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編集部ピックアップ『シープベル』

高校の数学教師になって5年。
亜依子は、後輩の数学教師である千花の異常な行動に悩まされていた。
大学の先輩で牧師になった真木への思慕と、
千花の毒親との関係、千花の元彼をめぐるトラブル。
嫌悪を感じても断ち切れない人間関係の葛藤と、人を見棄てる罪悪感。
そして救いについて考える。

著:奥坂らほ

心の問題に振り回され深みに陥っていく

数学教師でクリスチャンの緑川亜依子は、後輩の田久保千花の異常行動に悩まされていた。千花は、いわゆる”毒親”の家庭で育ち、気分や感情の変化が激しく、見捨てられることを強く恐れる境界性パーソナリティ障害。亜依子を依存の対象としてつきまとう。千花の不安定で激しい気分変動、理想化と扱き下ろしに、亜依子は次第に精神的に追い詰められていく。
ある日、亜依子が距離をとろうとしたことに、千花は見捨てられる不安に駆られ、自らのリストカットの生々しい動画を送りつける。
亜依子は千花をぎりぎりのところで救うが、凄惨な映像のショックで、心に深い傷を負い不眠になる。千花が回復してからのことを考えるほど、”死ねばいいのに”と考え、そのことに思い悩み、大学の先輩で牧師の真木偉作に相談する。

心の問題とそれが引き起こす様々なトラブル。トラブルを通して内省することで浮かび上がってくる感情の変化と、そのルーツが、キリスト教会を中心に丁寧に生々しく描かれている。加害者は無意識か、異常な心理に突き動かされ、被害者を苦しめる。被害者は離れたいと思いつつも、関係を完全に断ち切ることができず、じわじわと共依存的に、振り回され、がんじがらめになっていく。その過程が恐ろしい。亜依子にとっての重荷である千花が、十字架と重なる。

ここに描かれるような苦しい人間関係に、思い当たる読者もいるのではと思う。引き込まれすぎないように離れたところから読んでいるつもりが、いつの間にか共感して、主人公とともに物語に巻き込まれていく。

現在掲載されているのは前半部分とのこと。後半も楽しみにしています。

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