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鯖ばなし

実家を離れるまで、サバを食べたことが無かった。父がサバアレルギーだったからである。私が幼少のころ、近所で買ってきたサバに見事にあたり死ぬ思いをしたそうで、以来我が家でサバは禁魚となり、生は勿論火を通したものまですべて食卓に並ぶ事は無かった。ちなみに父は大勝軒のつけ麺のスープを飲み干してしまうのだが。そういう意味ではサバアレルギーとは違う気もするが。

てなわけで私がまともにサバを食べたのは大人になってから、社会人とサバ同時デヴューということになる。デヴューと同時に父のようにあたったら、私も一生、サバを食べられなくなっていただらう。幸運にも私は、よいサバに、違う意味で当たった。生ではなく焼きだったが。

秋葉原の路地裏に「房丸」という小さな店がある。夜は居酒屋だが、かつてはランチもやっていた。たまたま近くの会社に勤めていた私は、この店のランチが大好きだった。当時750円くらいだったが、薄給だった(今もたいして変わらないが)新入社員の頃の私は週に一度のここでのランチを何よりの楽しみにしていた。そこで出会ったのが、サバの塩焼きであった。

脂が凄まじくのったそれ、かぶりつくたびにサバ汁ブシャー。汁まみれになりながらシロメシをむさぼり喰らう。午後は寝るだけ。素晴らしい時間だった。なんでも国産がいいと思っていた私に「ウチのはノルウェー産。じゃないとこの脂はないのよ」とマスターは教えてくれた。これは後に、我孫子の名店「志ぶや」のランチでも、同様の事を教わり、激しく納得したものである。

因みに生サバも好きである。初めて食べたときはこれまたびっくらこきまろであった。たっぷりの脂は上品で、身もぷりんとしていて。山岡士郎が言った事は本当だと、ひどく感激したものである。ゴマサバも好きだし締めサバもイケるが、あまり酢は効いてないほうがいい。そう、生に近いほうが旨いし、できるなら生でいただきたい。

私はたぶん、どんなサバを食べても大丈夫なのだ。
みんな、私に尋ねてほしい。

「Ça va (サヴァ)?」

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