見出し画像

2021シーズン最強「エスケーパー」ランキング

2021シーズンの「全1クラス以上のレース」のTOP10に独自のルールでポイントを付与。その結果出された、今シーズン最も実績を出した「最強エスケーパー」を発表していきます。

エスケーパー、すなわち「逃げ屋」。トーマス・デヘントやレミ・カヴァニャに代表されるような、長距離逃げの果てに逃げ切り勝利を果たしてしまう選手たちのランキングとなっております。

なかなか通常の指標では(すなわちはっきりと客観的な指標では)図ることの難しいこのタイプの選手。一応、「逃げ切り」と言いうる(原則としてレース開始直後にできた逃げの中からの逃げ切りを対象とした)勝ち方をした選手たちにポイントを付与。

もちろん、山岳ステージでの逃げなのか平坦ステージでの逃げなのかによっても特性は変わるが、そこまで言ってしまうと対象レースが少なすぎてしまうため、そのあたりは一緒くたに。ただ、逃げ切りが発生するレースは比較的登りの多いステージであることが多いので、必然的に登りの力がある程度高い選手たちが上位に来る。

今後も、レースの勝利予想においては一定の役に立ちそうなランキングでもあるため、参考にしていただけると幸い。

なお、この記事は6位までは無料で公開しておりますが、5位以上は有料の記事となります。ブックでも購入できますので、ぜひご支援と思ってご購入いただけると幸いです。


20位~11位(名前のみ)

エスケーパーランキング20位~11位

ツアー・オブ・ジ・アルプスでの連続逃げ切り勝利を果たしたモスコンやジロでの鮮烈な勝利を果たしたドンブロウスキ―など、どの選手も勝利と結びついていることも多く、記憶に残っている人も多いのでは。

逆に、1回だけの勝利ではなかなかTOP10に入れないのも事実。以下、紹介していく選手たちは、何らかの形で複数回の逃げ切り勝利、あるいは上位入賞を果たした選手たちである。

なお、上記ランキングの中でも注目すべきはファンムールとコーヴィの2人の若手。どちらもこれからもその名を売っていけそうな選手たちなので期待すべきだろう。とくにファンムールはツール・ド・フランスでギリギリの逃げ切り失敗となり、「逃げ王」デヘント先輩に慰められていた姿が印象的。


画像2

画像12

言わずもがな、ジロ・デ・イタリアでのこの衝撃的な逃げ切り勝利で話題を掻っ攫った男。逃げ切りが非常に多発することとなった今年のジロを象徴する男であり、かつそこまでまったく勝利のなかったチームに勢いをもたらした立役者となった。

そして、その後もファンデルホールンの勢いは止まらなかった。ベネルクスツアー、オムロープ・ファン・ヘット・ハウトラントでの逃げ切り勝利で通算3勝。しかも、9月のアントワープ・ポートエピックでは、終盤になんとあのマチュー・ファンデルプールと共に抜け出して、最後は届かなかったものの1秒差の2位につけるという大快挙。

ファンデルプールが東京オリンピックでの怪我からの復帰初戦だったという事情はあるにしても、この男の底知れぬ可能性を感じさせたレースであった。

来年も引き続き、その強さを発揮してチームを引っ張っていってほしい。そして、自分も放出したユンボ・ヴィスマに目にモノを見せてやろう。


画像3

画像13

ワウト・ファンアールトが大活躍した一年だったが、この男も大概よく分からない脚質をもつ男だ。元ランプレ。チーム解散後はUAEにもバーレーンにも行けず、プロコンチネンタルチームのアンドローニジョカトリに。そこで3年を過ごす中でジロ・デ・イタリアでの区間2位など実力の高さを見せつけて昨年からクイックステップに。

そして、その万能な脚質はクイックステップでこそ光った。山も丘もTTでさえも高いクオリティでこなす彼は、まさに山岳系ステージでの耐久走に向いている。勝ちはしなかったが、ツールでの3回のTOP10入りは、「いつか勝つ」信頼感のある男だ。

また、その脚質は山岳アシストに向いていることもまた確かで、シーズン序盤のUAEツアーなどでもジョアン・アルメイダを助ける最終列車の役割も担っていた。

来年はそのアルメイダが抜けるドゥクーニンクで、マスナダやノックス、ファンワイルダーらと共にエヴェネプールやアラフィリップにとっての重要な右腕となれるか。


画像4

画像14

かつてはジャイアント・アルペシン=サンウェブ(現チームDSM)でジョン・デゲンコルプやマルセル・キッテルの「次」を担う若手ジャーマンスプリンターの一角であった。2016年のジロ・デ・イタリアでは先頭でフィニッシュラインを通過したジャコモ・ニッツォーロが降格になったことを受けてとはいえ、ジロ・デ・イタリアでの1勝を飾ることとなった。

