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〈オテアワセ〉①「冬のぬくもり」

 私は寒いのが苦手だ。東北で長年暮らしているにもかかわらず、寒さには慣れることがない。それどころか年々、寒さにこらえきれなくなっている気がして、冬が近づくと「秋が終わったら冬をとばして春が来るといいのに」なんてぼやいてしまう。
 けれども、冬を嫌いにはなれない。それは、寒さの中で熱~い温泉に入る、という楽しみがあるからだ。

 私は、温泉が大好きだ。特に冬になると、温泉が恋しくてたまらなくなる。突き刺すような寒さにさらされていると、温泉に飛び込んで体の芯から温まりたくなる。

 幸いなことに仙台にある私の家からは、日帰りで行ける距離の温泉がいくつかあるので、冬の休日は、もっぱら温泉に浸かりに行っている。

 温泉が湧いているのはたいてい山の中。目的地に近づくにつれ、辺りの風景が雪景色に変わっていたり、平地では降っていなかった雪が降っていたりする。それらを見ただけで寒くなり、震えてしまう。

 到着し車を降りると、ピリッとした寒さを肌で感じる。家を出るときは厚着してきたつもりだったのに…。人を寄せ付けないような、厳しい空気が漂う。次第に立っている地面からも冷気が突き上げてくる。けど、湯気が立っているのが目に入り、硫黄の匂いがすると、「早く入りたい!」という気持ちがこみ上げてくる。

 着替えを済ませていざ、湯につながるドアをあけると、モアッとした湯気に圧倒される。近くの人の顔すら見えないほどの時もあるが、このくらいの方が温泉に来た感じがする。そして体を洗い、まずは露天風呂へ向かう。中途半端に温かくなった体は一瞬にして冷えてしまう。だが足先からそっと湯船に入り、肩までつかると、たちまち体に熱が突き刺さる。とっさに、腕を上げて外気にさらす。それでお湯の熱さと外の寒さの絶妙なバランスがとれる。しだいにお湯と体が馴染んでくるのを感じ、再び肩までお湯に浸かる。寒さで縮こまっていた体や心がほどけてくる瞬間だ。

 湯から上がっても、ぽかぽかした温かさにしばらく包まれる。着替えて、畳敷きの大広間に行くとついこのまま寝てしまいたくなる。家のお風呂では体験できないこの幸せ。このつかの間の、至福の時こそが、私にとっての「冬のぬくもり」を感じる瞬間だ。

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