ヨリスさんがゆく!『なぜ僕たちは金融街の人びとを嫌うのか?』

とうとう・・手に入れました!ヨリス・ライエンダイクさんの新刊『なぜ僕たちは金融街の人びとを嫌うのか?』

・・私は別に金融街の人を嫌っておらず(むしろ金融から国際協力に転身した人とお会いすることが多いせいか、その高い志とずば抜けた頭の良さに感嘆することが多かったので)戸惑いましたが、英語の題名は” Swimming with Sharks: My Journey into the World of Bankers”というんですね。(“Swim with sharks”はWiktionaryでは”To operate among dangerous people”と載っていました。)

さて、概要は英治出版さんのページにある通りです。http://www.eijipress.co.jp/book/book.php?epcode=2238

<あらすじ紹介より>「最も影響力のある国際ジャーナリスト」がロンドンの金融街で働く200人以上にインタビュー。一面的にしか語られてこなかった金融業界の人間模様を描いた傑作ノンフィクション!
<著者紹介より>2011年から2013年にかけて、英ガーディアン紙のオンライン版で「Banking Blog」を連載。その経験をもとに(本書を)執筆。

・・イギリスの日刊紙のブログでリアルタイムに書かれた内容を本にしたものということで、一般の人からのコメントについても触れられています。
個人的に印象的だったことを書きますと

・2008年の金融危機を引き起こした原因の解明
 金融業界の専門用語をすごく分かりやすい単純な説明に置き換えてくれているので理解しやすかったです。
様々な人のインタビューと並行して、金融業界の構図、階層、そこで働く人の職種と考え方のタイプ分け、システム(構造的な利益相反と逆インセンティブ)の問題、その後もシステムが是正されていないためまた同じ危機が起こる可能性があることを書いています。

理解すると、あんなに人々が混乱し公的資金が費やされたのに、改善されていない状況に気持ちは沈みますが、まあ正しく知ることがまず第一歩だと考え直しました。

・「学習曲線」の面白さ
 自身も門外漢である問題を取り上げて、素人の質問を専門家にぶつけ、その答えから生まれた疑問を他の専門家に繋げていく・・・というヨリスさんの「学習曲線」を記事にするという実験。これ自体も面白いですが、「沈黙の掟」に支配された金融業界に同じ方法で切り込むヨリスさんの試行錯誤は読みごたえがありました。何より「金融難しいよー」って思ってたのは私だけじゃないのね(ヨリスさんも、業界にいる人の中にもそう感じていた人がいる)と知ってほっとしたし、自分の学習曲線も少しは上がった気がします。

・ヨリスさん的配慮
 ヨリスさんの本だから「金融」についての本書を手に取った私にとっては、随所の「ヨリス節」はちょっとした楽しみでした。例えば、なかなかシビアな話が続いた後で「ではこのあたりで、少し明るい話もしよう」と話題をかえるところとか、打ち合せで誰が何を食べたかを事細かに書くところ(=読者にもその人がどういう人かを言葉以外で判断できるようにしている?)とか。金融に関わる人を細かなタイプに分析する(例:『苦々しい思いを抱えたタイプ』『宇宙の支配者タイプ』等)のも興味深かったです。

・・・内容はもちろん書ききれず、詳細が気になった方は是非読んでみて下さい。

最後に。

ヨリスさんがもともと「学習曲線」を新聞でしようと思ったきっかけがジャーナリズム会議で出た「なぜたくさんの人が自分達の利益に直接影響する問題にはほとんど興味を持っていないようなのか」ということだった、というのを読んでぎくっとしてしまいました。

「関心がないからか、それとも問題が複雑すぎて損との人には理解出来ないからなのか?」

さっとよぎった個人的な答えは「どっちも。で、知ったところで自分に何か出来る気がしないから。」というもので。いやいや、でもせめて知る努力はしないと!と、日常に流され人任せにしていた自分を反省したのでした。

この本の最後に2012年に行われた糸井重里さんとの対談が掲載されており、この時と考えが変わっていなければヨリスさんは更に新しい事をこれからされると思います。(10人を集めて1テーマずつ担当するというくだり)

それについての本が発売される何年か後、私も今よりは成長していたいなあとしみじみ思ったのでした。(面白い本を読んだ後はいつもこう思います(笑))