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文字地獄

人は果たして文章で思考するのか、
それとも専ら感覚なのか。
私は、脳みその中ではその両方が、
入浴剤の色付いた湯船のように、
上手に混ざっているものだと確信している。

考え事をしているときの自分の頭を観察してみるといい。なんともふわふわで、つかみどころがない。その考えをいざ文章に書き出すためには、人にうまく喋るには、また改めて同じ思考を順に辿る必要がある。


一方考え事とは別に、文章を考える頭というものがある。そこでは文字が先行している。はっきりとしている。ふだん会話をするときの要領で、明確な言葉という物を頭に浮かべながら、それをつなぎ合わせる努力をしている。

まったく言葉に喋らされているような形で、文章を考える頭は、まさに喋るときの動きをしているのだ。私が実際、今ペンを取りこのように書くのは、このような具合にである。ここでは感覚が阻害される。感覚を表現する的確な言葉があるだけなのだ。湯船は言葉である。その感覚は書けない。

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