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編集部ピックアップ『あの日曜日みたいな匂いを思い出したいだけ』

 めちゃくちゃ寒いですね! 編集部の高橋です。
 僕の仕事部屋、エアコンなくてですね。我慢できないときは、灯油ストーブ使ってるんですが、4畳半の部屋だと1時間もしないで空気が・・・・・・。

換気は大事! 時節的にも酸素的にも!!

それでは、今週のピックアップはこちら!

作品紹介

別に、応じることが嫌なわけじゃない。でも、客観的にみれば、男と女だ。歳はずいぶん離れているけど、私はここで滑らかに座ることのできる類いの女ではない。要するに、全然素直じゃないのだと思う。――登山中に「偶然」生き別れた父と遭遇する。話したいことが山のようにあるものの、「私」は偶然知り合った男女を装い続ける。
著:西村たとえ

他人の会話と父との会話

 あらすじにもあるように、私と彼では大きく立場が違います。
「父と娘」と認識する私
「知り合ったばかりの登山客同士」と認識する彼

 その違いは、会話にも現れるていて、それ自体も面白い
 けれど、読み進めると少しの違和感を感じました。

 彼、何か感づいてないか?

 いや、そこまで確信をもっているわけじゃないだろうし、「娘もこれくらいの年なのかな?」と重ね合わせているだけかもしれない。

 けれど、「私」も「彼」も不思議な駆け引きをしているように見えてくる。
 地の文は一人称視点で描かれているので、「私」の目を通した「彼」の姿しか描かれず、そこに違和感はないのだけど、「私」ですら気づかない違和感を読者は「彼のセリフ」で受け取ることになる。

 こうやって改めて整理すると不思議な作品!

 後に「彼」は「私」から離れる決断をするのですが、これも「彼」が「父娘の関係」に気づいたからと描写されているようで、されていない。

 だって、「私」はそう確信したみたいだけど、読者からしたらとっても微妙なライン。本当に「彼の寝言」かもしれないし「私の夢」かもしれない。

 いや、素直に読めば「父娘の関係に気づいた」ってことで良いのだけど、そう素直になれないのは、「私」の父への思いの強さにあるのだと思いました。

父への思いとほんものの会話

 目尻の「」にこんなに執着する「私」に少しだけ畏怖を感じたのは僕だけだろうか?
 所々に非常に具体的で非常に魅力的な描写が出てくるのですが、それが重い。 最初から触りたい。と思っていた「私」ですが、山小屋で仮眠をしている最中、ついにそれは実行されます。

 なんだか、親子というより――というぐらい具体的で強い思い。もちろんここで描かれているのは、恋愛感情ではないでしょう。それほど何年も強い思いを抱いていた結果なのです。
 けれどだからこそ、「私」を通して見ているこの世界に疑問が浮かぶ。本当に「彼」は気づいたのか。気づいたとしたら、どこから気づいていたのか。

 そして、怪我して座り込んでいる「彼」を見つけたところから、物語はクライマックスへ進んでいくのですが、ここがとってもいい!

特に特に、最後の2行。めちゃくちゃ良いなー。ここまで読んでの「ほんものの会話」ってチョイスがとっても良いセンスだなーと思いました。

是非、読んでみてください!!

作品URL
https://sutekibungei.com/novels/6dad2939-3cb9-4156-a9c9-e7c88ede99c0

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