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ブエルタ・ア・エスパーニャ2021 第20ステージ

最終日個人TTの前日に行われた今大会最後のラインレースは、厳しい山岳ステージではなく、大西洋を臨むガリシア州の丘陵地帯を使用した「ミニ・リエージュ~バストーニュ~リエージュ」。

総合争いは巻き起こらないだろうと思われていたこの日、数えきれないほどの波乱が・・・。

ベネルクスツアー第6ステージとセラティツィット・チャレンジ by ラ・ブエルタ第3ステージのレースレポートもページ最下部に掲載しております。

コースプレビューはこちらから


逃げは16名。

リリアン・カルメジャーヌ(AG2Rシトロエン・チーム)
クレモン・シャンプッサン(AG2Rシトロエン・チーム)
スタン・デウルフ(AG2Rシトロエン・チーム)
フローリス・デティエ(アルペシン・フェニックス)
マーク・パドゥン(バーレーン・ヴィクトリアス)
ダニエル・ナバーロ(ブルゴスBH)
ヘスス・エラダ(コフィディス・ソルシオンクレディ)
ミケル・ビスカラ(エウスカルテル・エウスカディ)
ヤン・ヒルト(アンテルマルシェ・ワンティゴベールマテリオ)
シルヴァン・モニケ(ロット・スーダル)
ニック・シュルツ(チーム・バイクエクスチェンジ)
ロマン・バルデ(チームDSM)
クリス・ハミルトン(チームDSM)
マイケル・ストーラー(チームDSM)
マッテオ・トレンティン(UAEチーム・エミレーツ)
ライアン・ギボンズ(UAEチーム・エミレーツ)

最大で12分ものタイム差がついたことで、逃げ切りは確定か、と思われていたが・・・。

ステージ後半の丘陵地帯に入ると共にそのタイム差は一気に縮小傾向に。

最初の3級山岳と2級山岳、続く1級山岳とをマイケル・ストーラーが先頭通過し山岳賞を確定させる頃には、そのタイム差は5分を切っていた。

この1級山岳アルト・デ・モウガス(登坂距離9.8㎞、平均勾配6.4%)の登りで逃げ集団はバラバラに。先頭はカルメジャーヌ、シャンプッサン、デティエ、パドゥン、バルデ、ストーラー、ギボンズの7名。

さらにメイン集団でもアダム・イェーツのアタックを皮切りに総合上位勢が抜け出し始める。

そして最初の意外な展開がここで巻き起こる。

すなわち、山頂まであとわずかといったところで、総合1位ログリッチ、総合2位マス、総合4位ヘイグ、総合6位イェーツ、総合8位マーダーの5名が抜け出し、

総合3位ミゲルアンヘル・ロペス、総合5位ベルナルの2人はそこから一気に突き放されてしまったのだ。


残り50㎞。

先頭はこの登りで逃げ集団から抜け出したギボンズ。

そこから4分差でログリッチ集団。

そしてロペス&ベルナルの集団はそこからあっという間に40秒ものタイム差を付けられてしまった。

このタイム差はみるみるうちに拡大。最終的には本気で追いかけることも諦め、最終的にベルナルは6~7分遅れでのフィニッシュ。

そしてロペスは、この日リタイアを選ぶこととなった。


先頭を突き進むギボンズは快調。残り40㎞で追走集団から40秒、ログリッチ集団から4分。

残り30㎞で追走集団から1分半、ログリッチ集団から2分50秒。

残り15㎞を切ってもなお、追走集団から1分半をキープしながら先頭を突き進んでいく。

2017年にチーム・ディメンションデータ(現キュベカ・ネクストハッシュ)でプロデビューを飾り、今年初めて他チームであるUAEチーム・エミレーツに移籍してきたばかりのプロ5年目の27歳、南アフリカ人ライダー。

基本的な脚質はスプリンター。しかし、ツール・ド・ランカウイで総合優勝するなど、登りもある程度対応できる足を持っている。

それでも、実力派クライマーたちが潜むあの先頭集団からこれだけの厳しいアップダウンステージで抜け出すのは驚きである。

逃げ残りのメンバーをすべてログリッチ集団が飲み込んだ残り10㎞。それでもなおタイム差は1分半以上残っており、これは逃げ切り濃厚か?

しかし、残り6.7㎞でアダム・イェーツがアタックし、ヘイグ、ログリッチ、マスの総合上位勢が一気にペースを上げていくとタイム差も一気に縮小し、残り6㎞時点でタイム差34秒。

最大勾配16%の超激坂で、やはりギボンズは厳しそう。

残り4.2㎞でギボンズのすぐ後ろにログリッチたちが近づいてきた。


しかし、そのあとの下りでログリッチ集団がペースダウン。

再びギボンズとのタイム差が30秒以上に開き、後ろから追い付いてきたミケル・ビスカラが勢いよくログリッチたちを抜き去って単独2番手に。

かと思えば、直後の登り返しであっという間にビスカラも追い抜かれ、また一気にタイム差が縮んでいく。

そして残り3㎞。ついにギボンズは捕まえられてしまった。


マスのアタック、ギボンズのカウンター、さらにまた追いついてきたビスカラのカウンター、そしてアダムのカウンター。

次から次へとアタックは繰り出されるものの、決定的な抜け出しは決まらない。残り1.9㎞。最後の急勾配区間で先頭はログリッチとマスが肩を並べて最終決戦。最後はスペイン人による今年グランツールでの初勝利か、それともイネオスの今大会初勝利か、あるいはログリッチの4勝目か——。

