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半群

文字A~Zのアルファベットがあるとしよう。これらの文字をいくつか並べてできる長さが有限の文字の列をすべて考え、その集合をFとおく。

Fの元を単に文字列ということにしよう。文字列は例えば、
ABC,COFFEE,PPPPQQPPP,・・・
など同じ文字を何回繰り返し使ってもよい。また空白(長さが0の文字列)も文字列として仲間にいれるとしよう。空白を表すのに△と書くことにする。

文字列と文字列をつなげるとまた文字列である。これはFの2つの元からFの元への対応を与える。つまりこの操作はF上の2項演算である。そしてこの演算をFの乗法と呼び、演算記号を・(ドット)で表すとしよう。この乗法は例えば、
ABC・CDE=ABCCDE
UTADA・HIKARU=UTADAHIKARU
という風になる。

集合Fとこの乗法を合わせたものを考えるときは、その構造が付帯されていることを強調してしばしば(F,・)と書かれる。

さて(F,・)の持っている性質として次の2性質はすぐに認められよう。
(1)結合法則:
 任意の文字列X,Y,Zについて
 (X・Y)・Z=X・(Y・Z)
 が成り立つ。
(2)単位元の存在:
 任意の文字列Xについて、
 △・X=X・△=X
 が成り立つ。文字列△をこの乗法に関する単位元(たんいげん)という。

一般に、集合とその上の2項演算が付帯されているものが、上記(1)の性質を持つときは半群(はんぐん)、(1)と(2)の両方を持つときは単位的半群(たんいてきはんぐん)、またはモノイドと呼ばれる。(注意:「文字列」という言葉を「集合の元」と書き直す必要はある。)上記で我々の定義した(F,・)は単位的半群になっている。しかしFに空白の文字列△を入れないで考える場合は、(2)の性質は成り立たない。その場合は(F,・)は単に半群である。

なお、上のようなFを文字{A,B,・・・,Z}における自由単位的半群と呼ばれるがその話はまたの機会に。

半群ないし単位的半群の他の例はごく自然の中に現れている。

自然数の集合とは{1,2,3,4,・・・}をいうが、これは加法+についての半群であり、乗法・については単位的半群である。乗法においては1がその単位元となる。

さらに、この自然数の集合に0を要素に付け加えたものを考えると、加法について単位的半群となる。ちょうど0が加法における単位元となる訳です。

また、単位的半群における単位元の存在は一意的(つまりただ一つしかない)ということも論理的にすぐわかります。

実際、単位的半群(G,・)における単位元が2つあったとして、それをe、fとしよう。その2つの積e・fを考えると、eもfも単位元であるからこの積はfやeでもある。ゆえにeとfは一致する。

単位的半群の中にもまた単位的半群が現れることがある。

単位的半群(G,・)の部分集合HでGの乗法がHの中で閉じている場合、つまり、Hの2つの元a,bについてa・bがまたHの元となる場合、(H,・)は半群となる。これをGの部分半群とよぶが、一般には単位元がHに属しているかどうかは言えない。しかもGでは単位元でなかった元がHでは単位元となることもある。(Gで単位元だったものがHに属しているならば、その元はHでの単位元である。)そこで、Hに単位元が存在して、Hの単位元がGでの単位元と一致する場合に、HはGの部分単位的半群と呼ぶ。

例えば集合A={1,2}、PをAの部分集合すべての集合とする。Pには2つの元について和集合を取る操作∪を演算に、空集合Φを単位元とする単位的半群である。Pの部分集合Qとして1のみから構成される集合{1}のみを要素にする集合{{1}}を考えると、(Q,∪)も単位的的半群となるが単位元は{1}であって、Pの単位元、つまり空集合Φではない。


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