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編集部ピックアップ『流線を描いて飛べ』

作品紹介

中学三年生の有馬与鷹は母親からの度重なる虐待と家庭崩壊により、心が壊れていた。母の暴力をきっかけに屈折した殺意をかかえるが、それを大学生の幼馴染、野中響に見つかる。彼女の提案で美の里大学へ逃げることに。
家族とどう向き合うか、どう生きるべきか。その答えにたどり着いた時、物語は大きく流転する。

著:小谷杏子

虐待、家出、からの逆転

 怖い始まりでした。暗くて、恐ろしい物語が待っているに違いない。
 壊れた心が虐待を行い、また心を壊したしまう。歪な関係の家族が生まれ、その中で自分たちは正常だと思い込む登場人物達。「ああ、これは読むのに心が疲れてしまう類いの小説だな」と思って覚悟を決めたのを覚えています。

けれど、そこにスーパーヒーローが現れます。夏休みをキッカケに帰省していた大学生の幼馴染の響。彼女が主人公、与鷹の置かれた状況に気づいて、助けると誓ってくれるのです。

暗い思い雰囲気が彼女の出現で明るい兆しが見えてくる。どこかホッとしながら読み進めると、他にもユニークなキャラクターが主人公を助けてくれるという。響のルームメイトの町田。万年留年の天文部部長、我竜輝。

大学の天文部部室で残りの夏休みを過ごすことになった与鷹は、家を離れて、彼らとの交流の中で自分の置かれた境遇の歪さに気づいていきます。

けれど夏休みはいつかは終わり、学校が始まる。どこかでこの生活に終止符を打たなければならない時が来る。虐待という問題の難しさに改めて直面した与鷹、そして天文部の面々。

果たして与鷹は、幸せを掴むことが出来るのか。

最初から最後まで全力で応援

とにかく僕はこの小説を読んでいて与鷹を応援していました。それを守ろうとする天文部の面々が大好きになり、応援していました。最初から最後まで、彼らの行く末を案じ、悲しくなって、辛くなって、けれども最後はスカッとして。
 第一章がかなり重い内容で、尻込みしてしまった人がいたとしたらもったいない! 是非最後まで読んでみてください。自分も誰かを守ろう。そんな優しい気持ちになれる小説です。

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