア人ライダー。
その主な役割は北のクラシックでの平坦アシストと、エーススプリンターをフィニッシュ前まで運ぶ第2発射台。
だが、元々彼はヨーロッパ選手権U23TT王者でもあり、TT能力の高さは確かにあった。
今回、フォスやヨス・ファンエムデンらの調子の良さに合わせ、ユンボ・ヴィスマ全体の調子の良さを証明するかの如く、見事な走りで暫定首位となってみせた。
イタリア人として、マリア・ローザを着用するというキャリア最大の栄誉が目の前にまでやってきたアッフィーニ。
ただ、ここでこの男がやってくる。
世界王者フィリッポ・ガンナ。
昨年の国内選手権TT以降今年のUAEツアーまでTTで8連勝を記録していた正真正銘の「世界最速の男」。
しかしその後、ティレーノ~アドリアティコやツール・ド・ロマンディなどではやや調子の悪さを感じさせ、今回のジロ初日も、もしかしたら敗北するのではないか——との予想もちらほらと囁かれていた。
だが、結果を見れば、アッフィーニを11秒更新しての圧勝。
DHバーに手を乗せながらコーナーギリギリを攻めまくるその強気な姿勢は、世界最強のTTスペシャリストとしての矜持を見せつけてくれた形だ。
そして、2年連続のマリア・ローザ。
総合優勝候補のアルメイダも期待通りの走りを見せつけて区間4位。総合ライバル勢に大きなアドバンテージを得ることができた。
また、8か月ぶりのレース復帰でその調子の如何が読みづらかったエヴェネプールはアルメイダから2秒遅れの区間8位。
彼の本来の実力通りではないだろうが、それでも十分安心できる成績を出してくれた。
ところでスプリンター有利とはいえ、ワルシャイドは他のTTでも結構いい成績を出していたりして、単純なスプリンターとは言えない男だなとやや感じている・・・。
また、フォスを基準値とし、勝手に選んだ20名の総合勢のみを抜き出してのランキングを作ってみた。
総合優勝候補のカーシー、ビルバオ、サイモン・イェーツ、ベルナルなどはほぼ同タイムで固まっている。
そう考えるとウラソフが彼らに14秒~15秒差をつけられているのは素晴らしい。逆に昨年総合2位のジェイ・ヒンドレーやミケル・ランダ、エマヌエル・ブッフマンなどは大きく遅れてしまった。
とはいえ、これから厳しい山岳が連続する3週間のことを思えば、この10秒~20秒は決して大きいとは言えないタイム差となるだろう。
果たして、どんな3週間が描かれていくのか。
現時点では全く予想のつかない、ドラマチックな展開が待ち受けていることだろう。
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