「泡沫のすゑつ方」#8
翌朝、戸を叩く音で目を覚ます。開けてみれば女中が風呂敷を抱えて立っていた。
「若様からに御座りまする」
と、それを差し出す。礼を言って部屋に戻り、早速開ける。
濃紺の直垂と草履、侍烏帽子。
侍烏帽子か。またこれを冠る日が来ようとは。感慨深げに手にとり、そっと輪郭をなぞる。
ついていってみようと思った。あの足が歩む方へ。
真っ新な直垂に袖を通す。袴の帯を締めて、最後に侍烏帽子の紐を結う。帯の隙間には麻馬殿から頂戴した紅の腰刀。濃紺の上下に紅がよく映える。早速若殿の寝室の前に行き