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上限値、下限値

日常で上限や下限という言葉はよく使います。電卓で「9」ばかりたたいた数に、また「9」ばかりたたいた数を掛け算して遊んでいたら、エラーの表示が出て、電卓に怒られる。それで表示できる桁数にも限界がある。限界を超える直前のぎりぎり最後の値が、いわゆる上限と言われます。

このぎりぎりの値である上限、下限を述べよう。

まず、簡単のため値というのは実数の値として考えよう。

今、実数の部分集合Aを固定する。Aの任意の元xについてx≦Mとなるような実数Mの全体をAの上界(じょうかい)という。下界も同様に定義され、Aの任意の元xについてm≦xとなるような実数mの全体をAの下界(げかい)という。

上界の中の最小値を上限、下界の中の最大値を下限という。

そして、上界があるような集合Aを上に有界、下界をもつ集合Aは下に有界という。

なお、これらの定義は実数の集合の上でなくても、一般に順序の構造をもった集合の上であれば、同様に定義されます。

さて、実数の世界では、

”空でない実数の部分集合Aが上に有界ならば、Aは上限をもつ”

あるいは、その同値な条件として

”空でない実数の部分集合Aが下に有界ならば、Aは下限をもつ”

という条件―実数の連続性の公理―を認めています。

「実数とは」というのを考える上で最初の前提として要請されている訳です。

注意として誤解しやすい点は、部分集合Aの「最大値」、「最小値」と「上限」、「下限」は同一概念であると考えてしまうところなのですが、必ずしもそうではない、というところです。

例えば実数の部分集合Aとして「0より大きくて1より小さいすべての実数」を考えると、1という値、または0という値は部分集合Aの要素ではないですから1や0はAの最大値、最小値ではありません。しかし、これらが上限、下限になっているのは認められるでしょう。実際、Aの上界は「1以上の実数」でその最小値は1です。下限も同様です。

最大値、最小値は、その部分集合に要素として属することを要請しているのに対して、上限、下限はその部分集合に要素として属することを要請していない点で、両者は互いに異なる概念である訳です。


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