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ツール・ド・フランス2021 第4ステージ

波乱に満ちた第3ステージを終え、再びの集団スプリントステージとなった第4ステージはルドンからフジェールまでの150.4㎞。

トップライダーも複数名リタイアする事態に、平穏を望むプロトンの思惑によってか、非常に落ち着いた展開が続くステージとなった。

ただし、最後の最後以外は。

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前日のトリッキーなフィニッシュに対する抗議の意を込めて、スタート直後にストライキ、そしてそのあとも10㎞にわたるスローペース走行が敢行されたこの日、やがて2名の逃げが形成される。

ピエールリュック・ペリション(コフィディス・ソルシオンクレディ)
ブレント・ファンムール(ロット・スーダル)

山岳ポイントも1つもないこの日、集団も完全に泳がせるモードに入ったことで、2名ともただ逃げることのみを目的としたまったりモード。

残り36㎞地点の中間スプリントポイントではファンムールが先行して先頭通過。メイン集団ではミケル・モルコフの強力なリードアウトに導かれてマーク・カヴェンディッシュが集団先頭(3位)通過を果たした。ナセル・ブアニがギリギリで集団2位に入り込む。


メイン集団と逃げとのタイム差が1分を切り、いよいよ逃げ2人も吸収間近か、と思っていた中で、残り13.5㎞地点でファンムールがアタック。独走を開始する。

残り7㎞でタイム差1分。まさかの? と思ったものの、そこから集団のペースが急上昇。残り5㎞で50秒。残り4㎞で40秒。しかし集団前方にはジルベールなどロット・スーダルの選手が入り込み、ローテーションをうまく妨害している様子。

残り3㎞で30秒超・・・これはまさか?

残り2㎞で20秒。

メイン集団はDSM、次いでトレックなど、各チームが主導権を譲り合うような形で思うようにペースが上がらない。

残り1.5㎞で15秒。ファンムールの表情はかなり厳しそう。

残り1㎞で10秒。

集団も焦り、明確なトレインが作れていない。


だが、残り400mで5秒。

ファンムールももう、まっすぐ前を見ることができず、下を向く回数も増える。限界はとっくに超えていた。


残り250mで2秒。

残り200m。

後ろを振り向かなくとも、そのすぐ背後に集団が迫っていることは明白であった。


ファンムールを飲み込んだ集団の先頭はアルペシン・フェニックスのティム・メルリール。前日の勝者がリードアウトを終え、放ったのは前日の2位ジャスパー・フィリプセン。

その左手からはチームDSMのケース・ボル。

マーク・カヴェンディッシュは、メルリールに前を塞がれ、左もボルに閉じ込められていた。

しかし、彼は冷静に、抜け出すメルリールと失速するボルとの間に開いた隙間を見つけ出し、肩で押したり無理をすることなくするりとその隙間を通り抜けていった。

そのあとはもがいて、もがいて、ひと踏みごとに力を込めて。

そして、最後は迫りくるナセル・ブアニを振り切って、両腕を前に突き出した。

第4ステージ


それは、ミケル・モルコフによる「お膳立て」があっての勝利ではない。

もちろん、ジュリアン・アラフィリップとミケル・モルコフによって最終盤まで集団の先頭付近にポジションをキープできたのは間違いなく彼ら最高のアシストの成果であった。

一方で、ファンムールの粘りによって集団は崩壊し、モルコフも残り300mで離脱せざるを得なかった。

単独になったカヴェンディッシュが、目の前をフィリプセンに塞がれ、厳しい状態に置かれた中で、冷静に対応して勝利を掴み取ったのは、紛れもなく彼自身の力であった。


Mark is Back. 現役最高峰のスプリンターであり歴史に残る存在である彼が、この1勝で誰よりも涙を流し、表彰台では言葉を失った。それは、プロ未勝利の男がツールでいきなり勝利をしたとき以上の反応だったように思う。


初日から連続して悲劇的な落車が続く中、ジュリアン・アラフィリップ、マチュー・ファンデルプール、ティム・メルリール・・・とても順当な顔ぶれながら、それぞれが皆エモーショナルな勝利を重ねてきている。

良いことも、悪いこともあるけれど、すべて合わせて、これがツール。

それはまだ始まったばかりだ。

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