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スプラトゥーン3に悩む

はじめに


 9月上旬に任天堂から発売された「スプラトゥーン3」という全年齢対象ゲームをしばらく遊んだ感想を述べる。筆者は一プレーヤーに過ぎず、全く利益相反の関係にない。なぜ記事を書くことにしたかというと、私はこのゲームの難易度が大変高く同時に欠点を感じているからである。ゲーム自体は奥深く、一時期ドハマリしたことは相違ない。ただの批判である。筆者はSuttompaという名前で遊んでいたが、最近別のゲームに移行した。

概要の説明しづらさ

  このゲームは軟骨生物であるイカあるいはタコがヒトの姿を模して武装し、特殊なインクを携えた武器からインクを発射・投擲もしくは噴霧、散布、塗布することで戦闘を行うことを主としたPvP(対人)ゲームだと理解している(サーモンラン・ナワバトラーを除く)。特定の閉鎖的かつ対称的な地形の会場の中で、軟骨生物とヒトの形態を変えつつ、制限時間以内に与えられた主目的を達成することがゲームの舞台「バンカラ街」においてイカした行為とされているようだ。自分と異なる色のインクの相手にインクをかけることで相手を撃滅することができるのだが、バンカラ街では戦闘行為をすることが推奨されており、これ以外の方法では敬意を払われることは一切ない。なぜ戦うのか、なぜいきなり武器を持たされるのか、それが粋だから(イカしているから)以外に理由がなく、当初から私は困惑した。いまでも困惑しながら戦闘行為に参じている。このゲームには好戦的な水棲生物と不穏な一部の哺乳類しかいない。なぜ戦うのかを考えるような人にとって、もっと適切なゲームはありそうだ。

ヒーローモードの虚しさ

 まず、このゲームはオンラインプレイが必須であり、テザリングやポケットWiFiなしでは飛行機や鉄道、船舶での対戦は不可能である。一応お一人様用の「ヒーローモード」が存在するが、すべての課題を達成(クリア)するには大変骨が折れるし、おそらく自分が小学生や中学生であったらクリアはできなかったであろう。もしヒーローモードを達成したら胸を張って良い。できなくてもいい。このゲームをやっていて癇癪を起こしたり、憤激する児童がいれば私は同情する。多感な児童にとってスプラトゥーン3での衝動制御やアンガーマネジメントは難しかろう。クリアしても私にはあまり爽快感がなかった。

 私見だが、このヒーローモードは収集要素をすべて集めないことには、物語の脚本がさっぱり理解できない。一応、人間が絶滅したあとの地球が舞台で、軟骨生物が進化した結果、ヒトとイカ(タコ)を行き来する生物がはびこるようになった世界である認識をしている。しかし、一体何をさせられていたのか、未だによくわからないでいる。不穏な哺乳類の生き残りが特殊な技術で彼らの復権を果たそうとする狙いを、軟骨生物である主人公らが阻止する筋書きは最後までわからなかった(思えば007の「ムーンレイカー」に似ていた)。あえてわからないようにしているのか、それとも私の理解力が低いからか。おそらく後者だろう。道中かろうじて支援者のような人物が登場する。色々喋っているだけで私に言わせれば役に立たない飾りであった(マンタローを除く)。

 各々のステージの難易度が妙に高い。前作のヒーローモードよりも遥かに難しい。後半の射撃ステージで「自分の感覚を信じるんよ」と無用な助言を何百回言われたことか。自分の技術の低さと同じセリフの繰り返し以外に怒りの転嫁先がなく、私は悲しい時間を過ごした。主人公はクリアして生存する以外には、溺水するか、敵の弾で爆散するか、制限時間に間に合わず失敗扱いとなるしかない。強制的に絶命させられるのは正直気分が悪い。やっとの思いでクリアしても私にとって達成感に乏しく、シナリオがよくわからない前提もあり、エンディングにおいて虚無感が私を支配した。ステージ名のそれぞれがいちいち不動産広告風の文句(マンションポエム)なのが、「こういうの好きなんでしょ」と言わんばかりで、一部の嗜好を狙い澄ましたような気がしてどうも好きになれない。この世界観に没入できる人にとっては最高だろうが、残念ながら私は没入には至らず、やや距離を置いた体験となった。ゲームシステムとしては独自性があって好きなのだが。

オンラインバトルの難しさ

 オンラインの対人戦においては、ナワバリバトルとガチバトルという二種類の試合が存在する。詳しく言えばガチバトルにはさらに下位項目があるが、結局インクを掛け合う試合に終始するので省略したい。こちらは対人戦であるから、相手は殺意むき出しで襲いかかってくる。好戦性の低い人には向かないゲームだとつくづく感じさせられる。これらの試合に勝つと「経験値」を得て「ランク」が上昇する。ランクが上がってくると、民間人に「イカしてる」と言われ、稀にバッジを獲得し、時折使える武器が増え、偶に尊敬されるのだが、それだけである。他に何か優遇してくれるわけでもなく、常に厳しい世界にいることを感じる。徐々にランクは上がりにくくなる。プレイヤーの向上心を挫く設計である。高ランクまで付いてきてくれるプレイヤーは少ないように思えてしまうが……
 対戦は4人対4人の形式であり、自分の力量に応じてチームの選定が行われる。これをマッチングという。通信状況によってはエラーが生じ、マッチングがなされないことや、対戦中に中断することもある。対戦開始し、興奮してZRボタンを猛打している時に中断された通知を見るのは怒りを通り越して哀しみしかない。また、編成に偏りが生じている指摘、評価を見かけると納得の意見である。どのような手続きで編成されるかはわからないが、運営としても公平性の担保は難しいのだろうと考えるしかない。

