白いカーネーション・5「母とズッコケの対面」
母の知らせを受けて、急いで準備をし新幹線に乗りました。
いつも母の面会に行くときの、新幹線の中の時間は、爆睡することもあれば仕事の作業をしたり、創作を楽しんだり、とても貴重でした。
新幹線に乗った安堵感か、急に涙もでてきたですが、その日も、そうだ、泣いてばかりはいられないと、レンタカーの予約まで済ませました。
特に今回はあわただしいので、誰かに載せていってもらうより、自分で動けて正解でした。
新幹線も、レンタカーもケータイで予約できる世の中、便利です。
そんなことをしつつ、家につくと、やはりぐっと胸がいっぱいになってきました。「お母さん……」なんてつぶやきながら、玄関にはいるとすぐの応接間で義姉と、姉が葬儀屋さんと打ち合わせをしていました。
そしてそのとなりの仏間には、母が寝ているのが見えます。
もうそれだけで、ううっときていたのですが、
葬儀屋さんが私の方へむいたので、
「お世話になります。末の娘です……」
「このたびはご愁傷様です」
などとあいさつをすませました。
すると! 姉がいきなりいいました。
「ねえ、祭壇ってこれがいいとおもうんだけどどう?」
「へ……?」
そう、もう姉も、義姉も、二人とも母と対面し、すっかり泣き終わり、
今は葬儀の打ち合わせという現実的な話の佳境だったのです。
そこで姉も気が付いて、
「あ、そうだね。はい、まず泣いてきて」と
仏間をさして。
「泣いてきてって」
コントみたいに、大げさにズッコケたくなりました。
そこにいた母は本当に寝ているようでした。
面会にいっても寝てしまっているときもあって、
それと同じでした。
施設でもそうしたように
「おかあさん……、おかーさん……。来たよ。○○だよ」と呼びました。
でも本当にもう返事してくれないんだなと。
顔にふれるとひんやりとして。
とたんに、もりもりと涙があふれてきました。
家にかえってこれたんだね、とか、
ほんとうはさびしかったよね、
がんばったよね、とか。
そんな感傷的になっている間にも、となりでは、
「これは、一対ですよね。孫一同だとこれぐらいですか」
と、献花の打ち合わせの声が……。
ずっとメソメソしているわけにもいかず、
わたしも、しばらくして
その打ち合わせに加わったのでした。
「あら、もう行っちゃったの?」と
母が突っ込んでそうでした。
でも葬儀屋さんというのは、それぞれの家の空気や事情をすぐに把握して
限られた時間の中ですすめていかなくてはいけないので、
ほんとうに大変な仕事だろうとおもいました。
ありがとうございました。
父の時は、母もいたし、20年以上まえなので
あまり記憶がないのですが、
今回は湯かんも、納棺も近くで拝見できました。
またそれもいい時間でしたので、記録していこうとおもっています。
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