「こんにちは!」から始めたい。『こうして世界は誤解する』

大変ご無沙汰しておりますが、ゆるゆると更新致します。
*今回ご紹介したいのは、ヨリス ライエンダイクさんの著作「こうして世界は誤解する――ジャーナリズムの現場で私が考えたこと。」です。

内容については以下の様に説明されています。(英治出版HPより抜粋)
オランダで「最も影響力のある国際ジャーナリスト40人」に選ばれた著者が中東特派員の5年間で考えた、今を生きる人のための「メディアリテラシー」

英語の題名は”People Like Us: Misrepresenting the Middle East”で、「私たちと同じ様な人々:中東について誤って伝える事」という感じでしょうか。
オランダ語の題名は『彼らはただの人である』(Het zijn net mensen)だそうです。下の※1参照

本ではヨリスさんが「中東について一言で語ることは出来ない」、と強烈に感じるに至った中東諸国での様々な体験について書かれています。

・・・現地に滞在していた作者の言葉には重みがあり読み応えがありましたが、一番印象に残ったのは冒頭に書かれている難民キャンプを訪問する場面です。

現在の南スーダンにあった村の難民キャンプ。最初の2つを訪問し、痩せ衰えた人々を見て涙を流しそうになったヨリスさん。3ヵ所目に足を踏み入れた時、ふと思い立って「みなさん、こんにちは!」と挨拶した所、難民達に変化がありくすくすと笑ったり手を振ってくれたりして、ヨリスさん自身が驚いたそう。そして自分が「中東」について偏った考えを持っていたことに気づきます。
要約すると・・

  ニュースで見るようなみじめな人々のイメージが自分にはあり、
  最初の二つのキャンプでは無言のままそのみじめな人々を見ることと
  なった。3番目のキャンプでもし「こんにちは!」と言わずにいたら、
  そのイメージを持ったままその場を後にしただろう。全員が餓死しかけ
  ているのだから実際にみじめではある、けれども、それだけではない。

と思ったと。

状況を想像してみると、確かに見た目がまさしく「ヨーロッパの人」の彼が、挨拶(多分アラビア語で)したら、キャンプの人達もびっくりして・親しみを感じて笑ってしまうよなあと。
この瞬間に、「キャンプにいる難民」⇔「それを見る外国人」という関係が、「同じ場所にいる人間同士」というフラットになったのかなと感じました。

この後に彼は、エジプト、シリア、エルサレムでの経験を語り、ニュースで偏った情報を信じていた私にはすごく勉強になりました。そしてその合間に「みなさん、こんにちは!」という言葉が唐突に出て来て、その度にヨリスさんから「さあ、ちょっと考えてみようか」って言われているような気がしました。

話しは少しそれますが、ここで国際協力の世界に興味を持ち始めた時のことを思い出しました。

あるNPOさんが「援助される側の”dignity(尊厳)”を大切にする」というようなことを仰っていて。事例を聞いたら納得するのだけど、「尊厳」ということばが難しくイメージ出来なかったのですが、「敬意を払う」と考えた時に腑に落ちて、相手に敬意を払う一歩目が挨拶だなあと思ったのです。

この本を読んで、私は相手がどんな立場の人であろうが、敬意を払う人、対等な一人の人間として見る人が好きなんだなあと改めて分かりました。そして私もそうありたいと。

「対等に見るって何?」と考えた時、一番しっくりきた考えが、「小学校の同じクラスで席が隣の人」みたいな感じで。消しゴム貸してもらったり、教科書見せてあげたり。別に特別仲が良いわけでなくても、挨拶し合うし助け合うし。その人とは出身地域や信じている宗教、経済/家庭環境に違っていてもそれは付随情報であって「同じ人間」というのは変わらない。という感覚です。

そして「常識」とされていることを冷静に疑う目を私もずっと持っていたいと思いました。

・・・読後感に浸りつつ、ヨリスさんが今何をされているのかが気になって調べてみたら、何と!

2011年から2013年までイギリスのガーディアン紙で金融業界についてのブログを書いていたそう。

「中東」と同じく、偏ったイメージで語られがちな「金融街」に切り込んだヨリスさん、ぶれてないなあ。恰好よすぎ・・!!
と思っていたら3月にそのことをまとめた本の翻訳版『なぜ僕たちは金融街の人びとを嫌うのか?』が発売だそう。毎度毎度、英治出版さんのお仕事は本当に素敵すぎます、ありがとうございます!
というわけで、ヨリスさんの次の本が読めるのを楽しみにしているのでした。

関連URL
●本の紹介「なぜ僕たちは金融街の人びとを嫌うのか?」

http://eijipress.co.jp/book/book.php?epcode=2238

●2012年ほぼ日刊イトイ新聞の連載 糸井重里×ヨリス・ライエンダイク「ゼロからはじめるジャーナリズム」

http://www.1101.com/zero_journalism/2012-03-28.html

●※1 英ロンドン金融街を題材に「一緒に学ぶジャーナリズム」 ライエンダイク氏インタビュー(3/8追記)https://news.yahoo.co.jp/byline/kobayashiginko/20170301-00068225/