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症例A / 多島斗志之

2021年3月14日 読了

精神病院に勤める主人公と、不思議な精神病患者との物語。
物凄くリアルな精神病治療の実態が、周到に調べ上げられたうえで描かれており、実際にあった出来事かのように感じられる。統合失調症や境界性パーソナリティ障害(境界例という言葉を恥ずかしながらこの本で知った)という症状についても、その診察方法・治療方法についても、とても詳細に描写されている。
話が進む中で解離性同一性障害についても触れられていくが、よくある多重人格ミステリーのような稚拙さは一切なく、その病気の存在や扱い方のリアルさが強い説得力をもって語られるため、本当にその病気を目の当たりにしているようなリアルな感覚と衝撃があった。

また、病院内での物語と並行して、ある博物館での謎が語られていく。一見まったく関係なさそうな2つの謎が段々と交差していくシナリオ進行も面白く、途中からはページをめくる手が止まらなかった。

終わり方は、未解決の問題を多く残しているうえに、かなりドラマチックな落とし方をしているため、人によって意見は分かれそうだが、個人的にはここまでリアルな下地を敷いたうえでのドラマチックさだったため、素直にグッときた。クサいラストシーンではあるが、それもまた良かった。

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