専門家に手続きを頼む意義

世の中には、我々行政書士のみならず、司法書士、社会保険労務士、税理士、あるいは弁護士など様々な専門家がいます。
これらの人たちに仕事を頼むと、報酬額は思いのほか高額であることが珍しくありません。
では、なぜ専門家に仕事を頼むのでしょうか。

まず、ケーススタディで考えてみましょう。
人材派遣業を営みたいと思っている外国人がいたとします。
その人は、日本で10年近くITエンジニアの派遣業界で仕事をしてきたので、業界のことはよく知っています。
日本のビジネス慣習などについても熟知していて、業界で仕事をしていく上では何ら障害になることはなさそうだと判断しました。
そこで、初期費用を節約するため、オンラインの会社設立手続き書類の作成サイトを利用して、手持ち資金100万円を資本金にして会社を設立しました。
その際、外国人の自分が代表になると不安だと考えて、会社の同僚に代表取締役になってもらって、自分は役員にならず会社経営をすることにしたのです。
登記する会社の住所は、最初から独立したオフィスを借りてしまうと費用が掛かるので、シェアオフィスを利用することにしました。

さて、こういう状況で、専門家に相談をしている場合としていない場合で、そのあとが大きく違ってきてしまうということがあります。

我々行政書士がこの相談を受けたとしたら、多くのことについてヒヤリングをして、目的に合わせた行動を助言することができます。
ところが、このケースでは専門家に頼む費用が高いからということで自分で判断して行動したせいで、多くのミスをしてしまい、結局、専門家に頼むよりも多くの費用を発生させてしまうことになります。

順に説明しましょう。

まず、このケースでは「人材派遣業」を営むということでした。
人材派遣業は、国から許可を得て行う事業なのですが、その許可基準が細かく定められていて、基準資産となる資本金が2,000万円(細かな計算式がありますが、それは省略します)、主たる事務所が備えておくべき条件、派遣元責任者の設置などがあります。
最初から、この基準を考慮して会社設立するのが良いのですが、100万円で設立したおかげで、設立時の費用は法定費用プラスアルファの20万円強で済みましたが、足りない資本金を増資したり、条件が合わないシェアオフィスから移転するせいで、法定費用だけでも16万円から20万円程度を追加で支払う羽目になるわけです。
これを最初から専門家に相談して頼んでおくと、手数料は発生するものの、追加出費の半分程度を手数料で支払う程度で済むことが多いのです。

更に、外国人が起業するということは経営ビザを取得しなければならないという問題も発生します。
このケースですと、10年近く日本で仕事をしてきたということなので、永住権(永住ビザ)を取得できる可能性があり、場合によっては経営ビザを取得するのではなく、永住権を先に得ておくことで、その後のビザの問題を回避できる可能性があるのですが、専門家に相談しないことが災いして、永住権が遠のいていくことになります。
もし、新規事業を少し先延ばししても大丈夫な外部環境であれば、どちらを優先したほうが良いかを検討することもできますが、専門家の助言がないので、「10年の滞在で永住権が取れる」という、ごく一部の条件のみを重視してしまい、経営ビザ取得でも問題ないだろうと考えて、結局、永住権が取れるのは遥か5年以上先になってしまうということすらあります。

しかも、このケースでは、経営ビザを取るための条件もクリアしていないので、その修正すら必要になってきます。
経営ビザを取るための条件も色々とありますが、資金を出していればよいわけではなく、会社の代表者として経営することが、形式的にも実質的にも求められます。
役員として日本人の共同経営者しか名前が出てこない会社では経営ビザはもらえません。
結局、ここでも役員変更の手続きをすることになり、やはり最初から専門家に相談しないことが裏目に出て、無駄な出費をすることになります。

我々専門家は、特別なことをしているわけではないのですが、相談者の環境全体を聞き出し、これからどういった課題をクリアする必要があり、そのためにどのように行動したらよいかを考えることができるところが、一般の人との違いだと考えます。
よく、ケーススタディだけで「〇〇さんが××だったから、自分も同じようにすれば大丈夫」と考えがちですが、○○さんと貴方は同じ人ではないですし、全く同じ環境にいるわけでもありません。
我々専門家の存在価値は、考えられる様々な条件を考慮に入れて、相談者に最適解を得るための材料を提供できるというところではないかと考えています。

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