見出し画像

ブックオフで買った小説は押入れの匂いがするよね

押入れの匂いって全部一緒じゃない?埃と木材の混ざったような煤けた匂いがして、奥の方に各家庭の柔軟剤の匂いがするような気がする。

押入れに放置していたのか、はたまた押入れに住んでいたのか僕には知るすべはないけれど、一冊の小説にも歴史があって、手放した持ち主にも手放す理由があって歩んできた人生があると想像することはできる。そう考えると、大事にしようと思うね。

僕は小さいころ、よく押入れに入って遊ぶことがあったけど、押入れって暗くて涼しいんだよ。

襖の隙間から少しだけ、本当に髪の毛ほどの隙間から細い光が縦一本に道を作って真っ暗な押入れを明るくして、その僅かな明かりが僕に奥行きを教えてくれて狭い押入れに入っているんだなと充足感に包まれて昼寝するのがすごく好きだった。

眠りに近くなっていくと、音の輪郭がぼやけて一つの音になっていく感覚があるじゃん。

家族のいつも通りの会話とか、テレビの音とか、おかんの料理の音とか、そのすべてが心地よくて寝返りすると軋む押入れがうるさく感じるから、音が出ないようにゆっくり身動ぎをするんだよ。

子供でも流石に押入れは窮屈で、起きるころには首とか腰が痛いのなんの。

襖を開けると、ちょうど夕日が沈んだみたいで、電気をつけるか自然光でしのぐかの狭間で部屋が暗くなってて人が誰もいないみたいな一瞬の静寂をどたどた走ってかき消す。

本当に好きだったんだよ押入れ。もっかい入りたいな、押入れ。

ブックオフの本も多分同じことを思ってるよ。

帰りたいよな~、押入れに。僕も。

流石に中段の板が抜けるよな。天袋のもの取る時に足を掛けるとミシミシ言うもんな。

好きな小説を押入れに入れてみんなで自作ブックオフしようぜ。

おわり

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?