と、思っていた中で、残り1.7㎞。突如、後方から追い付いてきて、そのまま恐ろしい勢いで飛び出していく白い影が1つ。

AG2Rシトロエン・チーム、23歳のクレモン・シャンプッサン。

2018年ツール・ド・ラヴニール総合5位、翌年のラヴニール総合4位。昨年のシーズン途中でAG2R入りを果たし、フランスのワンデーレースなどで上位に何度も入り込む実力を見せていた男が、このまさかのタイミングで完璧なアタックを繰り出し、牽制し合う総合上位勢を尻目に、まさかのプロ初勝利をグランツールで飾る形に。

勝ち方は2015年のツール・ド・フランスでフランス人英雄2人を出し抜いて勝ったスティーヴ・カミングスを彷彿とさせ、その大金星ぶりは2016年のブエルタ・ア・エスパーニャ第20ステージで優勝して見せたピエール・ラトゥールを彷彿とさせる。

間違いなく言えるのは、バルデもラトゥールもヴュイエルモーも去った新生AG2Rにおいて、先日のブルターニュ・クラシックでアラフィリップを力で打ち負かしたブノワ・コヌフロワやジロとツールで区間優勝しているナンス・ピータース、あるいはオレリアン・パレパントルらと共に、チームを引っ張っていくべき新世代となることは間違いないだろう。

第20ステージ


総合争いではロペスとベルナルの脱落により、総合3位にヘイグ、総合4位にアダム・イェーツ、そして総合5位にジーノ・マーダーが浮上。

マーダーも2018年ツール・ド・ラヴニール総合3位の男。ポガチャルだけじゃない。新世代の注目選手たちが次々と台頭していくのだ。


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ベネルクスツアー第6ステージ

かつてはエネコ・ツアー、昨年まではビンクバンクツアーと呼ばれていた、オランダとベルギーをまたがるステージレース。今年はタイトルスポンサーがいなくなり、かつての名であるベネルクスツアーを名乗るものの、たぶんルクセンブルクは通っていない。

全7ステージ中本日は第6ステージ。例年通り、「リエージュ~バストーニュ~リエージュ」風のステージが用意され、フィニッシュ地点はそのLBLでも使用される「ウッファリーズ」。このウッファリーズを含む周回コースを使用する厳しいアップダウンステージだ。

第1ステージのレースレポートはこちらに。


残り50㎞。すでに周回コースに突入し、厳しいアップダウンが始まっている区間で、集団からマルク・ヒルシ、マテイ・モホリッチと並びソンニ・コルブレッリが抜け出す。

さらに残り25㎞でそこからコルブレッリが単独で独走を開始。ヒルシとモホリッチにはヴィクトール・カンペナールツとトム・デュムランも追いついてくる。

残り20㎞。先頭コルブレッリに25秒遅れでティム・ウェレンス、モホリッチ、デュムラン、カンペナールツ、そこから10秒遅れでヒルシ、ティシュ・ベノート、ジャスパー・ストゥイヴェン。

追走集団も非常に強力なメンバーが揃っているものの、その集団をコルブレッリのチームメートであるモホリッチがしっかりと撹乱。

最終的には40秒以上追走を突き放した状態でコルブレッリが逃げ切り勝利。さらに途中のボーナスタイムポイントもフィニッシュも、2位をモホリッチが潰しまくったおかげで総合首位も獲得。

51秒差の総合2位はモホリッチでバーレーンのワンツー。総合3位は53秒遅れのカンペナールツ。TTの影響で前日まで総合首位に立っていたシュテファン・キュングはこの日大きく遅れて1分07秒差の総合4位となった。

最終日は毎年恒例のカペルミュールを複数回通過してフィニッシュする「ロンド・ファン・フラーンデレン」ステージ。コルブレッリは総合首位を守り切ることはできるか?

ベネルクスツアー第6ステージ


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セラティツィット・チャレンジ by ラ・ブエルタ第3ステージ

「女子版ブエルタ・ア・エスパーニャ」? 昨年まではマドリッドチャレンジと呼ばれていたこのレースも、今年ブエルタがマドリードでフィニッシュにならないことを受けて名称を変更。全4ステージ中の第3ステージがこの日、行われた。

第1ステージで大逃げ勝利を果たした東京オリンピックTT銀メダリストのマーレン・ローセル(アレ・BTCリュブリャナ)はこの日、総合2位ポーリナー・ロイヤッケルス(リブレーシング)に1分36秒、総合3位アネミエク・ファンフルーテン(モビスター・チーム)に1分39秒差をつけての総合首位という立場でこの日を開始していた。

しかし、東京オリンピックロードレース銀メダリストにしてTT金メダリストの元世界王者ファンフルーテンは得意のスペインの地で相変わらずの無双ぶりを発揮した。

すなわち、残り60㎞からの独走勝利。しかも、2位集団に2分48秒もの大差をつけて。

そしてこれを追いかける8名の第2集団はラスト数キロで総合リーダーのローセルを突き放してリッパート、ニエウィアドマ、ロンゴボルギーニ、マッカイが抜け出し、最後のスプリントでロンゴボルギーニが先行するも最後にこれをリッパートが差し切った。

セラティツィットチャレンジ by ラ・ブエルタ第3ステージ


これでファンフルーテンはローセルに1分34秒差をつけて総合首位に。総合3位以下には3分以上のタイム差がついている状態。

おそらく、ファンフルーテンの総合優勝はゆるぎない。

そして、シクロクロスとマウンテンバイクで目覚ましい活躍を見せているわずか20歳の新鋭ハンガリー人、カタブランカ・ヴァス。

今年シーズン途中で「最強チーム」SDワークスに移籍してきたこの女子ロード界最大の期待の若手がこの日、その実力を見事に見せつけてくれた。

今後の活躍にも注目である。

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