 複数の武器の中で、使い勝手の良いものとそうでないものがある。当然多くの人は使いやすい武器を選ぶ。使いやすい武器というのは少量のインクで相手を撃滅することができ、比較的長射程で、連射ができ、単位時間あたりのダメージ量の大きいものをいう。もしくは地面をインクで塗る効率の良いものが好まれる。うまく自分の色のインクを塗りたくり、陣地を広げることが勝利に直結するので、後者は非常に大切なのだが、相手を撃滅するとなぜか自分の陣営の色で爆発四散するため、積極的に力によって現状を変更することも望ましい。相手も同じことを考えている。自身が一瞬で爆散する過程を何度も目にすると徐々にフラストレーションが溜まってくるので、適度に休憩を取りつつ遊ぶべきだと私は感じている。

サーモンランとその危うさ

 サーモンランはいわゆる協力型プレイあるいはPvE(対環境)モードと称されるゲームであり、プレイヤーであるイカあるいはタコは、「クマサン商会」に入会する。そして、なぜか定期的に一定の場所に帰巣する鮭(サーモンラン)をインクで撃滅する事業に参加することになる。特定の鮭を撃退することで得られる金色のイクラを集めることが目的であり、制限時間以内に規定のイクラを収集する過程(WAVE)を三回達成する必要がある。三回達成で、一つのバイトを達成となる。もちろん我々が撃退する危険性にあり、制限時間以内にノルマ未達成、もしくはプレイヤー全滅となると、失敗としてゲーム終了となる。この厳しさがプレイヤーに緊張感を与える。いや、もはや緊張感しかない。コンピュータである鮭の方も、溝水のような色のインクを常に帯びており、狂った眼光でこちらを追い詰めてくる。しかしイクラを奪おうとするこちらの方が狂っているだろう。

 サーモンランは気軽にできるアルバイト、という名目ですぐにプレイできる。はじめは「かけだしアルバイター」としてノルマも少なく、敵も少ないため容易に目標を達成できるが、途中から雲行きが怪しくなってくる。突如、練習では明されない特殊WAVE(ラッシュ・グリル)が発生し、5秒くらいで全滅するのが、通過儀礼となってくる。EX−WAVEもひどい。日本にはブラック企業という悪質な労働環境のそれを指す言葉が有名であるが、「クマサン商会」はおそらくそれを皮肉ったのであろう。雇用者であるクマサンはプレイヤーを非正規で雇用し、危険な作業に従事させる。完全に成功しないと評価は上がらない。しかも少ししか上がらない。時折9割ほど失敗する残業(EX−WAVE)が生じる。この設定を考えた人は面白いと思ったのだろう。こちらもゲームというフィクションだから本気にすべきでないのだが、ちょっとこの設定は好かないし笑えない。ゲーム自体は面白いのに勿体ないと思う。

 ただ、面白い一方で、ノルマ達成時の評価の上がり幅や報酬が少なく、何度も何度もプレイしないとプレイヤーの欲しいバッジや景品を手に入れることはできないのはゲーム設計の妙であり、危うさでもある。射幸心を煽るのが上手く、特に自己統制の困難な若年層にとって危ういと考える。イカとタコはどうか知らないが、私達人間の、報酬への欲望はかなり強い。サーモンランに限らず、スプラトゥーンというゲーム全体が、多感で繊細な青少年の目標指向性を弄ぶことになるのを危惧している。例えば究極の上限「でんせつアルバイター999」に達すると金色のバッジが貰える。これは名誉であり、プレイヤーの目標である。そしてほぼ達成不可能である。

 「でんせつアルバイター999」を目指し、一回のクリアで評価幅が20しか上がらないバイトを延々と繰り返すには、恐ろしい時間を要する。しかも大体二日くらいで評価値がリセットされるので、集中的な時間が必要ということになる。一体、どれだけの人がこの目標を達成しているのだろうか。そもそも「でんせつアルバイター200」ですら半端なく難しい。この上限を達成する人々はカウンターストップを略した「カンスト」勢と呼ばれ、上級者として自らのプレイ動画を配信するものもいる。実際に存在することは事実である。確かに上手い。見事な手際としか言いようがなく関心してしまう。プレイスキルが高いことは十分条件であるが、おそらく膨大な時間をプレイに費やせる生活環境は必要条件に入りそうだ。

 多くのプレイヤーは達成の証として報酬が欲しいと思うはずだ。願わくば私も欲しい。欲しかった。しかし、目標が高く厳しすぎて到底達成できない。せいぜい「でんせつアルバイター」に達した時点で金バッジを与えても良いくらいに思っている。ただの負け惜しみに聞こえるかもしれないが、膨大かつ集中的な時間がないと獲得できない実績を用意している時点で、運営は人間の集中力の限度と時間を無視しているように見える。全年齢対象のゲームにおいて、こどもたちに短期間で多くの時間を費やすことにお墨付きを与えているようにも私は少し捉えている(考えすぎかもしれない)。ゲームを楽しむにはある程度上手になることが大切だが、引き際も大切である。私の知るほとんどのゲームは任意の時点で中断できる良さがあった。任天堂の作品は多くはそうなのではないかと思う。どうぶつの森は見事であった。ゲームとしてのアイディアはとても好きだが、射幸心を煽るこの仕組みはちょっとしたトラブルを招きそうである。適切に導いてくれる保護者や支援者、友人がいない場合、特殊な家庭において、社会生活を害しそうなリスクを秘めていよう。

 私は報酬の条件緩和を求めたいところである。しかし、こんなうんこブログを読む人はそういないだろうし、大いに賛同を得ることもないだろう。もう少しプレーヤーとして、気持ちよく遊びたいし享楽したいと思うに尽きる。ただそれだけだ。来月はアップデートがあるようだ。どうしようか。


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