編集部ピックアップ『おいのちさま』
夏、休舎までの2週間、食用動物〝おいのちさま〟のお世話をする特別授業、『いのちの学び』に取り組むことになった。
ぼくはメスの子ども、〝もも〟のお世話をすることになった。ももは桃色の皮をしためずらしい種だった。最初はこわがられていたが、次第に心を開いてくれた。
いとおしかった……でも、ももは食用動物。『いのちの学び』の最終日には、いのちをいただくことが義務づけられていた。けれど、ももは細くて肉のない子ども。
なぜ食用にするの?
あふれてくる違和感。先生や獣医さんは、〝何か〟を隠しているんだ――。
著:三海 雨三
食に対する大切さを教えてくれる、不穏な雰囲気の小説
今の世の中、スーパーやコンビニに行けば肉から野菜まで何でもそろう。キレイな見た目で、既に加工されたそれらの食材。けれど全ては生きていたもの。
肉は、肉ではなく"牛"や"豚"、"鳥"と呼ばれていた動物だ。喜ぶし、怯えるし、鳴くし、甘える。犬やネコの愛玩動物と何も変わらない。
けれど僕らは食べる。肉となってしまえば、その生前の姿を強く思い出す必要もなく食べる。肉は食材で、食べ物だから。牛などの生き物とは違うと思い込んでいるのかもしれない。
この『おいのちさま』は二週間後に出荷されることが決まっている"おいのちさま"を世話させる"いのちの学び"という学校の課外授業が舞台。そこで生徒は”おいのちさま”と深くふれあい、肉としてではなく生き物として認識し、愛情を芽生えさせていく。
けれど、彼らの出荷は決められたこと。誰にも止められない。
命を食べるという当たり前だけど、現代の日本が忘れかけている大切なことを力強く、そして不穏に伝えてくれる作品。
最後まで読めば不穏も疑問も明確になるでしょう。
作品URL
https://sutekibungei.com/novels/33ef7742-1cf6-445e-bd24-3e7c475ba630
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