2017年からチーム入りしたマイケル・マシューズの発射台役としても活躍していた。登りもこなせるその脚質は、同様の脚質をもつマシューズとも相性が良かった。

だが同年のツール・ド・フランスの第19ステージ、エドヴァルド・ボアッソンハーゲンが逃げ切ったそのステージで、ボアッソンハーゲンのラウンドアバウトでの仕掛けに唯一反応して追いすがって2位に入り込んだくらいから、段々と彼の「逃げ」への才能が花開いていったように思う。

2019年はついにブエルタ・ア・エスパーニャでの勝利。「元スプリンター」だけあって、小集団で逃げ切ったときの勝率は高い。当然そんな脚質だからそもそもの独走力も高いということで世界選手権のミックスドリレー・チームタイムトライアルのドイツ代表メンバーにも選ばれ、トニー・マルティンに引退前最後のレースでのアルカンシェルをプレゼントした。

今後もグランツールに出場したときは、逃げ切り向きステージで躊躇なく(Pro Cycling Statsの予想ゲームにおいて)星を振ることのできそうな選手であり続けるだろう。

なお、今年はツール・ド・ポローニュでしっかりと「スプリントで勝つ」場面も。そういえばスプリンターだったんだな、と久々に感じた瞬間であった。


画像5

画像15

B&Bホテルスに所属しつつ、明らかにピエール・ロランよりもずっと活躍していた男。勝利には繋がらなかったが、都合4回の山岳ステージでのTOP10は驚嘆に値する成績だ。

B&Bの前はアルケア・サムシック。その前身であるブルターニュ・セシェでプロデビューを果たしてからずっとそのチームに所属していた。B&Bとは2023年まで契約が残っており、ワールドツアーに行くことなくキャリアを終える可能性も十分にある、そんな男だ。

しかし、こういう選手こそ好きだったりする。来年はその走りが報われてほしいところ。

なお、チームメートのカンタン・パシェも似たような走りをする男で、彼も昨年のツールで3回、TOP10に入っていた。そんな彼は来年からグルパマFDJ入り。それならばこのボナムールにも、まだまだチャンスはある?!


画像7

画像16

2018年ツール・ド・ラヴニール総合5位、2019年ツール・ド・ラヴニール総合4位でAG2R入りした、「ダヴィド・ゴデュの次」を担うと期待されてAG2R入りした男。

トレーニー時代の2019年にいきなりグラン・ピエモンテで9位に入るなど、その才能を遺憾なく発揮していた彼は、今年もシーズン序盤のフォーン・アルデシュ・クラシックで2位、トロフェオ・ライグエーリアで4位など絶好調であった。

そして迎えたブエルタ・ア・エスパーニャ。上位に食い込むが、むしろ第14ステージではチームメートの同じく若手ニコラ・プロドムの方が目立っていたりと、実績の割にはそこまで存在感を示せていなかった中で・・・第20ステージ、リエージュ~バストーニュ~リエージュ風の激しいアップダウンステージ、終盤で独走をしていたライアン・ギボンズが残り3㎞で捕まえられ、最後に勝利を掴むのは果たしてエンリク・マスか、アダム・イェーツか、やっぱりプリモシュ・ログリッチか――といった総合上位勢の激しいアタックと牽制の間隙を突くようにして――残り1.7㎞。完全に突き放していたと思われていた後方の集団から、突如として現れる白いジャージ。

まさか、の抜け出しだった。そして、このサバイバルなコースのサバイバルな展開の中でどうやってそれだけの足を残していたのか、と思うような勢いで駆け抜けていく彼に、ログリッチたちも手の出しようがなかった。


そして、誰も予想していなかった衝撃の勝利。その勝ち方、勢いの鋭さは、2015年のツール・ド・フランスでピノとバルデを突如として追い抜いて勝利したスティーブ・カミングスを思い出させる。


まさに、AG2Rの若手らしい勝ち方をする男。バルデやラトゥールなど、チームの柱とも言うべき存在が去った中で、ナンス・ピータースやオレリアン・パレパントルらと共に、彼もまた、チームを引っ張っていく存在として活躍していってほしい。


ここから先は

2,660字 / 10画像
この記事のみ ¥ 100

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?